弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、知的財産の相談における「あるある」についてお話したいと思います。
今回は、商標登録についてです。
「商標登録って ネットでちょちょいと調べられるんでしょ?」時々、知り合いの経営者からこんなことを聞かれます。結論から言うと・・・「いいえ」です。専門家でも悩むときがありますので。その理由は次の通りです。
この記事の目次
1.商標調査の目的
商標調査の目的は大きく2つあります。
- A.使用予定の商標が、本当に(合法に)使用できるかを調べる
- B.使用予定の商標が、商標登録を受けることができるかを調べる
調査の観点はいろいろありますが、上記2つに共通するものとして、先行登録商標(商標権が発生している商標)の有無があります。先行登録商標の有無は、J-Planatでも調査可能です。
2.先行登録商標の有無
先行登録商標の調べ方は、以下のようにして行います。
- お客様の希望する商標権の範囲の特定
- お客様が希望する商標を使用した場合に、それは、「ウチの商標権侵害じゃない?」と文句をいわれそうな商標権の抽出
- 抽出した商標の権利範囲を特定
- 商標権侵害の成立の判断
1)と3)の両者がオーバラップしているか否かを判断し、「オーバラップしている ⇒ 侵害成立 ⇒ 使えない」「オーバラップしていない ⇒ 侵害非成立 ⇒ 使える」といった判断をします。
ここで、慎重にジャッジしたいのは1)~3)、すなわち、権利範囲に絡む部分です。そもそも、商標権の侵害は、商標と商標・役務(サービス)のいずれかが非類似であれば、不成立となります。縦軸に商標、横軸に商品・役務(サービス)をとって表に表すと、このように表されます。
商品・役務 | ||||
同一 | 類似 | 非類似 | ||
商標 | 同一 | 侵害 | 侵害 | 非侵害 |
類似 | 侵害 | 侵害 | 非侵害 | |
非類似 | 非侵害 | 非侵害 | 非侵害 |
侵害成立するか否かについては、侵害成立の境界線、つまり、
- 商標が類似か非類似か?
- 商品・役務が類似か、非類似か?
がポイントになることがわかります。しかも、類似・非類似の判断には、画一的にゆかないところがあるので本当に気を使います。とてもとても、ちょちょい とはいきません。しかし、難しいのは商標・商品の類否だけではありません。
3.商品・役務の選び方
ここで問題です。
指定商品「コーヒー豆」と指定商品「コーヒー」。この2つの違いはどこにあると思いますか?
特許庁の見解では・・・
- 商品「コーヒー豆」 ⇒ 焙煎前のコーヒー豆
- 指定商品「コーヒー」 ⇒ 焙煎後のコーヒー豆、 液体のコーヒー
となります(ざっくりいえば、前者は、BtoB、後者はBtoCとなります)。
なので、「焙煎後のコーヒー豆」を販売しているかたは、指定商品「コーヒー豆」と表記したくなっても、指定商品「コーヒー」と表記しなければならない。手間隙かけて、指定商品「コーヒー豆」で権利をとっても、実際の事業で使用している肝心の商標はノーガード・・・と、なってしまいます。
これは、笑えません。
商標権を取得するにあたり、特許庁の方言をかみしめながら、「法律上、自社ビジネスは、どのように表現されるのか?」をよくよく吟味する必要があります。コーヒー豆(焙煎後)を売ってるからといって、
「指定商品「コーヒー豆」で商標登録を受けよう!」
ということは危険なんです。
4.まとめ
1 商標調査の目的
使用可能性の調査と登録可能性の調査の2つがあります。
2 先行登録商標との関係
自社商標の使用行為が、相手の商標権を侵害するか否かは、「商標」と「商品・役務」の2つの観点から検討します。
商品・役務 | ||||
同一 | 類似 | 非類似 | ||
商標 | 同一 | 侵害 | 侵害 | 非侵害 |
類似 | 侵害 | 侵害 | 非侵害 | |
非類似 | 非侵害 | 非侵害 | 非侵害 |
3 同一か否かの判断あれば素人でもできますが・・・
類否判断は専門家でも悩む場合もあります。なお、一次調査として、同一の調査はご自身で行い、そこをクリアーしたものについて、類似の範囲における判断を専門家に依頼する、とすることもよいと思います。
4 商品・役務の指定は意外と難しい
いわゆる「コーヒー豆」であっても、特許庁の方式によれば、焙煎前では「コーヒー豆」の表記となって、焙煎後では「コーヒー」の表記となります。このように、商品の表現の仕方は、特許庁の方言を考慮しないとならないため、よくよく検討されることが必要です。
最後までお読みいただきありがとうございました!
何かの参考になれば幸いです。