新規分野への事業展開

【執筆者紹介】熊坂 治
この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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ものづくりドットコムの熊坂です。

ものづくりドットコムでは当初より登録専門家のセミナーを紹介していましたが、かねてより親交のあった企業のセミナーを3月に案内開始したところ、予想以上に好評だったため、提携企業を増やしてセミナーの案内数を増やしています。

複数企業のものづくり関連セミナーを一か所に集約することで、あちらこちらで探す必要がなくなり非常に便利になりました。現時点で約450件のセミナーを案内していますが、今後も掲載件数を増加し検索機能を充実させるなど、どんどん使いやすくして参りますので、是非ご活用ください。

https://www.monodukuri.com/information/detail/115

さてものづくり革新の手法を一つずつ紹介していますが、今回は「新規分野への事業展開」についてお話します。

製品ライフサイクル

人間だれしも慣れ親しんだパターンで生活した方が楽ちんですが、世の中そうは行きません。学校を卒業して仕事に就き、結婚して子供が生まれ、また成長して学校を卒業し、そのライフサイクルが繰り返されて人類全体として発展していきます。一つの製品についても同様で、生まれたばかりの時は誰も知りませんが、素性の良いものであれば、新しもの好きな人やメディアに取り上げられて売れ始め、宣伝、口コミなどで広まって絶頂期を迎えた後、それに代わる新たな製品が現れることで売れ行きが下がり始めて終焉を迎えます。この一連の動きを製品ライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)と呼び、時間と売上、利益の関係は下の図1のようになります。

図1.製品ライフサイクル

必ずしもこのようにきれいに変化せず、利益を上げないまま衰退する製品もあれば、急激に成長して長い期間成熟期を謳歌する製品もあります。また時間軸が数十年の長期に渡る場合もあれば、1年でサイクルが終了するものもあります。

PPM(Product Portfolio Management)

複数の製品群を扱っている企業では、前記のPLCを資金の流れを考えて組み合わせる必要があります。投資を必要とする導入期の製品ばかりでは資金が不足してしまい、成熟期ばかりだと現時点での利益は好調であっても、いずれ訪れる衰退期の時に、次の利益源が無くなってしまいます。

そこで下図2に示すようなPPM(Product Portfolio Management)というチャートを作成してバランスを分析します。ここで横軸は市場の成長率で、図1のようにPLC成長期は高く、ピークを越えて衰退期はマイナスになります。縦軸はその製品分野における自社の市場シェアであり、相対的に高ければ上象限、低ければ下象限に位置します。

図2.PPM分析

市場成長率の高い導入期や成長期に高いシェアを確保すれば、市場で注目されるポジションであり「花形(英語ではStar)」と呼ばれます。この状態のままPLC成熟期から衰退期になると、投資が不要で新規参入も減るため、利益率の高い「金のなる木(Cash Cow)」ポジションを得る事ができます。

一方で成長期の激烈な競争に敗れ市場シェアが低いポジションは「問題児(problem child)」と呼ばれます。まだ市場が拡大している時は挽回のチャンスがありますが、成熟期、衰退期になるとそのシェアは固定化されることが多く、全く見込みのない「負け犬(Dog)」に成り下がり、撤退しか選択肢が無くなります。そこで金のなる木で生んだ資金を花形に投入し、シェアを下げないようにすることが重要になります。また問題児の状況を見極めて、投資して花形ポジションに上げるか、それともあきらめて撤退するかを判断しなければなりません。

そんなにたくさんの製品群を持っていなくても、新期分野に進出する時には導入期の資金を捻出する方法を考える必要があります。

 

どっちの方向に挑戦する?

新規分野に進出する時には、新しい「技術」に向かう場合と、新しい「市場・顧客」に向かう場合があります。これをロシア出身で米国の経営学者であるイゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)は、図3の「成長マトリクス」として整理しました。

図3.アンゾフの成長マトリクス

現在の技術を現在の市場に提供することでシェアを高める戦略は(A)市場深耕型であり、リスクは小さいもののいずれ成長に限界が来ます。そこで(B)新技術開発戦略で、全く新たな技術・製品を現在の顧客に提供するか、(C)市場開拓戦略で、現在の技術・製品を全く新たな市場に投入するかの決断に迫られます。

もう一つの選択肢として(D)新しい技術を新しい市場に投入する多角化戦略もあるのですが、非常に成功率が低いという報告があり、一旦(B)か(C)を経由した後で向かう方が無難でしょう。そう言われれば理解できますが、つい勢いで(D)に手を出すこともあるものです。

堅実なのは、現在の顧客から製品や技術を要望されてそれに応える場合で、(B)戦略に相当しますが、実現すれば購入者が確定しているだけに、何とかこれには応えたいものです。自社でできないなら、他社から購入したり、ライセンスを受けても良いとさえ思います。

いかがでしょう、参考になりましたか?奥が深いですね。新たな市場としては海外市場も有望であり、海外生産では松村晴彦さんが御専門です。不明の点はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。

この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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