テクノポートの徳山です。当記事では、製造業が自社の既存技術・製品を新規市場へ展開していくための具体的な方法と事例をご紹介します。
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この記事の目次
新規市場開拓を実現した製造業の事例
次に、自社技術を使い新規市場開拓に成功した3社の中小製造業の事例をご紹介します。
株式会社星製作所(精密板金加工業)
出典:株式会社星製作所
精密板金加工業を営んでいる株式会社星製作所は、もともとは社会インフラ関連機器に使用される板金加工を生業としていましたが、リーマンショックを機に仕事量が激減してしまいました。
当時、社長に就任したばかりだった星社長は、状況を打破すべく新規事業として、セミオーダーで板金ケースを発注できる事業を開始し、「板金ケース.com」を立ち上げました。
板金加工技術をIT業界の市場向けに展開
板金ケース.comは、立ち上げてから大きな広告予算を投じることもなく、板金ケースを必要としていたサーバ製造メーカー、SIer、ITベンチャー企業などに支持されるようになりました。
多くの板金加工企業は、図面がないと仕事を受けないケースが多かったり、オンラインでのコミュニケーションに慣れていなかったりすることもあり、普段製造業と仕事をする機会の少ないIT企業にとって、仕事を依頼するハードルが高いものがありました。
そこで、板金ケース.comでは、図面がなくても発注ができるようセミオーダー化、リアルコミュニケーション不要のオンライン完結する仕組みを作ることで、顧客のニーズに強くフィットしました。
川上展開により競争優位性をさらに高める
事業を進める中で、顧客の要望としてフルオーダーの板金ケースを求める声が増えていきます。顧客の多くが設計部門を持たないIT企業だったため、筐体の設計ができず困っていることが分かりました。そこで星社長は、設計機能の内製化を決断します。数名の町工場が設計部門を持つことは大きなリスクを伴いましたが、川上展開により競争優位性をさらに高めることができると考えたのです。
結果、この施策も多くの顧客に受け入れられ、事業拡大に貢献しました。また、筐体設計だけアウトソーシングしたいというニーズに着目し「筐体設計.com」という新サービスの立ち上げにもつながりました。
株式会社富士産業(金属金物製作事業)
出典:株式会社富士産業
株式会社富士産業は、主力としていた鋼材販売業の先行きを危惧し、新規事業として金属加工業へ進出を考えていました。しかし、工業部品の金属加工の分野では本業の顧客とバッティングしてしまう懸念があったため、工業分野以外で自社が進出できそうな分野を模索しました。
その中で、新規事業を推進していた杉本常務が目を付けたのが、他社が仕事を受けたがらない、一般消費者やデザイナーからの仕事です。
金属加工技術を個人・デザイナー向けに展開
Webマーケティングの実施により多くの見込顧客を開拓した杉本常務でしたが、顧客から寄せられる要望は、「図面なしで加工対応してほしい」「金属と皮革を組み合わせた品物を作ってほしい」など、自社だけでは対応できないものばかりでした。
そこで、顧客の要望に何でも応えられるよう、葛飾区という立地をうまく活用し、異業種の町工場ネットワークを構築しました。見込顧客のニーズに提供サービスをフィットさせることで、多くの顧客開拓に成功しました。
当初想定していなかった分野へも市場が広がる
当初ターゲットとしていたのは、一般消費者やデザイナーでした。しかしマーケティングを続けた結果、ホテル、ブティック、お寺、設計事務所、デザイン事務所、大手メーカーといった、さまざまな業種の顧客を獲得することができました。
共通するニーズは、「図面がなくても加工を請け負ってほしい」「異素材でも一社ですべて対応してほしい」「気軽にものづくりを頼める工場を探していた」というものでした。サービスを市場にフィットするよう磨き込んだ結果、共通するニーズを持つ異分野の顧客にまで自然と広がっていったのです。
株式会社アデムカ(発泡スチロール加工業)
出典:株式会社アデムカ
発泡スチロール加工業を営む株式会社アデムカは、鮮魚を運ぶために使われるトロ箱の製造を生業としていました。しかし、時代の流れとともに市場は縮小傾向となり、それに危機感を抱いた澁谷社長は発泡スチロール加工を他の用途へ展開できないかと考えました。
自らの足を使い、用途を探し回った末にたどり着いたのが、企業がイベントや展示会の時に使うオブジェやパネルといった販促品市場への展開でした。
加工機を独自開発するなど優位性を構築
新規参入した市場で発泡スチロール造形を行っている競合他社の多くが、手仕事で造形を行っていました。しかし、見込顧客は発泡スチロールに対し安価に製造ができるイメージを持っていたため、機械化を行いコストを抑える必要がありました。
顧客の要望に応えるために、澁谷社長は3Dの造形物を加工できる機械を独自で開発するとともに、機械を動かすための3Dデータ作成の業務を内製化することで顧客のニーズにフィットさせていきました。当事業は多くの顧客に支持され、今では会社の売上のほとんどを新規事業が稼ぎ出しています。
コロナ禍では工業向け市場にも展開
事業を順調に拡大させていた当社でしたが、コロナ禍に入り状況は一変します。主力としていた販促品の需要が激減したのです。販促品の多くがイベントや展示会で使われるものでしたが、コロナ禍の影響でそのほとんどが自粛となってしまったためです。
危機を脱するために、外部環境に影響を受けづらい工業向けの市場へとターゲットを広げました。具体的には、緩衝材やモックアップ(デザインモデル)、検査治具などといった工業製品です。機転の利いた取組が功を奏し、激減した問い合わせを工業系の問い合わせで埋めることでコロナ禍の危機を乗り越えることができました。
株式会社グリムファクトリー(特殊印刷業)
UVインクジェット、シルクスクリーン印刷、パット印刷、レーザー刻印、工業用塗装などを手掛けるグリムファクトリーは、さまざまな印刷技術を駆使し特殊印刷を行っている会社です。その技術をさらに強化し、金属などのデジタル印刷が剝がれやすい材質に対し、剝がれないデジタル印刷技術(特許取得済み)を開発しました。しかし、技術は確立できたものの、その技術の活かしどころがうまく見つからず、Webを活用することで用途を見つける取り組みをスタートしました。
機能性に着目しさまざまな切り口で訴求
「剝がれない」と一口に言っても、それだけではユーザーへのメリットにはなりません。剝がれやすい材質は何なのか、はがれにくいことでどのようなメリットが生まれるかなど、「剝がれない」という機能性を分解し、Webで訴求できるように組み立てました。また、用途が自社だけでは見つけづらいため、アイディア募集のためのクラウドソーシングも活用しました。
多くの引き合いを獲得し、新たな用途を見出すことに成功
「剝がれづらさ」を対候性の観点から屋外看板の用途に展開したり、高級感のある金属壁画や金属屏風に展開したりするなど、自社だけでは見出すことができなかった用途を機能性軸で訴求することで新たな用途を開発することに成功しています。実績を作ることでさらに訴求力と認知度が高まるため、さらなる売上の拡大が期待できます。
荒川技研株式会社(樹脂切削加工業)
出典:荒川技研株式会社
試作を主とした樹脂切削加工業の荒川技研は、アミューズメント系の仕事が大半でした。アミューズメント系の案件は下降傾向だったため、新規の顧客開拓は必須で、展示会、商談会、Webなどさまざまな営業に取り組んでいました。
アクリル透明化に可能性を見出す
Webや展示会での顧客の反応から、アクリル透明製品の反応が良いことに気づきました。顧客の求めているのは単に樹脂を切削することだけではなく、切削した樹脂の透明性に興味があり、透明化した樹脂を展示会のモデルや、中に水などを流し流動解析をするなどの用途があることがわかりました。そこで、透明化ニーズのユーザーが気になるであろう「透明度」の数値化、透明化させるために技術の研究などを行い、アクリルなどの透明化できる樹脂ページでの訴求を行いました。その結果、狙ったユーザーからの定期的な引き合いの獲得に成功しました。
樹脂試作・アクリル可視化・特殊材切削など多様な切り口で数多くの顧客を獲得
他にもさまざまなマーケティング施策を立て、Web上でPDCAを回すことでこの10年で数百社の顧客開拓に成功、アミューズメント系の業種に偏っていた売上比率を、多種多様な業種に分散させることができました。今後もさまざまな仮説を立て、新しい切り口を設けるマーケティングの仕組みができているため、多くの引き合いを獲得することが期待できます。
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製造業の新規市場開拓の進め方
製造業における新規市場開拓は、自社の既存技術・製品の新たな用途を見出すことで、これまでに開拓してこなかった分野へ商圏を広げることを目指します。以下より、新規市場開拓を進めるための具体的な手順を紹介します。
新市場へ展開する技術・製品を選定する
既存市場は十分に市場開拓ができているが、他の有望市場(用途)への展開が期待できそうな技術・製品を選定します。
MFTフレームワークを使い用途仮説を考える
選定した技術・製品をMFTフレームワークを活用し、用途仮説を考えていきます。MFTとは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の略で、市場と技術の間にある機能に着目することで、技術の活用が可能な市場を幅広く検討できるフレームワークのことを示します。
MFTフレームワークの詳細について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
なお最近では、ChatGPTで壁打ちしながら進めることをおすすめします。
- 〇〇技術の活用が期待できる用途にどのようなものがあるか?
- 〇〇技術の競合技術にはどのようなものがあるか?
- 〇〇技術が持つ機能にはどのようなものがあるか?
などといった質問を投げかけながらMFTフレームワークを埋めると効率的です。
用途仮説を評価する
MFTフレームワークにより導き出した用途仮説を以下の評価軸で評価していきます。
市場性の評価
用途仮説における市場がどれぐらいの規模かを評価します。市場規模は大きいに越したことはありませんが、それ以上に重要なのは、自社が狙う市場として規模感が適正かどうかを見極めることです。中小企業の場合、大きい市場だと大手企業の参入リスクが高まるため、ニッチな市場を選択することをおすすめします。
競合性の調査
狙う市場の競合性(競争相手の多さと強さ)を評価します。なるべく競合性の低い市場を狙うことが望ましいです。地域性(物理的な距離がビジネスの勝敗に影響する場合)が求められる場合は、自社が属するエリアに競合がどれくらいいるかにも留意するとよいでしょう。
独自性の評価
最後に自社技術・製品が、競合他社と比べて独自性を有しているかを評価します。独自性とは、他社が真似できない自社独自の強みのことを指します。分かりやすいのが特許技術などを持っている場合などです。
テストマーケティングの実施
テストマーケティングを実施し、見込顧客を捕まえて商談を行います。BtoB製造業の場合、インタビューやアンケートといった手法でニーズ調査を行うことが難しいため、少額の予算でも構わないので、まずは見込顧客との接点を作り会話の機会を作ることが大切です。
Webマーケティングであれば、簡易的なLP作ったうえでリスティング広告を打ってみる方法なら50万円ほどの予算で実行可能です。
新市場へ受け入れられるよう技術・製品を改良
商談した見込顧客の声を聞きながら、市場に受け入れられるよう技術・製品を改良していきます。目指すのは「顧客が満足する技術・製品を、最適な市場で提供できている状態」です。
市場に受け入れられていない状態でマーケティング予算を投じても、商談獲得コストが高くなったり、いくら商談しても受注に至らなかったり、広告対効果が合わないため注意が必要です。
本格なマーケティングの実施
技術・製品を、ターゲットとする市場で受け入れられ、顧客の高い満足度を確保できる状態に到達したら、新市場に対し予算を投じて一気に攻めます。
高まる新市場開拓の必要性:EV化に伴うサプライヤーへのアンケート調査
現在、サプライヤーが直面している大きな課題として、自動車のEV化に伴う部品点数の減少が挙げられます。一部抜粋した意識調査をもとに、新市場開拓の必要性について紹介します。
■調査概要
調査概要:自動車製造業のEV普及に関する意識調査
調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット調査
調査期間:2023年9月27日〜同年9月28日
有効回答:自動車部品の製造を行う企業の経営者・役員・経営企画103名
「Q2.あなたのお勤め先では、取引先(自動車メーカー)から、電気自動車(EV)の部品製造への対応を迫られていますか。」(n=103)と質問したところ、「非常にそう思う」が26.2%、「ややそう思う」が49.5%という回答となりました。
「Q3.あなたは電気自動車(EV)の普及によって、10年後、現在の売上を維持できなくなるという不安を感じますか。」(n=103)と質問したところ、「非常に感じる」が20.4%、「やや感じる」が42.7%という回答となりました。
Q3で「非常に感じる」「やや感じる」またはQ4で「非常に感じる」「やや感じる」と回答した方に、「Q5.売上または雇用維持への不安に対する打開策として、検討している取り組みを教えてください。(複数回答)」(n=70)と質問したところ、「新市場の開拓」が58.6%、「EV部品製造のための技術開発」が50.0%、「自社製品の開発」が27.1%という回答となりました。
Q5で「新市場開拓」と回答した方に、「Q7.新市場開拓を行う上での課題を教えてください。(複数回答)」(n=41)と質問したところ、「自社技術が他のどの業界にニーズがあるのかわからない」が51.2%、「新市場での販売チャネルや流通経路の確立が難しい」が41.5%という回答となりました。
以上、製造業が新規市場開拓を進めるための手順と事例をご紹介しました。テクノポートでは、製造業の新規市場開拓をデジタルマーケティングにより支援しています。新規市場開拓に課題を抱えている方はお気軽にご相談ください。
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