キーエンスは、センサー・測定器・画像処理機器などの精密機器を開発・販売するBtoB企業でありながら、営業利益率50%超という驚異的な収益力を誇っています。その強さの背景には、営業力だけでなく、Webマーケティングを軸にしたデジタル戦略が大きく貢献しています。
実際に、BtoB企業のWebサイトランキングでキーエンスは常に上位に位置し、Google検索からの推定流入数は 1,649,317 /月(2026年3月ラッコキーワード調査)と圧倒的なコンテンツ資産を築いています。売上は1兆円、営業利益は5,000億円超え、製品の約70%が「世界初、もしくは業界初」とされる同社は、製品開発力だけでなくWebを起点とした見込み客獲得の仕組みにおいても、製造業の「理想モデル」と言える存在です。
本記事では、製造業Webマーケティングを専門とするテクノポートの視点から、キーエンスのデジタル戦略を体系的に分析します。テクノポートは創業以来、製造業1,000社超のWebマーケティングを支援してきた実績があり、「技術を理解したうえでマーケティング設計ができる」という独自の強みを持っています。この専門的な立場から、キーエンスの戦略を4つの要素で解き明かし、中小・中堅製造業が今すぐ自社に活かせるヒントをお届けします。
この記事の目次
キーエンスのリアル営業力
キーエンスは、リアル(対面)営業の強さでも広く知られています。
同社では、販売促進グループが営業グループのコーチ役を担い、営業トークの台本からデモンストレーションの方法まで、徹底的に指導・教育します。その基盤の上で、営業担当者はテレアポを中心にアポイントを獲得し、顧客へ直接アプローチすることで、高い受注率を実現しています。
また、商品開発の面でも独自の仕組みがあります。営業が現場から持ち帰った顧客の声・要望を、開発グループと販売促進グループが共同でブラッシュアップし、「顧客が求める以上のもの」を生み出す体制を整えています。
このようにキーエンスは、プッシュ型(攻め)の営業を強みとしながら、さらに商談率を高めるためにWebマーケティング(プル型営業)にも積極的に投資しています。つまり、攻めと引きの両輪を駆使することで、受注率の最大化を図っている企業といえます。
本記事では、そのプル営業の柱のひとつであるWebマーケティング戦略について、詳しく解析していきます。
マーケティングの基本:4Fモデルで読み解くキーエンス
キーエンスのWebマーケティングを表面的に眺めるだけでは、「凄い」で終わってしまいます。そこで本記事では、テクノポートが製造業Webマーケティング支援で活用する分析フレームワーク「4Fモデル」を用いて、キーエンスの施策を構造的に読み解いていきます。
4Fモデルとは(Find・Favor・Friction・Frustration)

4Fモデルとは、マーケティングにおいて「需要者(=需要がある人。買う可能性がある人)に選択される確率」を決定する4つのパラメーターを体系化したフレームワークです。4つの要素の頭文字をとって「4F」と呼びます。
選択される確率 =(Find × Favor)÷ Friction − Frustration
- Find(発見される)
見つけてもらえるかどうか。検索・広告・展示会・口コミ・想起などを含み、発見されなければ選択確率はゼロです。 - Favor(好意の強さ)
好意が強いほど選ばれやすくなります。ブランドへの信頼(絶対的好意)と、比較の場で立ち上がる差別化(相対的好意)の二層があり、需要者の要求価値とこちらの提供価値が近いほど好意は高くなります。 - Friction(物理的購入ハードル)
「買いたい」と思っても実行までの段差が高いと離脱が起きます。フォームの長さ、見積もり到達の遠さ、応答の遅延などが該当します。 - Frustration(嫌悪の強さ)
強引な追客、誇大表現、UIの誤誘導、サポートの軽視などが嫌悪を生みます。一度発生すると長期記憶に残りやすく、選択を拒否方向に振れさせます。
この4Fモデルを製造業のBtoBマーケティングに応用し、キーエンスの強みを紹介していきます。
キーエンスは4つの要素をどう最適化しているか
キーエンスの主要施策を4Fモデルにマッピングすると、以下のように整理できます。
| 4F要素 | キーエンスの主要施策 | 本記事の該当セクション |
|---|---|---|
| Find(発見される) | 技術用語SEO インデックス型コンテンツ量産 高ドメイン権威 | 第3章 |
| Favor(好意の強さ) | ホワイトペーパー大量生産 パーソナライズメルマガ 速攻CTA ベストデモンストレーション 無料テスト機 | 第4章 |
| Friction(物理的購入ハードル) | 会員制サイト設計 当日フォロー | 第5章 |
| Frustration(嫌悪の強さ) | 1問アンケート ロレックス禁止(Web以外) | 第6章 |
このように、キーエンスは大量の見込み客を集め、良質な関係性を育て、物理的購入ハードルを極限まで下げ、嫌悪を発生させない設計を徹底しています。以下、各要素を詳しく見ていきましょう。
SEO戦略:圧倒的なSEOとコンテンツ集客(発見される)
4Fモデルの最初の要素である「発見される」は、選択されるための大前提です。見つけてもらえなければ、そもそも検討の土俵に上がれません。キーエンスはこの「発見」において、BtoB製造業の中で群を抜いた仕組みを構築しています。
「製造・FA技術用語」で検索1位を量産するSEO戦略
キーエンスのWebサイトの最大の特徴は、製造業・FA(Factory Automation)分野の技術用語で検索上位を大量に獲得していることです。ラッコキーワード(外部SEO分析ツール)のデータを分析すると、以下のような高検索ボリュームキーワードで検索1位を取得しています。
| キーワード | 月間検索数 | 推定月間流入数 |
|---|---|---|
| プロトコルとは | 40,500 | 17,758 |
| トレーサビリティ | 22,200 | 9,734 |
| QCD | 18,100 | 7,936 |
| アーク溶接 | 18,100 | 7,936 |
| 静電気 | 14,800 | 6,489 |
| 歩留まり | 22,200 | 9,734 |
2026年3月のデータ(ラッコキーワードより)
これらはいずれも、製造業の技術者が日常的に検索する「技術用語」です。注目すべきは、キーエンスが自社製品のキーワードではなく、業界全体に共通する技術的な概念で集客している点です。つまり、「キーエンスの製品を探している人」だけでなく、「製造業で働く技術者全般」を広くターゲットとし、圧倒的に広い入口を設けています。
テクノポートが製造業のSEO支援で実践している「技術特化型コンテンツ戦略」も、まさにこの発想と共通しています。自社の製品名や固有名詞ではなく、ターゲットとなる技術者が検索する「技術課題」や「技術用語」でコンテンツを作ることで、購買プロセスの初期段階から接点を持つことが可能になります。キーエンスの事例は、この戦略が製造業において普遍的に有効であることを証明しています。
「インデックス型コンテンツ」という独自手法
キーエンスのSEO戦略を支えるもうひとつの柱が、「インデックス型コンテンツ」と呼ばれる独自のメディア設計です。
一般的なBtoB企業のオウンドメディアは、ブログ形式で記事を蓄積していく手法が主流です。しかしキーエンスは、これとは全く異なるアプローチを採っています。特定の技術テーマに特化した20ページ前後の「辞書型サイト」を、コーポレートサイトのサブディレクトリ配下に大量に展開しているのです。代表的なものを挙げると以下の通りです。
安全知識.com:安全機器に関する基礎知識を体系的にまとめたサイト
測定器ナビ:各種測定器の原理・使い方・選び方を解説するサイト
熱処理入門:熱処理の基本原理から品質管理までを網羅するサイト
これらのサイトは「ブログ記事」ではなく「辞典」として機能しているため、一度作れば長期間にわたって検索流入を生み続けます。技術情報は短期間で陳腐化しにくいため、ストック型コンテンツとして極めて効率的です。
さらに重要なのは、これらが独立ドメインではなく、keyence.co.jpのサブディレクトリに配置されている点です。これにより、各サイトが獲得する被リンクや評価がすべてkeyence.co.jp全体のドメイン権威に蓄積され、SEOの好循環が生まれています。
被リンク・ドメイン権威から見るキーエンスの信頼性
キーエンスのSEO成功は、コンテンツの質だけでなく、長年の蓄積によって形成されたドメイン権威にも支えられています。外部ツールの分析データによると、keyence.co.jpの被リンク状況は以下の通りです。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| Domain Authority(DA) | 50(良) |
| 被リンク数 | 93,800 |
| 参照ドメイン数 | 5,389 |
| NoFollowリンク数 | 16,282 |
2026年3月のデータ(Ubersuggestより)
DAの50は、BtoB製造業のコーポレートサイトとしては非常に高い水準です。5,389もの異なるドメインから約93,800本の被リンクを獲得しているということは、それだけ多くの外部サイトがキーエンスのコンテンツを「参照に値する情報源」として認めていることを意味します。
この被リンクの多くは、大学・研究機関・業界メディアなど、技術的に権威のあるサイトから発せられていると考えられます。長年にわたって良質な技術コンテンツを蓄積し続けた結果、自然なリンクが集まる「好循環」が確立されているのです。
つまり、キーエンスは「課題を持って検索する人は必ずキーエンスを発見するという仕組みを作っている」のです。
リード獲得とナーチャリング戦略(好意を生む)
「発見される」で大量の見込み客をサイトに呼び込んだ後、次に重要なのが「好意の強さ」の醸成です。
キーエンスは提供価値を伝えるために、動画、画像、データなどあらゆる方法を使用し、その上で資料ダウンロードなどのリード獲得を第一としたWeb戦略を取っています。リード獲得のために、各製品ごとや技術知識ごとに大量のホワイトペーパーを用意し、確実にリードが取れるような仕組みを作っています。
その上で、高度にパーソナライズされたメルマガ配信によって、見込み客との信頼関係を着実に構築しています。しかし、それだけではキーエンスの「好意の強さ」の本質は語れません。同社が他社と決定的に異なるのは、顧客の「要求価値」そのものを意図的に作り出し、それを解決する「提供価値」を自社で保有しているという構造にあります。
要求価値を「作り出す」ことで好意を飛躍的に高める仕組み
マーケティングにおいて好意の強さは、需要者の「要求価値」と企業の「提供価値」が一致するほど高くなります。通常の企業は、顧客が既に持っている要求価値(=顕在化したニーズ)に対して提供価値をマッチさせようとします。しかしキーエンスは、このアプローチとは根本的に異なる戦略を採っています。
キーエンスは、自社の提供価値に合わせて、顧客の要求価値を意図的に作り出しています。具体的には、技術コンテンツやデモンストレーションを通じて、顧客自身がまだ認識していなかった課題(=潜在ニーズ)を「気づかせる」のです。たとえば、製造ラインの検査精度に問題があることを顧客自身が認識していない場合、キーエンスの技術資料やデモが「実はこんな課題がありますよ」と示すことで、顧客の中に新たな要求価値が生まれます。そして、その課題を解決できる製品をキーエンスが既に持っている――この構造が、好意の強さを飛躍的に高めるのです。
これは「顧客の欲しいものを作る」のではなく、「自社が解決できる課題を顧客に発見させる」という逆転の発想です。キーエンスの製品の約70%が「業界初」であるのも、この文脈で理解できます。まだ顕在化していないニーズを掘り起こし、それを汎用性の高い製品として商品化するからこそ、競合が存在しない市場で圧倒的な好意を獲得できるのです。
以降で紹介するホワイトペーパー、メルマガ、デモンストレーションのすべては、この「要求価値の意図的創出 → 提供価値によるマッチング」という一連の仕組みの中に位置づけられています。コンテンツで課題を認識させ、デモで体験させ、そしてその課題を解決する製品を提示する。この流れこそが、キーエンスが「好意の強さ」を意図的かつ構造的に最大化している秘密です。
事業部が「顧客の困りごと」から逆算してコンテンツを量産する仕組み
キーエンスのコンテンツ戦略を支えるのは、属人的な努力ではなく、組織的な生産体制です。その中核にあるのが、事業推進部(全社販促機能)と8つの事業部(各事業部に販促グループ・営業グループを配置)による二層構造です。
この体制では、各事業部が毎月、顧客から寄せられた要望や困りごとを事業推進部に報告する義務があります。事業推進部はそれらを精査し、「商品化すべきもの」と「技術資料にすべきもの」を判断します。技術資料と判定されたテーマは事業部に差し戻され、担当者が毎月ホワイトペーパーを作成する流れになっています。
8つの事業部から毎月複数のホワイトペーパーが生み出されるため、2018年時点で既に1,000件以上のホワイトペーパーが掲載されており、現在はさらに増加していると推測されます。
ここで特筆すべきは、ホワイトペーパーの内容が「カタログスペック」ではなく「顧客が知りたいこと」を軸に設計されている点です。たとえば、「あるセンサーは上下どちらに設置した方が誤動作が少ないのか」「静電気が発生するメカニズムはどうなっているのか」など、現場の技術者が実際に直面する課題に直結した情報が提供されています。
ダウンロード・問い合わせを即座に促す速攻CTA設計
キーエンスのWebサイトでは、検討段階を問わず、すべてのページでWeb会員登録・資料ダウンロードへの導線が設計されています。これは「温度感の低いユーザーも含めてリード化する」という明確な方針に基づいています。
通常のBtoBサイトでは、「お問い合わせ」が最も目立つCTA(Call to Action)であり、検討初期段階のユーザーにとっては心理的ハードルが高いケースが多いです。キーエンスはこの問題を、段階別のCTA設計で解決しています。
- 検討初期段階:技術資料のダウンロード(無料・会員登録が必要)で軽い接点を作る。
- 検討中期段階:カタログ請求、製品比較資料などでより具体的な情報を提供する。
- 検討後期段階:デモンストレーション依頼、価格問い合わせ、見積もり依頼で商談化を促す。
このように、ユーザーの温度感に合わせた複数のコンバージョンポイントを用意することで、「今すぐ買いたい人」だけでなく「将来的に検討する可能性がある人」まで幅広くリード化しているのです。
会員数×パーソナライズメルマガによるナーチャリング
キーエンスのメルマガ会員数は公開されていませんが、業界では極めて大きな規模であると認知されています。この巨大な会員基盤に対して、週2回のメルマガ配信が行われています。配信は「共通メルマガ」と「パーソナライズメール」の2種類で構成されています。
注目すべきは、この配信が単なる一斉送信ではなく、会員一人ひとりのアクティビティデータに基づいてパーソナライズされている点です。
活用されているデータには、Webサイトの閲覧履歴、ホワイトペーパーのダウンロード履歴、問い合わせ内容、メール開封率・クリック率などがあります。これらのデータで各会員をスコアリングし、共通メルマガではコンテンツの表示順序を個別に最適化し、パーソナライズメールではスコアに基づいて配信内容そのものを完全に個別化しています。
さらに驚くべきことに、キーエンスはこのスコアリングとナーチャリングの仕組みを一般的なMA(マーケティングオートメーション)ツールではなく、自社開発のスクラッチシステムで10年以上前から運用しています。これは、同社がWebマーケティングに対してどれほど本気で投資してきたかを物語っています。
「ベストデモンストレーション」:体験で好意を勝ち取る営業手法
ホワイトペーパーやメルマガというデジタル施策に加え、キーエンスが「好意の強さ」を獲得するうえで極めて重要な役割を果たしているのが、「デモンストレーション」です。キーエンスの営業担当者は商談時に必ずデモ機を持参し、顧客の現場で製品の実力を「体験」してもらうことを徹底しています。
キーエンスではこれを「ベストデモンストレーション」と呼んでいます。製品のスペックを言葉で説明するのではなく、その製品の利点が最もわかるシーンを目の前で実演してみせるのです。たとえば、バーコードリーダーの読み取り速度を伝える場合、仕様書のスペック数値を説明するのではなく、回転台にバーコードを貼り付けて高速回転させ、すべてが瞬時に読み取られる様子をモニターで見せます。その場で顧客が「これならうちの製造ラインのスピードに対応できる」と納得するのです。
さらにキーエンスは「無料テスト機サービス」を全商品で展開しています。テスト機も製品と同様に当日出荷体制を整えており、「試したいときにすぐ試せる」環境を提供しています。顧客は実際の製造ラインにテスト機を組み込んで効果を検証でき、何度利用しても無料です。専門の技術営業が設置方法や使い方も直接サポートするため、「百聞は一見にしかず」の体験価値が強力な好意形成につながります。
ある在米日系自動車部品メーカーの経営者は、キーエンスの営業について「スーパーでお肉を焼いて売るように、技術営業が工場に来てデモをしてくれる。だから、つい買ってしまう」と評しています。デモンストレーションの本質は「顧客の潜在ニーズを目の前で顕在化させること」であり、新人でも口下手でも、デモ機があれば製品の価値を正確に伝えられるという点で、営業力の属人性を排除する仕組みでもあるのです。
このように、キーエンスの「好意の強さ」戦略はデジタル(ホワイトペーパー・メルマガ)とリアル(デモ・テスト機)の両面で設計されています。Webコンテンツで技術的な信頼を育みながら、デモンストレーションで体験的な確信を与える。この二層構造が、キーエンスの好意の強さを他社が追随できないレベルに押し上げています。
スムーズな問い合わせ導線(物理的購入ハードルを下げる)
「発見される」と「好意の強さ」で育てた見込み客が実際に購入に至るかどうかは、「物理的購入ハードル」の大きさに左右されます。キーエンスは、会員制サイト設計・当日フォローの組み合わせで、この物理的な購入ハードルを極限まで下げています。
会員制サイトによる情報取得の摩擦ゼロ設計
キーエンスのサイトで技術資料やカタログを閲覧するには、氏名・メールアドレス・会社名・電話番号を入力してWeb会員になることが必要です。一見するとこれは「ハードルを上げている」ように見えますが、実は逆です。
一度会員登録をすれば、その後のすべてのアクション(資料ダウンロード、問い合わせ、カタログ請求)において個人情報の再入力が不要になります。つまり、最初の1回だけ情報を入力すれば、以降は1クリックで資料を入手でき、問い合わせフォームにも事前入力済みの情報が自動反映されるのです。
当日フォロー必須ルールと営業連携の仕組み
キーエンスのリードフォロー体制で最も特徴的なのが、「問い合わせ当日にフォローする」というルールです。資料ダウンロード後5分で電話をかけるといった画一的なルールではなく、営業担当者の判断でタイミングは調整されますが、当日中にフォローすることは必須とされています。
フォローの優先順位は、主に2つの方法で判断されます。ひとつはコンテンツの種類による判断で、価格問い合わせやデモンストレーション希望などは即座に対応されます。もうひとつはアンケート結果による判断で、ショートアンケートで「価格を知りたい」と回答したユーザーは優先的にフォローされます。
さらに注目すべきは、このフォローの目的が「商談のアポイント」ではなく「受注」であるという点です。電話口でそのまま注文を受けるケースも実際にあるとされ、初動の速さと営業力の高さが一体となった仕組みとなっています。
なお、キーエンスではASIST(Advanced Sales Information System for Territory)と呼ばれる自社開発のSFAシステムが稼働しており、ホワイトペーパーダウンロード・カタログ請求・Web閲覧などのリード情報がリアルタイムで営業担当に共有されます。この仕組みにより、Webマーケティングと営業活動がシームレスに連携しているのです。
中立の情報を積極的に掲載(嫌悪を生まない)
キーエンスのWebマーケティング戦略において見落とされがちなのが、「嫌悪の強さ」の極小化です。どれだけ優れたSEOやメルマガの仕組みがあっても、ユーザーに「売り込まれている」という嫌悪感を与えてしまえば、選択確率は大きく低下します。キーエンスは、この嫌悪を巧みに回避する設計を行っています。
「中立情報」を軸にした特化型メディア設計
キーエンスの技術コンテンツの特徴は、「自社製品を売り込むコンテンツ」ではなく、「技術者が知りたい中立的な情報」を軸にしている点にあります。
たとえば、「安全知識.com」では安全機器全般の基礎知識を、「測定器ナビ」では各種測定原理の解説を提供しています。これらのコンテンツには当然キーエンス製品への導線もありますが、コンテンツの主体は「技術情報の提供」であり、製品の宣伝ではありません。
具体的には、「センサーの設置方向による誤動作の違い」「静電気が発生するメカニズム」など、カタログには載っていない実用的な技術情報が提供されています。これらは技術者にとって「知りたいけれど、どこにも載っていない」情報であり、このような中立的で有用な情報を提供し続けることが、「嫌悪の強さ」を発生させずにブランドへの信頼を蓄積する最も効果的な方法です。
また、ホワイトペーパーには嫌悪を生む可能性がある1問のショートアンケートが付随しています、。これは「現在の検討状況」を確認する簡単な設問で、たとえば「価格を知りたい」「情報収集段階」「導入を検討中」といった選択肢が用意されています。たった1問で顧客の温度感を把握でき、営業の優先順位付けに直結する極めてシンプルかつ効果的な仕組みです。つまり、嫌悪が多少増加したとしても、それを超える好意を獲得できという設計になっています。
テクノポートの視点:製造業1,200社の支援から見えたこと
ここまでキーエンスのWebマーケティング戦略を4Fモデルで分析してきました。キーエンスの施策はいずれも高度で精緻なものですが、では中小・中堅製造業はここから何を学び、どう自社に活かすべきでしょうか。テクノポートが1,200社超の製造業支援から得た知見をもとに、現実的な視点を提供します。
キーエンスと一般製造業の決定的な違い
まず前提として理解すべきなのは、キーエンスの戦略を「そのまま真似する」ことは現実的ではないという点です。両者の間には、以下のような構造的な差異があります。
組織規模:キーエンスは8つの事業部にそれぞれ販促グループと営業グループを配置し、全社販促を統括する事業推進部も存在します。一方、多くの中小製造業ではマーケティング専任者すらいないケースが珍しくありません。
予算・リソース:キーエンスは10年以上前からスクラッチでスコアリングシステムを自社開発しています。中小製造業がこの規模の投資を行うのは非現実的です。
営業体制:キーエンスの営業は「聞くべきことが定型化」されており、プロセス管理が徹底されています。この営業の型化なしにWebマーケティングだけ強化しても、リードを商談・受注に変換できません。
テクノポートでは、こうした構造的な差異を踏まえた上で、クライアント企業の規模やリソースに合わせた現実的な実行ステップを提案しています。大切なのは「キーエンスと同じことをやる」ことではなく、「キーエンスの成功原理を自社に適した形で応用する」ことです。
中小・中堅製造業がすぐ真似できること・できないこと
キーエンスに精通した専門家が「まず取り組むべき」として挙げるのは、ホワイトペーパーの量産やスコアリングではなく、以下の3点です。
- SEO:まずは「発見される」を増やすこと
どれだけ優れた商品・サービスがあっても、見つけてもらえなければ始まりません。
そのためには、需要者がどういった課題を抱えていて、どういったキーワードで検索するのかを想定した上で、そのキーワードが本当に使われてるのかをデータで確認する必要があります。また、記事の執筆などもあるため、SEOは簡単ではありません。しかし、SEOをすることで発見される確率は飛躍的に高まるため、取り組む価値はあります。 - 好意獲得:要求価値を想定した提供価値を、Web上でわかりやすく提供する
発見された後は好意を獲得しなければいけませんが、Web上でそれを提供するためには工夫が必要です。画像、動画、イラスト、データなどさまざまな手法を取り入れて、好意を獲得できるコンテンツを作ることが大切です。 - 必中ホワイトペーパーの制作:温度の低いリードの獲得
ホワイトペーパーを大量に作るのは難しいと思いますが、一つこだわりのホワイトペーパーを作るのは効果的です。
テクノポートが1,200社超の支援実績から導き出した「製造業のWebマーケ成功パターン」は、まさにこの優先順位に沿ったものです。まず土台を固め、その上でコンテンツ戦略・SEO・メルマガといった施策を段階的に展開していくアプローチが、最も成果につながりやすいことがわかっています。
テクノポートのWebマーケティング支援はこちら
キーエンスのWebマーケティング戦略を4Fモデルで整理すると、その成功の方程式は明確です。「発見される」では技術用語SEOとインデックス型コンテンツによるインバウンド集客に加え、テレアポによるアウトバウンド営業で潜在顧客にも能動的にリーチし、圧倒的な顧客カバレッジを実現。「好意の強さ」ではホワイトペーパーとパーソナライズメルマガというデジタル施策と、ベストデモンストレーション・無料テスト機サービスというリアル施策を組み合わせて信頼関係を醸成。「物理的購入ハードル」を会員制サイトと当日フォローで極限まで下げ、「嫌悪の強さ」を中立情報の徹底により排除する。この4つの歯車がオンライン・オフライン双方でかみ合うことで、営業利益率50%超という驚異的な成果を支えています。
中小・中堅製造業がキーエンスから学ぶべき最も重要なポイントは、Webマーケティングを「単独の施策」としてではなく、「営業プロセス全体の一部」として位置づけることです。まず顧客管理・営業の型化・推進体制という土台を固め、その上で自社の技術力を活かしたコンテンツ戦略を展開していくことが、着実な成果につながる道筋です。
テクノポートは、製造業1,200社超の支援実績と「技術を理解したマーケティング設計」を強みに、御社のWebマーケティング強化をトータルでサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
参考資料
- キーエンス 高付加価値経営の論理 顧客利益最大化のイノベーション(書籍)
- キーエンス解剖 最強企業のメカニズム(書籍)
- キーエンスナビ(Web)