製品安全よもやま話

【執筆者紹介】熊坂 治
この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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ものづくりドットコムの熊坂です。

3Dプリンターをネットで接続して生産改革を謳っていたカブク社が、双葉電子工業に買収されたというニュースを先月下旬受け取りました。またリクルートが手掛けていた、IoT起業支援サービスであるブレインポータルも事業を停止したようです。いずれも社会的に意義ある事業であり、将来的には収益化が見込まれますが、いかんせん立ち上げに相当の資金と経験値が必要です。
こうやって社会としての経験値が高まっていきますから、傍観者に徹しないできっちり動静を観察して、自分の組織でやるべきことを、今から準備していく必要があります。

さてものづくり革新のキーワードを毎回一つずつ紹介していますが、今回は「製品安全」についてお話します。

製品安全の歴史

7月に寄稿した環境マネジメントと似ている点があり、昔は製品安全もある意味大らかだったのですが、社会が進化していく過程で消費者保護の重要性が拡大してきました。
明治時代以来の富国強兵、第二次世界大戦後の高度成長時代は、産業の発達が社会の豊かさに必須の時代で、ある種末端消費者の安全は二の次とされてきました。製品構造自体も比較的シンプルで、善悪の見極めが直観的に判断できた点でも古き良き時代と言えるでしょう。
80年代ころから製品が複雑化して想定外の事故が起こり始め、また生活が豊かになり消費者の地位が向上するにつれて、単なる物質的豊かさだけでなく、安全安心に対する要求が強まってきました。
政府としてもその流れを受けて、次項にあるような法律の整備などを進めてきたわけです。

製品安全に関する規制

前記の経緯を踏んで、下記のような法律が制定されています。一人の消費者としてこれらの恩恵を受けている一方で、製造業の立場としてはこれら複雑怪奇な決まりを遵守する義務があるわけです。

(1)製造物責任(PL:Product Liability) 法

製品の欠陥によって身体的損失を受けた場合に、生産者などが補償する義務を規定します。以前は必要だった被害者による生産者の過失証明は不要ですので、訴訟の障壁が大きく軽減されました。

(2)消費生活用製品安全法

消費生活用製品による一般消費者の怪我、火傷、死亡などの人身事故発生防止を目的として制定されました。
乳幼児用ベッド、乗車用ヘルメットなど政令で指定された製品で基準を満たしたものには、PSC(Product Safety of Consumer Products)マークが認定され、それ以外は販売できません。
これとは別に乳幼児用品、スポーツ用品、台所用品など危害を与えるおそれのある製品分類に対して、基準を満たした製品を認定するSG(Safety Goods)マークもありますが、こちらは必須ではありません。
また重大事故が発生した場合の報告、回収義務も規定されています。

(3)電気用品安全法

電気用品の安全性を製造販売両面から確保するために制定されました。電気温水器、電気ポンプなど116品目の特定電気用品を製造、販売する場合は基準適合検査を受ける必要があり、その証拠としてPSEマークを表示します。

いずれの法律も正確に守ろうとすると、コストが大幅に上がったり、設計困難になる場合すらあるようで、どこまでやれば良いかのグレイレベルは検査官にもよるらしく、初めての場合は経験者、専門家のアドバイスを受けることを勧めます。

製品を安全に設計する方法

製品が通常状態で人に危害を与えることは滅多にありません。製品側に何らかの異常が発生するか、使用者が想定外の使い方をした時に、事故が起きます。だからといって事故が許されるわけではないので、これらの異常が起こる前提で製品を設計する必要があり、次のような方法が一般的に使われます。

図1.製品安全を実現する方法

(1)フェイルセーフ

製品が故障した時にまず動作が停止するのが原則ですが、その時安全側で停止するように設計することです。例えば電磁バルブは、電気が切れた時に開くタイプと閉じるタイプがあり、使用箇所によって使い分けます。ほとんどのケースで閉じる方が安全側です。自動機は停電が解除された時に突然動き出さないように、スタートボタンを再度押さないと動かないように設計します。

(2)フールプルーフ

作業者が誤使用しようとしてもできない構造に設計することです。生産設備で言えばプレス機に指を挟まれないように、二つの離れたボタンを同時に押さないと動作しないようにして、両手の安全を確保するなどです。最近のアクセルとブレーキの踏み違え事故に対して、思い切りアクセルを踏んでも反応しない設計もその一種と言えます。

(3)インターロック

機械動作中は危険な部位に人が近寄れないようにしておく設計です。駆動部分をカバーで覆い、カバーを取ると動かないようにするのが典型です。このインターロックには、A:安全を確認して動作、B:危険を検出して停止の2タイプありますが、Bの場合は検出するセンサーが故障すると機能しませんから、Aタイプで設計した方が安全性は高まります。

いかがでしょう、参考になったでしょうか?製品安全分野は経験がものを言います。ものづくりドットコムでは、田口宏之さんがこの分野の専門です。図1は田口さんの記事から引用しました。不明の点やご相談はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。

この記事の執筆者
熊坂 治
山形県生まれ
東北大学工学部(応用物理学科)を卒業後パイオニア(株)に入社し、基礎研究、プロセス技術、生産技術、製造技術、工場計画、技術営業、事業開発など広範に担当。
2008年に経営工学部門、2009年に総合技術監理部門と技術士資格を取得し、退社後技術士事務所を開設して、品質工学をコンサルティング。
2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、2012年にWebサイト「ものづくりドットコム」を公開。多くの専門家と協力しながら製造業のプロセス革新と課題解決を支援している。
博士(工学)、技術経営修士(専門職)、山梨学院大学客員教授(技術経営論)
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