中国のWebマーケティングで製造業が実施すべきポイント

【執筆者紹介】大城竜亮
この記事の執筆者
大城竜亮
会社名:テクノポート株式会社 海外Webマーケティング担当

【経歴】
2002年に機械系の学部を卒業後、機械設計者としてパワーステアリングおよびトランスミッションのメーカーに6年、汎用圧縮機メーカーに15年勤め、製品のコンセプト作りから量産化まで推進、国内だけではなく、海外メーカ製のOEMや海外工場への製品移管を実施。
2024年11月より、テクノポートへ入社。
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海外進出を検討しているBtoB製造業にとって、市場規模の大きい中国への進出は自社製品の売上拡大を図る目的として有効な手段と考えられます。一方で、中国には自国の検索エンジンや情報規制など独特のネット事情があり、容易に参入できなかったり、参入できたとしても良い効果が得られなかったりします。
本記事ではこれら中国のネット事情と、中国でWebマーケティングを実施するにあたって知っておくべきことをまとめました。中国へのWebマーケティングの実施を検討しているBtoB製造業の一助になりましたら幸いです。

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中国のネット事情

グレートファイヤウォール

グレートファイヤーウォールとは中国政府が情報管理のために構築したシステムで、海外のウェブサイトやSNSへのアクセスを制限しているものです。そのため、海外サーバー上のサイトは接続が遅延・遮断されやすく、ページ表示が大幅に低下します。

この対策として、中国国内向けのサイトやサービスはできるだけ現地でホスティングする、あるいは中国向けに最適化されたCDNを利用するなどして、通信の遅延対策を講じる必要があります。CDN(Content Delivery Network)とはキャッシュサーバーを利用することで、Webサイトの表示速度を向上させるものです。中国向けWebサイトを構築する際には、グレートファイアウォールによる制限を念頭に入れ、単純に日本国内と同じ感覚で公開しても殆どユーザーに届かない可能性がある点に注意が必要です

ICPライセンス

中国国内でウェブサイトを開設し公開するためには、ICP登録が必要です。中国当局によるウェブサイト認可制度で、営利目的のサイトはさらにICPライセンスも取得する必要があります。ICP登録の許可が下りると、発行されるICP番号をウェブサイトのフッターに掲示する必要があります。

ICP番号をサイトに表示せず無登録のまま公開すると、当局からサイト閉鎖命令や罰金などの処分を受ける可能性があります。ICP登録を行うには中国国内に現地登記済みの現地法人が必要であり、申請から認可番号の発行までおよそ一ヶ月程度かかります。

自社で現地法人を持たない場合は、現地パートナー企業名義でサイトを開設する方法や、香港サーバーと越境CDNで暫定対策する方法も考えられます。法規上は中国本土でサイトを公開する際にはICP登録が不可欠である点を念頭に置いたほうがよいでしょう。

図:Webサイトフッターへの登録番号記載例
(引用:中教智网(北京)信息技术有限公司)

①増値電信業務経営許可証:ECサイトなど、通信プラットフォームとして利益を得るサイトに登録が必要なもの
②ICP許可証:中国本土サーバーにサイトを置く場合に登録が必要
③公安網安備案:ICP登録が完了した後、30日以内に公安当局に申請する必要があり、認可後、付与される番号と盾アイコンをフッターに表示

検索エンジン

グレートファイアウォールの影響でGoogle検索は中国では利用できないため、中国独自の検索エンジンが使用されています。
中国では百度(Baidu)が主流で、中国検索エンジン市場の約50%近くのシェアを占めています。その他、Microsoftの必応(Bing)、360検索(別名:Haosou好搜)、ロシア最大級の検索エンジン(YANDEX)、テンセント系の搜狗(Sogou)、などが存在します。(参考:Serach Engine Market Share in China -May 2025
そのため、中国では検索エンジン対策は百度を中心に対策をしていきますが、百度は中国国内のサイトやコンテンツを優先的に評価するため、中国国内でWebサイトを開設しない場合はSEOの対策は難しいとされています。

また、中国のユーザーは検索結果に表示された情報をそのまま鵜呑みにせず、SNSで評判を調べたり周囲に問い合わせたりする傾向があります。
BtoBでは特に企業の信頼性が重視されるため、検索エンジンの対策だけでなく後述するSNS等での情報発信による企業ブランドの信頼醸成も並行して行うと良いでしょう。

SNS

中国ではSNS(ソーシャルメディア)が日常生活からビジネスまで広く浸透しており、海外のFacebookやTwitterに相当するプラットフォームが独自に発達しています。
代表的なものに、メッセージアプリからあらゆる機能を備える微信(WeChat)、中国版X(Twitter)とも言われる微博(Weibo)、急成長を遂げている短尺動画プラットフォームの抖音(Douyin、中国版TikTok)などがあります。

中国市場で事業展開するグローバルB2B企業の多くがWeChat公式アカウントを運用しており、名刺代わりにWechatでつながることが一般的となっています。

WeChat上ではテキストや画像の情報発信だけでなく、「ミニプログラム」と呼ばれるアプリの機能やライブ配信、EC機能まで備えております。B2B企業にとっても製品カタログの掲載や問い合わせ受付、セミナー開催など、幅広く活用されています。 一方、微博(Weibo)は都市部のユーザーに人気で、企業公式アカウントを開設してプレスリリースや展示会の出展情報を発信したり、業界KOL(キーオピニオンリーダー)にリポストしてもらうといったマーケティングにも活用されています。近年は短動画の抖音(Douyin)もB2B領域で存在感を高めており、B2Bのリード獲得にも活用できる有望なプラットフォームとして注目されています。
製造業でも、自社工場の様子や製品の製造プロセスを動画で紹介することで話題を集めるケースも出てきています。

グローバルではLinkedInがB2Bマーケティングの主要SNSとされていますが、2023年に中国から事実上撤退しており、現在はLinkedIn経由で中国国内のターゲット企業の担当者にアプローチすることはできなくなっています。そのため、中国では微信をはじめとするローカルSNSで代替する必要があります。

さらに、中国のSNS上で発信するコンテンツは政府の定める厳格なガイドラインに準拠している必要があります。政治的・社会的にセンシティブな話題や表現は禁止されており、各プラットフォームも独自の利用規約で違反コンテンツを取り締まっています。企業アカウントであっても、法律・広告規制を尊重した表現に留意しなければ投稿削除やアカウント停止のリスクがありますので、コンプライアンスを守った情報発信を心がけましょう。

実施すべきポイント

Webサイトの開設

サーバー設置場所

中国市場向けにウェブサイトを開く際は、理想は中国本土のサーバーを使い、ICP登録をして正式に運用したほうがよいのですが、現地法人を持たない企業にとってICP登録は手続きのハードルが高いため、まずは香港やシンガポールのサーバーに置くか、大手クラウド各社が提供する中国本土向けの高速CDNを通して配信する方法が現実的な案として考えられています。

アクセス環境

2020年代に入り、ユーザーの大半がスマートフォンから訪れるようになりました。そのためレスポンシブデザインで画面サイズに自動対応し、画像の読み込みやタップ操作をストレスなく行えるようモバイル最適化する必要があります。また、WindowsやAndroid端末で標準搭載される中国語フォントは限られており、デザイン面で文字が潰れたり改行が崩れたりします。埋め込みWebフォントの採用や、ロゴ・見出しを画像化して配置するなどの工夫が必要です。

計測・分析

中国では、Google Analytics に替わるものとして百度統計(Baidu Analytics)や友盟統計(Umeng Analytics)があります。地図をサイトに埋め込みたい場合は、Google Maps は基本的に表示できないため高徳地図(Gaode/Amap)や百度地図を利用します。

個人情報

お問い合わせフォームなどで中国企業からの個人情報を受け取る場合は、中国版個人情報保護法である PIPL(個人情報保護法)への対応策として取得目的の明示、保管場所の説明、越境データ転送の可否などをWebサイトに明記する必要があります。

SEO

中国で主要な検索エンジンである百度(Baidu)で上位表示されることを目指した対策が必要となります。

まずは自社製品・サービスに関連するキーワードの中国語のリサーチから始めます。中国語独特の言い回しや略称がないかどうかを、百度のキーワードプランナーや検索サジェスト機能を使って調査します。中国語キーワードはピンイン(ローマ字)でも入力できますが、基本は漢字による検索が中心です。

得られた主要キーワードを踏まえ、サイト内のタイトルタグ、メタディスクリプション、見出し(hタグ)、本文中に適切に織り交ぜてコンテンツを最適化します。例えば「精密金属部品 加工」というサービスを売りにする場合、その中国語訳である「精密金属部件 加工」などのフレーズをページタイトルや見出しに含めるといった具合です。

加えて、百度のクローラーにサイトを認識してもらうための施策も行います。百度站长平台(ウェブマスターツール)にサイトを登録し、XMLサイトマップを送信してインデックスを促進します。

サイトの公開後はしばらく百度に検索結果が出ない場合もありますが、站长平台からの促進や、百度にサイトの収録申請を行うことで対応可能です。また、百度はJavaScriptで生成されるコンテンツの解釈がGoogleに比べて不得意とも言われるため、可能な限りクロールしやすい静的なHTML構造で重要情報を提供するほうが無難です。

日本語サイトでは当たり前のパンくずリストや構造化データも、百度がサポートする形式で実装すればクリック率向上に寄与します。例えば百度はモバイル検索結果でリッチスニペットを表示する独自仕様がありますので、公式ドキュメントを参照して対応を検討します。

外部対策(被リンク獲得)もGoogle同様にSEOで重要です。ただし、やみくもにリンクを集めるのではなく、中国の業界ポータルサイトやフォーラム、ニュースメディアから質の高いバックリンクを得ることが効果的です。製造業であれば、業界協会のサイトに自社紹介ページを掲載するとか、技術系のQ&Aサイト(例えば知乎[Zhihu])で専門的な回答をして自社サイトのリンクを貼るなど、現地で権威あるサイトからの言及を増やす努力をしましょう。

中国には日本でいうYahoo!カテゴリのようなウェブサイトディレクトリもありますので、該当するカテゴリーに登録申請するのも一策です。 重要なのは、Google向けのSEOの知識をそのまま当てはめようとしないことです。アルゴリズムの違いだけでなく、中国ユーザーの検索行動も異なるため、最適な対策は中国市場固有のリサーチに基づいて考える必要があります。

例えば中国語では同音異義語が多いので、検索クエリは文脈によって解釈が変わります。そのためコンテンツ内では単にキーワードを羅列するのではなく、関連語や説明を交えて文脈ごと網羅することが推奨されます。また百度は公式にページ評価要因を詳らかにしていませんが、ICP有無やサイトの信頼度が検索順位に影響するとも言われています。現地ユーザーに役立つ良質なコンテンツを提供しつつ、中国のネット文化や規制に配慮したSEOを継続的に実施しましょう。

リスティング広告

SEOは中長期的に効果を高める施策ですが、公開直後から即効性のある集客を狙うためにはリスティング広告(検索連動型広告)の活用が不可欠です。中国におけるリスティング広告の代表格は百度推广(Baidu広告)で、検索結果ページの上部や下部に「広告」として表示される枠を利用できます。

百度広告に出稿すれば、たとえ新設サイトでも特定のキーワード検索時に上位に自社ページを露出させ、クリックしてもらうことが可能です。 百度広告を利用するには、まず広告アカウントを開設し、出稿する広告の審査を受ける必要があります。

海外企業が直接百度と契約して広告を出すことも可能ですが、手続き上は中国語対応や保証金の預託などハードルがあるため、多くの場合は代理店や現地法人を通じて運用するケースが多いです。広告出稿に際しては、自社サイトがICP登録済みであることや広告素材に禁止表現がないことなど、各種条件を満たす必要があります。

特に医療・金融などの業種では許可証の提出が求められるなど業種別の規制もありますが、製造業分野であれば基本的な手続きを踏めば問題なく広告配信できるでしょう。 一度広告配信の体制が整えば、少額の予算からテスト可能なのもリスティング広告の魅力です。例えば月数万円~10万円程度からでも主要キーワードに入札し、どれくらいのクリック数・問い合わせが得られるか反応を見ることができます

日本のGoogle広告運用と同様に、キーワード選定・入札価格調整・広告文の改善・ランディングページの最適化といったPDCAを回すことが重要です。

中国語で効果的な広告文を作成するには現地の言い回しや文化的ニュアンスを踏まえる必要があるため、可能であればネイティブスタッフのチェックを受けましょう。また、ランディングページ(LP)も中国語で分かりやすく作り込み、問い合わせフォームや連絡手段(例えばWeChatで問い合わせできるQRコード掲載等)を用意してコンバージョン率を高めることが大切です。

なお、百度以外にも360検索やSogou検索向けのリスティング広告ネットワークがあります。特に360検索(好搜)は中国で一定のシェアを持っており、ITリテラシーの高いユーザーが使う傾向があると言われます。広告予算とリソースに余裕があれば、他の検索エンジンにも配信を広げることで追加のリーチが期待できます。ただし管理画面や入札の仕組みがそれぞれ異なるため、まずは最もユーザーが利用する百度広告に注力し、成果と運用ノウハウを蓄積してから順次拡大するのが現実的でしょう。

SNS

微信(WeChat)

WeChatはLINEに機能が近く、公式アカウントには「サービスアカウント」と「サブスクリプションアカウント」の2種類があります。
まずは海外法人でも登録ができるサービスアカウントを開設し、会社紹介や製品情報、導入事例、業界トレンド解説記事などを定期的に発信するとよいでしょう。WeChatは展示会でQRコードをスキャンしてもらうことで手っ取り早くリード獲得ができる手段として活用されています。

微博(Weibo)

WeiboはX(Twitter)に機能が近く、不特定多数のユーザーにリーチするのに適しています。
プレスリリースの公開や業界メディアやKOLに共有・コメントしてもらうことで広範囲にリーチできます。また、タグをつけて投稿することで関連情報を探しているユーザーに情報が届きやすくすることも可能です。
フォロワー獲得のハードルはWechatより低いため、まずは自社Weiboアカウントを作り、ニュースや活動報告を定期発信することから始めるとよいでしょう。
Weiboはアリババグループと提携関係にあるため、広告出稿やEC誘導にもよく使われています。

抖音(Douyin)

短尺動画SNSです。短時間で大量の情報を伝えられる動画は中国で急速に普及しており、単なるエンタメではなくマーケティングチャネルとしても確立されつつあります。B2B領域でもDouyinが有力なリード獲得プラットフォームとして浮上しており短尺動画経由で問い合わせを受けたというケースも増えてきました。

まとめ

今回は中国のネット事情と中国でWebマーケティングを実施するポイントについて紹介しました。本記事が中国進出の一助になりましたら幸いです。中国への海外進出を検討している企業様がいらっしゃいましたら、お気軽に弊社(テクノポート株式会社)までお問い合わせください。

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