中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。
この記事の目次
輸入品販売を行う際に気を付けたいこと
外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。
日本に輸入できない商品って何?
日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。
- 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
- 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
- けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
- 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
- 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
輸入販売についてよく相談を受ける内容
輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。
さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。
- パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
- パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?
パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。
パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?
さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?
(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?
それとも、
(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?
いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。
輸入販売を行う際、忘れがちな内容
輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。
「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、
(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること
(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。
といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。
商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。
また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。
さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。
このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。
輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容
前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。
「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由
商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。
商標権侵害による致命的なインパクト
さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。
「商品から商標を剥がす」って何?
侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。
差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?
差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。
商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?
このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。
輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)
前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。
- 日本において、他の代理店を認めるか否か
- パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
- パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
- パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
- パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
- パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
- パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
- 商標権が消滅したときのペナルティの有無
- 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)
以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。
まとめ
- 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
- 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
- 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
- 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
- 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。
このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。