海外ローカライズの方法と事例を紹介|BtoB製造業向け

【執筆者紹介】大城竜亮
この記事の執筆者
大城竜亮
会社名:テクノポート株式会社 海外Webマーケティング担当

【経歴】
2002年に琉球大学機械システム工学科卒業後、機械設計者としてパワーステアリングおよびトランスミッションのメーカーに6年、汎用圧縮機メーカーに15年勤め、製品のコンセプト作りから量産化まで推進、国内だけではなく、海外メーカ製のOEMや海外工場への製品移管を実施。
2024年11月より、テクノポートへ入社。
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テクノポートの大城です。日本で販売している製品を海外に展開する際、課題となるのがローカライズです。本記事では製品の海外販売を検討しているBtoB企業が、どのようにローカライズの検討を進めていけば良いのかを解説します。

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製造業におけるローカライズとは

ローカライズとは、製品やサービスを販売する国や地域のニーズや要求に仕様を合わせることです。製品に求める機能や性能は、国や地域によって異なります。これはその国や地域の生活環境や文化、政策、宗教などさまざまな因子が関係してきます。

製造業におけるローカライズの必要性

売れない製品を量産してしまう

ローカライズをしないということはユーザーのニーズに合った製品を作れていないということを意味します。当然、製品の売上は伸びず競合他社に差をつけられることになります。

ローカライズをしないと違法になることに

海外では日本と同じように様々な法規制があります。海外で製品を販売するためには販売する国の安全基準を満たしたり、認証を取得しないと販売できないどころか罰金を科せられる場合があります。

製造業におけるローカライズの種類

4Pの視点で考える

海外に製品を販売するためには、製品の仕様を変えるだけではなく、製品を作る過程や製品を販売するやりかたを変える場合もあります。「何をローカライズしないといけないのか」を把握する手段として、4Pのフレームワークを活用します。

4PとはProduct(製品)、Price(価格)、Place(商流)、Promotion(販促方法)の要素から構成された、マーケティング戦略の基本となるフレームワークです。

Product(製品仕様)

販売する現地のニーズや法規制に合わせて製品仕様を変えることです。例えば以下の内容が該当します。

  • 製品の材料:現地で調達できる材料に変更する
  • 製品の構成:国固有の文化に即した使い勝手に応じた、構成に変える
  • 性能:国によっては規格値として販売するために満たさなければいけない性能が定められている
  • 外観:国によって好まれる色、好まれない色がある
  • 嗜好:日本の伝統的なしょうゆや味噌などの味が、海外では好まれない場合がある

ここで注意すべき点は、製品設計に関わっている人は「できるだけ自社製品を変えずに販売したい」と考えていることです。部品の共通化や在庫の縮減などによるコスト低減を考慮するとこの考えは正しいのですが、大事なのは「ユーザー視点」に立ち「どのような仕様が喜んでもらえるか?」を考えて積極的に設計変更をしたほうが良いでしょう。

Place(商流)

商流は、販売チャネルだけではなく、サプライチェーンも考慮する必要があります。

1.サプライチェーン

加工のための材料や、組立のための部品を現地で調達する場合の商流です。輸出による販売ではなく、現地で加工、組立を行う場合は、現地調達のための材料や部品の調達先を探す必要があります。ほとんどが新規調達先を探すことになるため、調達先の決定要件を明確にする必要があります。

2.販売チャネル

完成品を現地で売る場合の商流です。日本国内と海外では販売チャネルが変わります。新規に参入する場合は販売チャネルを構築する必要があります。

Price(価格)

現地の市場要望価格から販売価格を決めます。市場要望価格は競合他社の販売価格から推測します。そして販売価格と自社製品の原価を比較して利益が確保できるかどうかを確認します。自社の製品を新市場に浸透させるために、まずは市場に合わせた価格で販売したあと、段階的に価格を見直す方法もあります。

販売先に競合が存在しない場合は、ターゲット顧客が製品から得る価値(時間短縮、コスト削減、品質向上など)を考え、それに見合った価格を設定すると良いでしょう。

Promotion(販促方法)

海外での販促手段は基本的に国内と同じになりますが、まずは現地の方の認知を広げるための施策を重点的に行います。そして現地の反応を直接ヒアリングすることが大事です。主な販促方法は以下が挙げられます。

販促方法 購買ファネル 特長 効果 費用
展示会 認知・興味

直接顧客と接触でき関係構築が可能

対面での商談成功率が高い。現地の人の反応や不安を直接ヒアリングすることができる。 高(出展料・渡航費・ブース設営費)
ウェビナー 興味・比較 専門的な情報提供ができ、質の高いリードを獲得 ターゲット層へ効果的にアプローチできる 中(コンテンツ作成・配信ツール費)
SEO対策 認知・興味・比較 長期的に流入を増やし、信頼性を向上 安定した流入増加とブランディング効果 中(コンテンツ作成・SEO対策費)
広告 認知・興味 短期間で多くのリードを獲得可能 即時のリード獲得や販売促進が可能 中~高(広告出稿費用)
SNS 認知・興味 低コストで拡散しやすく、ブランド認知を向上 エンゲージメントを高め、長期的なブランド構築に貢献 低(コンテンツ作成・運用費)

ローカライズで真っ先にイメージできるのはProduct(製品仕様)だと思いますが、その他3つを含めた4つのPを全てバランスよく考慮する必要があります。

どのようにローカライズを進めれたら良いか

3Cの視点で考える

ローカライズは3Cの視点で進めるとわかりやすいです。3Cとは、マーケティング戦略や経営分析で使われるフレームワークで、Customer(顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)の3つの視点から市場環境を分析します。今回は、以下のような視点でローカライズを進めていきます。

  • Competitor:競合調査
  • Customer:現地ニーズの調査
  • Company:自社製品の変更内容を決定

3C分析の詳細についてはこちらの記事が参考になります。

Competitor(競合調査)

自社の製品をどのようにローカライズすれば良いかを知る方法として、最も手っ取り早いのがターゲット地域で販売されている競合他社の製品を調べることです。

対象国で販売している競合を調査する方法としては以下が挙げられます。

  • オンライン調査
  • 企業・専門サイトのレポートを活用
  • SNS・フォーラムで現地の声を確認
  • 現地リサーチ
  • 現地訪問・展示会・業界イベント

調査内容は下記の通りです。

  • 競合他社製品のラインアップ
  • 対象国の競合他社のシェア
  • 競合製品の仕様および自社製品との違い
  • 競合他社が取得している認証および規格
  • 競合他社の特許
  • 競合他社の訴求ポイント

競合他社を調べることは、単に競合製品をまねるだけではなく、差別化を図るための必要な作業です。特に特定の企業のシェアが高い国への販売を検討するときは、競合他社が訴求できないニッチな技術およびサービスが提供できるものがないか検討しましょう。そのためには次の項で説明する現地ニーズを調査しますが、さらに現地ユーザーが認識していないような潜在需要の深掘りも必要です。

Customer(現地ニーズの調査)

ターゲット地域に競合他社が存在しない場合は、下記項目の観点から現地ニーズを調査します。競合他社がいる場合でも、競合他社の製品が現地ニーズに沿っているかどうかを整理できるため、他社製品と差別化するためのヒントとなります。

文化、習慣

売る製品をどのように使うかは、その国の文化や習慣によって変わります。例えば、トイレのウォシュレットは欧米では「トイレットペーパーを使うのが一般的」であり、温水洗浄便座の文化が根付いていませんでした。また、ウォシュレットに必要なトイレの電源設備が整っていない家庭が多かったため、アメリカでは普及が遅れました。解決策として、ターゲットを家庭ではなくホテルや高級レストランに変更し、体験した顧客からの口コミで普及を促進していきました。

各国の文化や習慣を調べる方法は、現地に関わっている人から聞くのが良いでしょう。海外出張や現地視察により現地のビジネスパートナーや顧客との会話から学ぶか、在日外国人または現地の日本語コミュニティのネットワークを活用する方法があります。

環境

気温、湿度の範囲が日本と異なる場合、これらに影響する製品を販売する場合は、製品の温度や湿度の条件をその国に適したものに変更しなければいけない場合があります。また、電源仕様も国によって異なり、その国の電源に合わせた製品を設計する必要があります。

言語

日本ではなじみのある名称であったものが、海外ではなじみがなかったり、逆に言語的に不適切であったりする場合があります。例えば、三菱自動車の「Pajero」は、スペイン語圏ではスラング(侮辱的な意味)が含まれていたため、南米やスペイン向けには「Montero」に変更されています。

商流

1.サプライチェーン
現地で組立および加工をする場合は、対象国にどのようなサプライヤーや材料メーカーがあるか調査をします。現地で調達できる場合はその分、日本から輸送する場合のコストがかからないため、製品原価を低く抑えることができます。

2.販売チェーン
商流は海外進出の方法によって検討する項目が異なってきます。
輸出販売の場合:日本の輸出商社か、現地の輸入業者に商品を輸出する場合と、現地の代理店に輸出する場合があります。この場合、輸出および輸入業者、現地の代理店を探す必要があります。
日本の輸出商社、現地の輸入業者、現地の代理店を探す方法は以下が挙げられます。

業者 探す方法
現地の輸入業者

・JETROや現地の商工会議所
・国際展示会
・オンラインB2Bマーケットプレイス
Alibaba.comGlobal Sources

日本の輸出業者

日本貿易会で商社リストを確認
e-Venue(ジェトロ貿易防止ビジネス情報)やイプロス製造業で日本の輸出商社が登録しているサイトを活用

現地の代理店

・JETROの支援サービスを活用
・在外日本商工会議所(JCCI)の活用
・現地の競合企業が利用している代理店を調査
・LinkedIn・B2Bプラットフォームの活用
・現地市場のリサーチレポートを活用

現地法人または現地工場設立による販売:
状況によっては、現地法人を設立しないといけない場合があります。以下にその事例を紹介します。

対象国 現地法人を設立しなければいけない場合

中国

製造業・Eコマース・一部のサービス業は現地法人が必要(外資企業の単独進出が制限される場合もある)

インド

小売業やEコマース業では、100%外資企業は単独で事業展開できず、現地法人や合弁会社が必要

UAE(ドバイ)

特定の業種では100%外資の現地法人設立が認められず、現地パートナー(51%以上の株式を保有)と合弁会社を設立する必要がある

サウジアラビア

建設業・石油関連事業は、現地企業との合弁または現地法人設立が必要

ベトナム

小売業・物流業は100%外資企業の参入が制限されており、現地法人設立が求められる

米国

政府系の調達案件では、米国内に法人を持つ企業のみが入札可能な場合がある

EU各国

公共事業の入札では、EU域内に拠点を持つ企業が優遇される

タイ・インドネシア

消費財・工業製品の販売では、現地法人を設立しないと、現地ディストリビューターとの契約や営業活動がスムーズに進まない

フランス・ドイツ

支店や駐在員事務所での営業活動が一定以上の売上を超えると、現地法人設立が必要になる

中国

支店や駐在員事務所での営業活動には制限があり、営業行為を行う場合は現地法人が求められる

法律

海外市場向けに製品をローカライズする際には、以下の法律面を慎重にチェックする必要があります。

  • 安全認証(CE、FCC、UL、CCCなど)
  • 環境規制(RoHS、REACH、WEEEなど)
  • ラベル・説明書(言語・成分表示・原産国)
  • 知的財産権(商標・特許・デザイン登録)
  • 消費者保護法(保証・返品対応)
  • 貿易規制(関税・輸出入規制)

宗教

製品を海外市場に展開する際、宗教的な価値観や習慣に配慮しないと、ブランドの評判や売上に影響を及ぼす恐れがあります。特に、食品・化粧品・アパレル・広告表現などの分野では、各宗教の教義や戒律に適合することが求められます。以下に、宗教面での実際の変更事例を紹介します。

変更項目 宗教・対象国 対応内容

食品の成分変更

イスラム教(マレーシア・インドネシア)

ハラール認証を取得し、アルコール成分を含まない調味料に変更

ベジタリアン成分

ヒンドゥー教(インド)

日本のカレールー企業が牛肉エキスなしのレシピ開発

化粧品の成分変更

イスラム教(中東)

豚由来成分フリーのスキンケア商品を販売

販売時間の変更

イスラム教(中東)

ラマダン期間中は日没後に営業強化

広告デザイン変更

イスラム教(中東)

肌の露出が少ない広告に変更

宗教的シンボルの使用制限

ヒンドゥー教(インド)

神のイラストを含むTシャツの販売を中止

現地ユーザーが認知していない潜在需要

現地ユーザーが認識していないような潜在需要の深堀りをすることで、ユーザーに対してより付加価値の高い製品を供給することが可能です。潜在需要を調べるには、以下の方法があります。

  • ターゲット顧客にインタビューを行い、現在の不満や未解決の問題を発見する
  • JETROや現地商工会議所を活用して、現地の企業担当者にインタビューする
  • UserTesting などのリサーチプラットフォームを利用する

Company(自社製品の変更内容を決定)

競合調査や現地ニーズの調査結果が揃ったら、その結果と自社製品を比較することで、何を変更しなければいけないのかが明確になります。
変更する内容は先に紹介した4Pの種類から挙げていきます。

また、変更内容は競合他社と市場ニーズに満足していれば全て良いわけではなく、他社に対して差別化した訴求ポイントを持っていることや、現地ニーズが把握していない潜在需要に応えた製品やサービスを提供することで、より海外で競合と戦える製品の販売ができるでしょう。

BtoB製造業のローカライズの事例

1.注意ラベル表示の国別対応
電気機器などに使用している、高温注意や感電注意、挟み込み注意などの注意ラベルは、販売する国の言語に修正する必要がありましたが、対象国が増えるほど多言語に対応しなければならず、ラベルの種類が増えることによる版下コストの増加が課題でした。そこで、あえて文字をなくし、注意アイコンのみとすることで、他地域に対応できるようにしました。

引用元:https://www.safety.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/pl_catalog.pdf

2.エアコンの周囲温度変更と防塵性向上
中東地域では、日本よりも比較的砂塵が多い環境でエアコンの故障が多発していました。また、夏季の気温が50℃を超える地域が多いため、以下の変更をしました。
・フィルターの目詰まりを防ぐ防砂フィルターを搭載
・コンプレッサーの冷却性能を向上させ、50℃越えでも安定稼働できる
このように設計変更をしました。

まとめ

今回は以下の点について解説しました。

  • 海外に製品またはサービスを販売する場合はローカライズが必要になる
  • ローカライズをしない場合は製品が売れないどころか違法による販売停止を招く恐れがある
  • ローカライズの種類は4Pの視点で考える
  • 現地調査および自社製品との差異は3Pの視点で考える

本記事が、海外進出の一助になりましたら幸いです。

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会社名:テクノポート株式会社 海外Webマーケティング担当

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