テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
前回の記事ではASEANのハイテク産業の拠点である「2020年の製造業「マレーシア」」について紹介しました。今回はASEAN諸国の中でもマレーシアに次ぐGDP増加率(4.1%)で成長するタイの製造業について紹介します。(出典:ASEAN Key Figures 2019)
タイの製造業はシンガポールやマレーシアとは異なり、組み立て・製造業務が中心で、近年は研究・技術開発を推進する風潮があります。今回はタイの製造業の主要産業である自動車産業、エレクトロニクス産業、バイオプラスチック産業の現状と今後について掘り下げていきます。
この記事の目次
基本情報
- 正式名称:タイ王国(KIngdom of Thailand)
- 首都:バンコク(Bangkok)
- 首相:プラユット・ジャンオーチャー(2014年8月から)
- 通貨:バーツ(1バーツ=3.45円 ※2022年2月3日時点)
- 人口:約6828万人
- 面積:51万km2(参考:日本の面積38万km2)
- 公用語:タイ語
- 宗教:仏教(95%)イスラム教(3.8%)キリスト教(0.5%)ヒンドゥー教(0.1%)その他(0.6%)
- 平均寿命:男 71.7歳、女 78.3歳
経済の特徴
強み
- 地域経済の拠点:東南アジアをはじめ、グローバルな貿易な拠点としての地位
- 輸出産業:好調な貿易関連業と豊富な外貨準備高(直ちに利用可能な対外資産のこと)
- 豊富な原材料:天然ゴム、米、サトウキビをはじめとする豊富な原材料
弱み
- インフラ整備不足:都市部は開発が進んでいるが、農村部ではインフラ整備が進んでいない
- 政治的不安定性:低所得者層の支持の支持を集める親軍派と、中間層・上位層支持を集める反軍派の対立による政治的混乱
GDPの変化
タイの製造業の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。
まず、タイ全体のGDPの変化を確認します。下の図は1960年から2018年までのタイのGDPと年成長率を示したグラフになります。
データ引用元:GDP growth (annual %) – Thailand | Data – World Bank Data
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- 1998年以降GDPは右肩上がりに増加を続ける
- GDPの年成長率は1997年~1998年でマイナスに落ちこむが、その後は回復しプラスを維持している
- GDPの年成長率は、ここ4年では2.5%~5%の範囲で安定している
現状
- タイのGDPは世界26位(対象国196カ国)
- タイ国民一人当たりのGDPは世界84位(対象国196カ国)
- タイは東南アジアでインドネシアに次ぐ2番目の経済大国
今後
- 2019年~2020年のGDPの年成長率は2.8%という予想
- 米中の貿易摩擦により輸出をはじめとする対外部門に悪影響が生じる可能性が高い
- 民間消費の増加と公共インフラ整備の実施が2020年のタイ経済に好影響を与える予想
産業構造
次に、タイの産業構造を調査します。下の図は2011年から2017年までのタイの総GDPにおける各部門(上からサービスサービス業、製造業、農業)の割合をしめしたグラフです。
出典:International Monetary Fund
グラフからタイの産業構造について次のような特徴が挙げられます。
- 製造業と農業の割合が減少傾向で、それぞれ2011年から2017年にかけて3%ほど減少
- サービス業は統計開始の2011年から上昇傾向で、2011年から2017年にかけて5%ほど増加
現状
- 2016年にタイ政府はタイランド4.0(Thailand 4.0)政策を宣言し、ハイテク産業やサービスに投資を集中させる意向
- 製造業と(サービス業の中でも)観光業がタイのGDPの増加に大きく貢献している
- 観光業はタイのGDPの約10%を占め、観光業による収益はタイの輸出利益総額の50%とほぼ等しい計算
今後
- 国の公式計画(2017年~2036年)によると、タイ政府はビジネス環境を改善し、鉄道、空港、道路、インフラ整備を通して長期的な経済の繁栄を目標にしている
- タイの主要産業であった食品・飲料の生産は減少し、代わりに製造業の拠点として外貨を稼ぐ方針
製造業
製造業全体
ここでは、タイの製造業全体における変化をデータを通して調査します。下の図は2015年のタイの製造業のGDPにおける各部門の割合を示したグラフです。
出典:HONG KONG MEANS BUSINESS
グラフから以下のことが分かります。
- GDPを占める割合が多い順に、 食品・飲料産業(23%)エレクトロニクス産業(13%)化学産業(9%)自動車産業(7%)ゴム・プラスティック産業(7%)加工・機械設備産業(6%)石油関連産業(6%)繊維・衣服産業(5%)家具産業(5%)その他(19%)
続いて、下の図は2018年のタイの輸出上位10品目を整理した表です。
出典:THAILAND INVESTMENT REVIEW Vol. 29 | No.2 | February 2019
表から以下のことが分かります。
- 車部品関係の輸出が最も多く、成長率も最大
- 輸出品目に大きな偏りがなく、多様な分野に渡って輸出が活発
現状
- 東南アジアの自動車組み立て拠点の中心的存在
- 鉄鋼業の生産も盛ん(タングステンの生産量世界2位、錫(すず)の生産量世界3位)
- 世界2番目のコンピューターパーツの輸出額
今後
- 専門家の予想によると製造業全体の出荷額は2.0%増加する見通し(2021年は3.4%の増加予想)
- タイランド4.0(Thailand 4.0)計画をはじめとするハイテク産業、製造業の自動化に向かう動きが活発
自動車産業
タイの主要産業の一つである自動車産業の現状と今後をデータを用いて掘り下げていきます。下の図は2009年から2016年におけるタイの自動車生産台数の遷移を示したグラフです。
出典:THAILAND’S AUTOMOTIVE INDUSTRY THE NEXT-GENERATION | Thailand Board of Investment
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- 2009年から2016年にかけて年平均9.93%成長率で増加
- 2012年、2013年が製造のピークで近年は緩やかに回復傾向
次に下の図は2009年から2016年におけるタイの自動車生産台数と付加価値額の推移を示したグラフです。
出典:THAILAND’S AUTOMOTIVE INDUSTRY THE NEXT-GENERATION | Thailand Board of Investment
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- 2016年の自動車生産台数の57%は1トントラックが占める
- タイの自動車輸出台数は2009年から2016年にかけ2.2倍に成長
- タイの自動車輸出でもたらされる付加価値の総額は2009年から2016年にかけ2.5倍に成長
現状
- タイの自動車関連産業は東南アジアで最大、世界第12位の規模(2017年)
- タイで製造される自動車のほとんどは外国企業、特に日本、アメリカ、中国の多種多様なブランドが混在
今後
- 自動車の生産台数は2019年で2~4%減少し、2020年から2022年にかけて同じようなペースで減少する見通し
- 自動車関連の輸出は2019年で5~7%減少するが、2020年から2022年にかけて国内の需要と新型モデルの発売に後押しされ回復する見通し
- 電気自動車の生産台数は2018年(9000台)と比較し、2028年では45倍、2036年には133倍になる予想
エレクトロニクス産業
以前に紹介したシンガポール、マレーシア同様にタイにおいてもエレクトロニクス産業は盛んです。それでは、タイのエレクトロニクス産業の特徴を調べていきましょう。下の図は1989年から2015年にかけてのタイのエレクトロニクス産業関連製品の輸入額と輸出額の遷移を示したグラフです。(縦軸はUS$ billion)
出典:Electrical and electronics manufacturing in Thailand | International Labour Organization
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- 輸入額は1989年から2015年にかけて約12倍に増加し、年平均27.5億US$のペースで増加傾向
- 輸出額は1989年から2015年にかけて約17倍に増加し、年平均31.2億US$のペースで増加傾向
続いて下の図は2013年から2016年にかけてタイのHDDディスクドライバーの輸出量の変化を示したグラフです。
出典:THAILAND’S SMART ELECTRONICS | Thailand Board of Investment
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- 2013年から2016年にかけて2.17倍に増加(年平均31.5%の成長率で増加)
- 付加価値に換算すると2013年から2016年にかけて2.27倍に増加
現状
- 近隣諸国(マレーシア、シンガポール、ベトナムなど)が価格競争に参入し、熟練した技術を持つ労働力の不足、労働環境の悪化、労働者の発言力の低下が問題になっている
- タイのエレクトロニクス産業の中心は組立てと製造業務で、付加価値の高い分野は少ない
今後
- エレクトロニクス産業が生み出す利益は2020年から2024年にかけて年平均成長率2.7%の割合で増加する見通し
- 国内のエレクトロニクス産業市場は2018年に減少したが、2019年から2020年にかけてタイ経済の回復と同時に緩やかに増加する見通し
バイオプラスチック産業
最後に近年タイで急速な成長を遂げているバイオプラスチック産業について調査していきます。バイオプラスチックとは原料として植物などの再生可能な有機資源を使用することにより、枯渇が危惧され地球温暖化の一因ともされている石油にできるだけ頼らずに持続的に作ることができることから近年注目されている新しいプラスチック素材です。(出典:日本バイオプラスチック協会)下の図は2016年から2019年にかけてのタイにおけるバイオプラスチックレジンの生産量を示したグラフです。
出典:BIOPLASTICS | Thailand Board of Investment
グラフと参考資料より以下のようなことが挙げられます。
- 輸出量は2016年から2019年にかけて107倍に増加
- タイのバイオプラスチックレジンの輸出量は2007年には圏外だったが、2019年に世界第3位まで急成長
現状
- タイ政府はバイオプラスチックの研究開発を行うタイ国内と外国企業に対し支援を行い、生産を強化している
- タイはバイオ関連産業に必要な原材料が豊富なうえ、製品を輸出するための地理的な優位性がある
今後
- タイ政府はバイオプラスチックを使用した梱包を推進するため、2019年から2021年にかけ免税政策を実施
- タイのプラスチック廃棄管理規定のロードマップ(2018年から2030年)によると2020年までに再利用不可能またはポリスチレンを使用したプラスチックは梱包としての使用が禁止される見通し
まとめ
今回はタイの製造業の現状と今後について主要産業を中心に紹介しました。タイの製造業は他のASEAN諸国と同じようにGDPにおける製造業の割合は減少しているもののハイテク化、自動化の動きが盛んであることが分かります。
また多様な輸出品目をバランスよく有しているため、タイの製造業は今後も世界の貿易拠点の中心的な存在として活躍することが予想できます。今回の内容がタイの進出に関心のある方の参考になれば幸いです。
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