品質マネジメントとそのコスト

【執筆者紹介】熊坂 治
この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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ものづくりドットコムの熊坂です。

先日久しぶりに東大ものづくり経営研究センターの藤本隆宏先生の講演を聞いてきました。毎回漫談のように面白く製造業関係者が元気になるお話ですので、機会があれば皆さんも聴講されることをお勧めします。

2時間の話を3行にまとめると、

「冷戦が終了して新興国が競争に加わった90年代は、賃金レベルが20分の1というあり得ないハンディキャップだったが、その後差異が縮小し、2010年くらいからD.リカードの比較優位論が成り立つ正常なグローバル競争時代に入った。」

というものです。

競合以上に生産性を改善すれば発展できるということですので、みんなで挑戦して参りましょう!

さてものづくり革新の手法を一つずつ紹介しておりますが、今回は「品質マネジメント」についてお話します。

品質マネジメント

どうしてタイトル名が「品質管理」ではなく、「品質マネジメント」なのかというと、「品質管理」が広義では品質に関連する活動全般を指すものの、狭い意味では悪い製品を選り分けて出荷しない活動だからであり、英語にすると前者がQuality Management、後者はQuality Controlです。和訳するといずれも「品質管理」となってしまうために、ここでは全体活動の方を品質マネジメントと呼びます。

品質マネジメントには品質保証、品質管理、品質改善の大きな三つの要素があり、さらに下図1のような多くの業務からなりたっています。大きな企業では、それぞれが個別の担当者や部署によって運営されますが、小さい組織では品質保証と品質管理が同じ部署だったり、あるいは製造部の誰かがこれらの業務をこなしていたりします。

それは組織にとっての重要度に因りますから構わないのですが、たとえ10名の会社だったとしても、これらの業務があるということを認識して責任者を決めて、その人が注意していることは必要でしょう。

品質マネジメント業務

図1.品質マネジメント業務

品質の分類

品質分類の仕方にもいくつかあり、その一つを図2に示します。まず初めにユーザーが期待する要求品質があり、それに対して自社が応えようと決定した狙いの品質があり、さらにその狙いに対して製品の出来ばえの品質があります。

図2.品質の分類例

図2.品質の分類例

これらがすべて同じレベルであれば素晴らしいのですが、一般には(1)>(2)>(3)となります。(2)<(3)というケースは滅多にありませんが、市場はあらゆる要求を自分で把握しているとは限りませんので、(1)<(2)というケースはしばしば発生し、感動をもって市場に受け入れられます。紙おむつなど一部の日本製品が海外で絶賛されるなどの例がそれにあたるでしょう。

また製造品質については、経時変化も考慮したばらつきを含めて評価する必要があります。いくら製品の平均品質が高くても、ばらつきの幅が大きいと満足度の低い顧客が現れてしまいます。ばらつきによって一部が設計を大幅に超える品質を示しても、満足度が上がるとは限りません。ばらつきを小さく抑える技術が企業の実力と言えます。

品質のコスト

品質コストというと何をイメージするでしょう?不良品を出した時の損失や手直し費用であれば不良対応コストに分類され、不良を出した後に発生するものです。一方品質コストには、不良を出さないための予防、改善コストや、不良を見つけるための検査コストも含まれ、両者を足したものが総合品質コストとなります。

当然それが最少になるようにしたいわけです。横軸に良品率、縦軸に品質コストをとって図示すると図3のような二つのモデルが考えられます。いずれも良品率が上がると不良が減りますから対応コストが減少し、そうするために検査+予防コストが上がるという点で共通ですが、その傾きが違うため品質に対する考え方が違ってきます。

左のモデルではある良品率の時に総合コストが最少となり、右のモデルでは良品100%の時に最少となります。右がゼロディフェクト運動の根拠となっていますが、皆さんはどちらを支持しますか?

これは何を作って、それがどんな使われ方をするかに大きく関わってきますから、一概には決まらないと同意してもらえるでしょう。検査+予防コストに比べて不良が起こった時のコスト(損害)が極めて大きければ右の図に近づき、不良が発生してもほとんどコストが発生しないのであれば左の図で、最少コスト良品率のポイントも左の方に移動していきます。

現実的には不良を一切出さないようにするには莫大な労力=コストがかかります。仮に右のモデルに近いとしても、例えば不良率0.1PPMといった良品100%に極めて近い部分に最少ポイントがあることとなり、実質的にゼロディフェクトを目指すことになるでしょう。

図3.品質コストの考え方(左:古典モデル 右:TQMモデル)

図3.品質コストの考え方(左:古典モデル 右:TQMモデル)

いかがでしょう?奥が深いですね。品質マネジメントの分野では高崎ものづくり技術研究所の浜田金男さんが第一人者です。不明の点はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。

この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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