税理士さんも勘違いしてしまう?商号と商標の違い

【執筆者紹介】亀山 夏樹
この記事の執筆者
亀山 夏樹
役職:かめやま特許商標事務所 所長 弁理士
執筆テーマ:中小企業における知的財産(特許・商標等)
【経歴】
千葉県生まれ
筑波大学院 理工学研究科 理工学専攻 修了(1999)
電気メーカにてネットワーク機器の商品企画・開発設計に従事(~2004)。
その後、特許業界にて、特許・商標等の出願業務の他、契約交渉、技術開発支援、セミナー講師などを行う。
技術分野:金型、工具、ソフトウエア、鉗子、内視鏡、医療機器、筆記具、塗料、食品等
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中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。

今回は、どの企業であってもチェックすべき知的財産権についてお話したいと思います。

どの企業でもチェックすべき知的財産権

どの企業であってもチェックすべき知的財産権とは、何だと思いますか?答えをお伝えする前に、質問をしたいと思います。

「今行っている事業(これから始めようとする事業)は、合法的に行うことができるのでしょうか?」

これを、もう少しわかりやすく言うと、

「今検討されている事業は、他社の特許権や商標権等の知的財産権を侵害しませんか?」

となります。

「うちは特許なんて関係ないよ~」

と思われる方も多いかもしれません。確かに特許権は、技術を守る権利。技術要素が低い事業であれば、あまり関係がないかもしれません。しかし、商標権は、商品やサービスの目印となる名前やマーク(商標)を守る権利。つまり、商売を行う人は必ず商標は使用しているといえるわけですから。商標権は、特許権とは違い、どの事業でも関わりの深い権利といえます。

商標のタイプ

商標権がどの業種においても関わりの深い権利であることは述べました。ここでは、商標権が守る商標について簡単に説明したいと思います。これから開こうとする「お店の名前」は商標です。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が経営する「TUSTAYA」、株式会社モンテローザが経営する「白木屋」「魚民」等があります。また、これから作ろうとしている法人の名称(正確に言うと、法人の名称の略称)も、商標となるケースが多いです。

株式会社ソニーであれば「SONY」、トヨタ自動車株式会社であれば「TOYOTA」がここに相当します。また、これから製造販売しようとする「商品の名前」も商標です。「SONY」の「ウォークマン」や「TOYOTA」の「プリウス」等があります。

このような名前を競業他社に勝手に使用されたらどうなるでしょう?売上の減少はもちろんのこと、名前にくっついていた信用が傷つき、ひいては、これまでに築いてきたブランドが崩壊します。したがって、自社の商標は他社に使わせたくないと思うのが、事業主の心情。そうしますと、商標は、事業において誰もが使用すると言えますし、商標権は、事業を行う人であれば取得していて何ら不思議はないといえます。

実際にあった勘違い

このような商標権であるよく勘違い。それは、「商号上問題ないから、商標権も問題ないのでは?」というものです。

商号の保護と商標の保護は、法律上異なり、取り扱いが全く異なるのですが、税理士さんのような専門家の方でも間違えてしまいやすい問題なのです。さて、今回は、実際にあった相談事例をご紹介します。

Aさんは、レストランを開業しようと思い、とある税理士さんに相談しました。レストランの店名について、法人の商号調査の必要性を確認したらしいのですが、その税理士さんからは、

「法人ではなく、個人事業主なので調査不要です」

とコメントをもらったようです。Aさんは安心してレストランを開業したのですが、開業して3か月たったところ、他社から商標権侵害をいわれ、店名を泣く泣く変えることになってしまいました。結果、新しい名前を考え、新しい看板をつくり、看板ができるまで、営業ができなくなってしまいました。

商号と商標の違い

前述の事案の敗因は、「商号と商標を混同してしまった点にあった」といって良いでしょう。今回のように、税理士さんの中でもその違いを説明できない人がまだまだ多いようです。そこで、今回は、商号と商標の違いについて簡単にご紹介したいと思います。

<商号>

  1. 商号とは何? 法人の名前。人でいうところの氏名みたいなもの。法人の名前なので、個人事業主には関係ない。
  2. 届出 法人設立時に登記が必須。届け出先は法務局。代理には、司法書士。
  3. 調査の要否 法人登記に必須。
  4. 競業他社との商号との関係 商号調査(法人登記)時に問題となる。問題となるのは、同一の所在地&同一名称。登録後から他人から文句を言われることはない。

<商標>

  1. 商標とは何? 商売上の目印となる名前やマーク等。法人・個人に関係なく商売をするのであれば必要。
  2. 届出 必要な方はご自由にどうぞ。届け出先は特許庁。代理人は弁理士。
  3. 調査の要否 必要な方はご自由にどうぞ。
  4. 競業他社の商標との関係 問題となるのは、同一の所在地ではなく日本全国&登録商標に同一な名称に限らず、類似の名称使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある。

商標リスクの要因

商号にはない商標のリスクの要因は3つあります。

1つ目は、商標の場合、商号と異なり、調査や登録せずとも、使用できてしまう点にあります。

2つ目は、商標の場合、商号と異なり、使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある点にあります。

そして、3つ目は商標のリスクマネジメントは自己責任という点にあります。すなわち、商標の調査を行っていないと、自社の事業活動において、他人の商標権を侵害してしまいますし、また、商標登録を済ましていないと、自社の事業活動開始後に、他人の商標権が発生したため、事後的に他人の商標権を侵害してしまう可能性があります。このような商標のリスクは、商標の調査や商標登録によって取り払うことができますが、上述の通り「必要な方はご自由にどうぞ」となっています。このため、商標リスクについて、ただし知識を持っていないと、上述のようなケースに陥ってしまいます。「自社の使用していた名称が他人の登録商標だったとは知らなかった」では済まされません。

したがって、事業の責任者は、商標リスクについて「知らなかった」ではなく、チェックすべき事項であるといえます。

まとめ

商号とは違う商標リスク。これから新しく事業を始めようとする人も、すでに事業を始めようとする人も、商標権のリスクはしっかり管理しましょう。

  1. 商標の場合、使用自体は自由にできてしまう。
  2. 商標権者(他社)からが登録商標の使用を停止される可能性がある。
  3. 商標リスクのマネジメント(商標調査や商標登録)は「必要な方はご自由にどうぞ」。
  4. 真剣に事業をしたい方ならば、商標リスクのマネジメントは必須。

この記事の執筆者
亀山 夏樹
役職:かめやま特許商標事務所 所長 弁理士
執筆テーマ:中小企業における知的財産(特許・商標等)
【経歴】
千葉県生まれ
筑波大学院 理工学研究科 理工学専攻 修了(1999)
電気メーカにてネットワーク機器の商品企画・開発設計に従事(~2004)。
その後、特許業界にて、特許・商標等の出願業務の他、契約交渉、技術開発支援、セミナー講師などを行う。
技術分野:金型、工具、ソフトウエア、鉗子、内視鏡、医療機器、筆記具、塗料、食品等
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