製造業でもAI翻訳は使えるのか。校正サービスでの検証結果を公開

【執筆者紹介】山下 展義

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この記事の執筆者
山下 展義
経歴
エネルギー分野のエンジニアとして10年間、小規模工場の省エネ提案や大規模プラントの蒸気システム診断、セミナー講師、バイオマス発電プラントの設計・建設プロジェクトを経験。また、個人で工業技術ブログを運営し、500本以上の記事を執筆。最高月間20万PVを記録し、YouTube登録者2万人、Xフォロワー8,000人を突破。

現在はテクノポート株式会社で製造業向けの海外Webマーケティングを担当。エンジニアリングの知見と情報発信力を組み合わせ、企業の販路拡大を支援している。

保有資格
エネルギー管理士(熱)、第三種電気主任技術者

SNS
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海外展開や外国人人材の活用が進む中、製造業において多言語対応は避けて通れない課題となっています。

しかし、翻訳にかかるコストや時間、品質への不安から十分に対応できていない企業も少なくありません。そんな中、最近では生成AIの進化により、AI翻訳の精度が大きく向上し、製造業の実務でも活用しやすい環境が整ってきました。

本記事では、AI翻訳とは何か、製造業でのメリットや具体的な用途、注意点までをわかりやすく解説します。

AI翻訳とは

AI翻訳とは、人工知能(AI)を活用して文章を自動的に別の言語へ翻訳する技術です。

深層学習(ディープラーニング)や生成AIにより、単語の置き換えではなく文脈を踏まえて訳せるため、直訳調になりにくく自然な表現になりやすい点が特徴です。

近年はChatGPTやDeepL、Google翻訳などの進化で精度が高まり、製造業でも製品カタログ、仕様書、作業手順書、保守マニュアルなどの多言語化に活用が広がっています。

機械翻訳との違い

従来の機械翻訳は、あらかじめ定められたルールや統計データをもとに単語や文を変換する仕組みが中心でした。

そのため文脈の理解が弱く、専門用語や長文では不自然な直訳になりやすいという課題がありました。

一方、AI翻訳は深層学習や生成AIを用い、文章全体の意味や前後関係を理解しながら翻訳します。その結果、人が書いたような自然な表現や業界文脈を反映した訳文が可能となり、製造業の技術文書やビジネス文書にも対応できるようになっています。

これらの違いをまとめると以下の表になります。

項目 機械翻訳 AI翻訳
定義 ルールや統計に基づく自動翻訳 AI(深層学習)による自動翻訳
主な技術 ルールベース翻訳、統計的翻訳 ニューラルネットワーク、生成AI
文脈理解 文単位が中心で弱い 文書・会話全体の文脈を理解
自然さ 直訳的で不自然になりやすい 人が書いたように自然
学習・改善 事前定義が中心 データ学習により継続的に向上
代表例 初期のGoogle翻訳、古い翻訳ソフト ChatGPT、DeepL、最新のGoogle翻訳

DeepLについてはこちらの記事も合わせてご覧ください。

AI翻訳を製造業で利用するメリット

製造業においてAI翻訳を活用することで、以下のような可能性が拡がります。

新たな市場を開拓できる

AI翻訳を活用すれば、製品カタログやWebサイト、技術資料を迅速に多言語化でき、海外顧客への情報発信が容易になります。これまで言語の壁によってアプローチできなかった地域や業界にも展開しやすくなり、輸出や海外取引の拡大、新規市場の開拓につながります。

  • 海外向け製品カタログ・技術資料の即時多言語化
  • 海外Webサイト・ECサイトのローカライズ展開
  • 海外顧客向け技術サポートの多言語化など

外国人人材への対応ができる

製造現場では外国人技能実習生や海外エンジニアの受け入れが進んでいます。

AI翻訳を用いて作業指示書や標準作業書(SOP)、安全マニュアルを多言語化することで、業務理解の向上やヒューマンエラーの防止が期待できます。教育やコミュニケーションの効率化にも有効です。

  • 作業指示書・標準作業書(SOP)の多言語化
  • 安全マニュアル・危険予知(KY)資料の多言語対応
  • 新人教育・技能教育の効率化など

顧客満足度の向上につながる

海外顧客に対して、操作マニュアルや保守マニュアルを適切な言語で整備することは、顧客満足度の向上に直結します。

AI翻訳を活用すれば、製品の操作方法や注意点を迅速に多言語化でき、利用者が内容を正しく理解しやすくなります。

  • 操作マニュアル・保守マニュアルの多言語化
  • FAQ・トラブルシューティングの整備など

 製造業の翻訳に適したAI

製造業でAI翻訳を使う際は、「どのツールが最も優れているか」よりも、自社の用途に合うか/運用しやすいかで選ぶのが現実的です。

最近は生成AIの精度が全体的に上がっており、主要なツール同士で「翻訳そのものの品質差」は以前ほど大きくありません。

一般的には以下の表のような使い分けがされています。

名称 概要
ChatGPT(OpenAI) 文脈を踏まえた自然な翻訳、言い換え・トーン調整、要約しながらの翻訳、会話文・ビジネス文書
Claude(Anthropic) 長文翻訳、多言語対応、論理構造を保った翻訳、社内文書・レポート
Gemini(Google) 慣用句・スラングの解釈、Google系ツールと連携した翻訳
Microsoft Copilot Word/PowerPointなど業務文書の翻訳、社内資料の体裁維持
DeepL 翻訳精度と自然さ、文書ファイル翻訳、用語集を使った専門翻訳
Google 翻訳(Gemini強化) 高速な一次翻訳、短文・日常表現、多言語即時対応

実際のところ、「この生成AIを使用しないとうまくいかない」ということではないので、普段使い慣れているものを利用すれば良いかと思います。

AI翻訳は製造業でも使えるのか

実際にAI翻訳の精度はどの程度なのかについて、技術コラムを用いて調査した結果について記載します。

実施したことは次のようになります。

  1. 複数の分野で技術コラムの作成
  2. 生成AIで翻訳
  3. 校正サービスに依頼
  4. フィードバックを確認

まず、化学分野や機械分野など複数の分野で技術コラムを作成し、生成AIで翻訳します。その後、ネイティブチェックによりどのようなフィードバックが返ってくるかを検証しました。

検証1:約2,400単語、機械加工

機械加工系の専門記事ですが、以下のような結果でした。

・単語の修正:6箇所
・文法の修正:14箇所
・その他微修正:10箇所程度

主に「内容そのものの指摘」というより、英訳文としての品質(文法・表記・論理の滑らかさ)に対する校正指摘が多く入っている状態です。また、日本語記事→英語に訳しているので、日本語直訳感が強い表現の箇所は校正が入っているイメージでした。逆に考えると「意味は通じるが、違和感を感じる箇所」については校正サービスを入れることによって修正できます。

これは、人による翻訳を行った場合にも同様の指摘がされることがあるため、生成AIが使えないというわけではなさそうです。加えて以下のようなコメントもありました。

Please consider writing the acronyms in this column out in full, as they have not yet been introduced.
※この列にある略語は、まだ導入されていないため、正式名称をすべて記載するようご検討ください。
Please check that my amendment reflects your intended meaning.
※修正が、あなたの意図している意味を正しく反映しているかご確認ください。

校正サービスを入れれば、単なる文法のチェックだけではなく、文章としての整合性についても確認してもらえます。ただ、技術コラムの場合は、先方が理解できない内容もあるので、コメントを反映させるかどうかの最終判断は人が行う必要があります。

検証2:約1,500単語 化学

化学分野の専門記事ですが、以下のような結果でした。

・単語の修正:11箇所
・文法の修正:14箇所
・その他微修正:20箇所程度

こちらについては検証1の機械加工と比較すると、より専門的な内容のため、校正による修正が多く入りました。内容としては検証1と同様に訳そのものというよりは接続詞の使い方や「a」や「the」などの冠詞の使い方に関するものが多い印象でした。

つまり、生成AI利用した場合、意味の伝わる英訳はできるものの、ネイティブから見ると違和感のある表現になっている可能性が高いといえます。これについては、日本語でもAI特有の文章は違和感を感じるときがあるので、同様の現象だと考えられます。

AI翻訳を製造業で使用するときの注意点

上記の結果からAI翻訳を製造業で使用する場合は以下のような注意が必要です。

対外的なものは校正サービスを利用した方が無難

AI翻訳は高い精度を持っていますが、専門用語の微妙なニュアンスや現地特有の表現を完全に反映できない場合があります。

特に仕様書やマニュアル、契約関連の文書では誤訳が大きなトラブルにつながる恐れがあります。そのため、重要な文書については人による校正や専門の校正サービスを併用した方が安心です。

最終的な判断は人が行う

AI翻訳はあくまで支援ツールであり、最終的な内容の正しさを保証するものではありません。翻訳結果が業務内容や現場の実情に合っているか、誤解を招く表現になっていないかなどは、人の目で確認する必要があります。特に安全や品質に関わる文書では、人による最終確認を前提とした運用が欠かせません。

生成AIの出力を全て正しいとするのではなく、最終判断は人が行うことが重要です。これは校正サービスを利用した場合についても同様です。

コラムの場合は公開後に修正が必要

コラムなどの場合は、実際に狙ったキーワードが検索されるかどうかが重要になるため、一度公開すれば終わりというわけではありません。公開後に、流入キーワードなどを調査しながら、ニーズに合うように微修正を加えていく必要があります。

AI翻訳は製造業の多言語対応に有効

AI翻訳は、製造業における多言語対応の課題を現実的に解決できる手段の一つです。

近年の生成AIの進化により、専門性の高い文書や業務資料でも実用的な翻訳品質が得られるようになりました。これにより、海外市場への情報発信や外国人人材への対応、海外顧客へのサポートのハードルがかなり下がっています。

一方で、AI翻訳は万能ではなく、重要な文書では人による確認や校正を前提とした運用が欠かせません。AIを「人の代わり」として使うのではなく「人の作業を支援するツール」として活用することがポイントです。

もし、生成AIの活用により翻訳の方法はわかっても、自社のリソースだけでは運用が難しいという場合は、ぜひ弊社までご相談ください。

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現在はテクノポート株式会社で製造業向けの海外Webマーケティングを担当。エンジニアリングの知見と情報発信力を組み合わせ、企業の販路拡大を支援している。

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