テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第四弾として「イギリスの製造業」を紹介します。
かつては「世界の工場」と呼ばれたイギリスですが、1979年のサッチャー政権以降、製造業からサービス業、金融・保険業へのシフトが続いています。また2020年2月1日のEU離脱により、イギリス進出を考えなおしている日本の製造業事業者の方も多いと思います。今回は、上述したトピックを今後のイギリス製造業と合わせて掘り下げていきます。
この記事の目次
基本情報
- 正式名称:グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain & Northern Ireland)
- 首都:ロンドン(London)
- 首相:ボリス・ジョンソン(2019年7月から)
- 通貨:ポンド(1ポンド=155.06円 ※2022年2月3日時点)
- 人口:約6602万人
- 面積:約24.9万km2
- 公用語:英語(ウェールズ語、ゲール語等含む)
- 宗教:キリスト教(約72%)、無信仰(約15%)、ムスリム教(約3%)
- 平均寿命:男78.6歳、女83.1歳
経済の特徴
強み
- 石油・ガス:石油とガスがイギリスの総一次エネルギー需要の3/4以上を占める
- 先端産業:航空宇宙産業、医薬品産業、自動車産業で最先端技術を有する企業が複数
- 税制:2015年の国際企業に対する法人税は20%でG20諸国の中で最も低い数字
弱み
- EUとの関係:EU離脱によるEU各国との貿易の不安定性
- 労働生産性:労働生産性の低下が続く(資本投資の低下、熟練労働者の減少、高雇用率・低金利による非効率な会社の存続が理由)
- 地域格差:ロンドンを中心とする南東イングランド地方とそのほかの地域での輸送、エネルギーインフラの格差
産業構造
まずはイギリスの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。
データ引用元:United Kingdom: Sectoral composition of the economy of the United Kingdom| TheGolobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 製造業と農業はGDPに占める割合が減少傾向が続く
- 世界のGDPの3.36%を占める(世界第5位)
現状
- 製造業がGDPに占める割合は2010年から2014年の間に回復傾向を示したが、その後は減少が続く
- サービス業がGDPに占める割合は71.26%と高い(世界第9位)
今後
- 2020年のGDPは前年比-10.1%と大きく減少し、2021年に6.5%の増加予想(新型コロナウイルスの影響)
- 2020年の失業率は8.3%と大きく増加し、2021年に6.6%に減少する予想(新型コロナウイルスの影響)
製造業
次にイギリスの製造業の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)
データ引用元:United Kingdom: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 製造業の生み出す付加価値は約8年の周期で上下を繰り返す
- イギリスの製造業が生み出す付加価値は2兆431億ドル(世界第7位)
現在
- 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に13.8を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年8月に59.1を記録(世界第1位)
- 国内の需要は回復傾向を示しているが、輸出は過去3年の中で最も低い数字を記録
今後
- 熟練技術者不足の課題を解決すべく、行政と企業が若手技術者の育成に力を入れる方針
- EUを脱退したため、製造業の輸出先としていたEU諸国との貿易が従来よりも難航する予想
日本企業の進出状況
ここからは日本企業の視点からイギリスの製造業市場を調査した結果です。下の図はイギリスに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。
データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省
グラフと関連データから以下のことが分かります。
・2014年の1084社以降は単調減少傾向
・在英日本商工会議所の会員数は現在371社
現在
- 進出日本企業の業種は、製造業(39.3%)、サービス業(17.4%)、卸売業(17.2%)、金融・保険業(13.6%)
- 進出日本企業の年商規模は、100億~1000億円未満が32.3%、1000億円以上が26.5%、10億~100億円未満が21.5%、都道府県別では東京都が56.5%で最多
今後
- イギリスのEU離脱に伴い、イギリスを経由して欧州とのやり取りが発生する場合関税が往復で2度発生するため、サプライチェーンの再構築に取り組む企業が増加する予想
- 在英日系製造業企業の内、EU離脱によってマイナスの影響を受けたと回答した企業の割合は70.8%(通関・物流の混乱、関税コスト、通関手続きの発生が主な理由)
イギリスに進出した日本製造業企業
株式会社ネリキ
▶基本情報
- 本社:兵庫県尼崎市
- 従業員数:190人
- 事業内容:高圧ガス容器用バルブの製造・販売
▶概要
1930年創業の高圧ガス容器用のバルブ製造販売メーカー。1995年にアイルランドに現地法人「NERIKI EUROPE LTD.」を設立。「商品ではなく、品質を売る」をモットーにISO9001(製品・サービスの品質マネジメントシステムの国際規格)を取得。現在では、イギリスを含めた世界7カ国の工業規格に合わせた製品を販売し、高圧ガス容器用バルブの分野で世界的なシェアを拡大している。
巴バルブ株式会社
▶基本情報
- 本社:大阪市西区
- 従業員数:210人
- 事業内容:流体制御機器及び周辺機器の製造・販売
▶概要
国内シェア1位を誇るバタフライバルブメーカー。1986年に海外進出の拠点として現地のサンダースバルブ社と折半出資で同社初の海外製造・販売拠点「トモエサンダース」をウェールズに設置。現在ではイギリスをはじめ、台湾、シンガポール、フィリピン、タイ、中国、インドネシア、アメリカに工場および製造・販売拠点を有する。
東洋シール工業
▶基本情報
- 本社:奈良県生駒郡
- 従業員数:535人
- 事業内容:工業用/自動車用ゴム製品の製造・販売
▶概要
転がり軸受用ゴムシールの開発から製造・販売までを行う。1997年にイギリス工場で生産を開始(2006年に生産を終了し、現在は営業所として機能)。現在は、インドネシア、ポーランド、中国に工場を有しており、それぞれの工場でISOを取得済み。
まとめ
今回はイギリスの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果,イギリス製造業はGDPに対する割合は年々減少しているものの、生み出す付加価値自体は近年増加傾向であると分かります。またイギリス製造業のPMIは2020年8月時点で世界トップの数字であり、新型コロナウイルスの影響からの急速な回復が期待されます。
進出する日本企業の視点から考えると、EU離脱によって関税、通関、物流の問題が浮上し、日本製造業企業の多くがサプライチェーンの見直し、もしくはイギリスからの撤退を検討していることが分かりました。ただ、世界5位のGDPに代表されるように、市場規模は大きく進出先の一つの選択肢として考慮するべき国であることは変わりないと思います。今回の内容がイギリス進出に関心のある方の参考になれば幸いです。
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