こんにちは、テクノポートの永井です。前回まで、開発者や量産設計者が求める技術情報やその書き方について紹介してきました。今回は「大手企業(自動車のTier1レベル)の購買担当」が求める情報について紹介します。
大手メーカーが協力企業を探すときに、メインで担当するのは購買になります。試作開発や既存の協力企業の技術で対応できない場合は開発設計者や量産設計者も協力企業を探す場合もありますが、その時も窓口は購買が担当し、購買がOKを出さなければ取引につながることはありません。(購買の一存で決まるわけではありませんが、購買がNGと言えばNGになります。)
そのため、Webサイトでも購買が見るポイントを押さえる必要があります。今回、私の友人や知り合いの購買に「新規取引企業を探す場合に、企業の何を見ているのか」について意見を聞き、その内容をまとめました。
この記事の目次
購買の仕事内容
まず購買の仕事について説明します。購買の仕事はその名の通り、物を購入することが仕事になります。具体的には
- 購入単価の調整
- 新規取引先の調査(実はかなり少ない)
- 協力企業との窓口全般(納期調整、改善、不具合対応、工場移転などいろいろ)
になります。
この中でメインの仕事は購入単価の調整です。現在の購入金額が適正かどうかを判断するために、生産工程のチェックや設備の減価償却など細かく確認しています。
「同じものを1年間生産し続ければ、生産効率が上がっているのは当たり前で、価格は下げられる」という考え方で、毎年価格の調整(値下げ)の交渉を行います。もし要求の価格にならない場合は、協力企業側にその理由を追求し、価格を下げられる条件を調査します。そのため、協力企業の改善には協力的で、生産効率が上がるアドバイスなどは積極的に行います。
価格交渉を厳しく行う一方で、協力企業が潰れてしまっては困るため、非常事態のときは協力企業を守ったりもします。例えば、リーマンショックのときは前年と購入単価を変えなかったり、資金面の支援をしたりなど優しい面もあります。
既存の協力企業のケアだけではなく、新規取引先を探すのも購買の役目です。大手企業の場合、困ったときは既存の協力企業や付き合いのある商社などを優先的に頼るため、新規の取引先を探すことはめったにありませんが、
- 既存の工場がキャパオーバー:一時的に生産を助けてほしい
- 品質が改善されない:ラインが止まる可能性がある
- コストが合わない:改善要求についてこれない
- 不具合対応:短期で量を作る必要がある
など、必然性が高まったときは購買が新規取引先を探し、基本的には量産対応できる企業を探しています。
購買がWebで協力企業を探すときに確認する項目
Webサイトで購買が確認したいのは、その企業が取引先として信用できるかどうかです。品質が悪ければリコールに繋がりますし、コストが高ければ利益を圧迫します。また、納期遅れが発生すれば、エンドユーザーからの信頼を失いかねません。もちろんWebサイトだけの情報で取引につながることはなく、製造現場に訪問して監査を行ってからの取引になります。そのため、Webサイトでは監査に値する企業かどうかを見極められる情報を求められています。
ISO9001とISO14001を取得しているかどうか
ISO9001とISO14001を取得しているかどうかは必ず見ています。あったらいいではなく、ないと土俵にすら立てず、検討から外れるそうです。
購買が新規取引先を探すときは数十社に目を通し、その中から複数社を選定した後に、相見積や監査を行って、取引を始めるかどうか決めます。その中で、あえて「ISO9001とISO14001を取得していない企業」を選ぶ必要はなく、スクリーニングの段階で除外しているそうです。
実績があるかどうか|最重要
実績 = 納入先です。
納入先を確認すれば、品質管理体制、納期管理、生産能力、コスト、対応力など、大体のことはわかります。例えば、デンソーに納入していれば、トヨタの厳しい品質管理基準をクリアしていることはもちろん、安定した供給体制があることもわかります。取引先に大手企業(できればTier1)があれば、最低限の信頼は得られます。
品質管理体制
協力企業の品質が悪いと、最悪リコールに繋がり、自社のブランド力を落としてしまいます。そのため、品質管理体制も必ず確認しています。具体的には
- 他社からのAward取得:品質のいいサプライヤは通常表彰されている
- 測定設備や検査体制:具体的に数値として管理できているか、設備を使えているかなど
- PPM:不具合品がどれくらいの個数あるかを把握しているか
- 社内の教育体制:品質への意識が全社員にあるか
- 協力企業の管理体制:調達品の管理をきちんとしているか
などを見ています。品質管理体制の詳細は工場見学や打ち合わせで確認しますが、Webサイトにこのような記載があると信用できます。
設備情報
保有設備は会社の生産能力そのものです。これまで様々な企業の設備を見てきた購買は、設備情報だけでその企業がどのような生産に対応できるか、ある程度想像しています。例えば、
- 古い機械を使っている → 減価償却が終わっているので、安そう
- 最新の設備を入れている → コストは高いが、安定した品質と長期的な取引が期待できる
- 測定設備が豊富 → 品質に力を入れている
- 多種多様な設備を持っている → 何かあったときにすぐに対応してくれそう
- 同じ設備を複数持っている → 量産実績が豊富。多品種対応も期待できそう
など、設備を確認するだけで多くの情報が得られます。購買はある意味で設計よりも設備に詳しく、設備を見ただけで会社の生産能力を把握しています。
生産拠点(海外など)
東日本大震災以降、災害発生時にも部品共有を止めないため、生産拠点が複数あることも求められるケースが増えたそうです。ある企業では新規取引先の条件に、2拠点以上あることが盛り込まれているそうです。
また、大手企業は海外に工場を持っている場合も多く、調達のしやすさから、自社と同じ地域にあるかどうかも確認しています。特に、中国、タイ、ベトナムに工場があるとプラスになるそうです。
トレーサビリティ(追跡可能性)
不具合が発生したときは、製造場所や製造条件など不具合の原因を追求します。その時必要となるのが、トレーサビリティー(追跡可能性)です。製品にバーコードや刻印を付けて管理することで、製造条件を瞬時に出すことが可能になります。トレーサビリティが必要かどうかは製造する製品によってことなりますが、対応可能であることは大きなメリットになります。
トップの考えや採用ページも確認
大手企業が新規取引先を探す場合は、短期的な取引ではなく、中長期的な取引を前提としています。
そのため、トップがどのような考えやビジョンを持って経営しているのか、どのような人物を採用しようとしているかなど、現在の状況だけではなく、将来性も含めて確認するそうです。
Webサイトでわかりやすく伝えるためにできること
開発や設計をターゲットとする場合は、技術の伝え方が大切でした。購買をターゲットとする場合は、自社の生産能力や企業自体を信頼してもらえるような情報を提供することが求められます。そのため、購買担当者向けに専用のページを作るというようよりも、購買が見たい情報をわかりやすく配置することが大切です。
購買が必ず確認するページは
- 会社紹介
- 品質管理
- 設備情報
です。これらのページは分けて作り、情報を充実させましょう。
例えば、会社紹介ページを見ただけで、信用を得られるような情報として
- ISOの取得
- 実績(納入先)
- 納入先からのAward
- 生産拠点
- トップの考え
などは掲載しましょう。納入先が掲載できない場合は、大手メーカー(上場企業)やTier1などだけでも構いません。
品質管理ページには
- 検査体制
- 納入先からのAward
- トレーサビリティー
- PPM(可能であれば)
- 社員教育
を掲載しましょう。品質管理情報をうまく掲載している事例として、群馬県の株式会社外山製作所があります。
外山製作所は納品数、返品率、Cp値、PPMまで隠すことなく掲載しています。納入先から直接いただいた成績表は品番などの公開できない掲載があるため、公開できる部分のみを書き直して掲載しています。
設備情報ページには、設備の種類の他に
- 保有台数
- モデルの年代
などの情報があると、購買担当がどういった案件を頼めそうか想像しやすくなります。また、製品紹介ページには、生産能力も見てもらうため月の生産数も合わせて掲載すると良いでしょう。
まとめ
購買担当は会社の利益に直結する重要な役割です。そのため、協力企業選びは慎重に行いなり、特に品質管理体制は念入りに確認します。
購買担当にとってWebサイトはあくまでの企業を知るためのきっかけであり、実際に取引を始める前には工場の確認や監査などにパスしなければなりません。ただ、購買担当に自社のWebサイトを探してもらい、信用してもらわなければ先へは進めません。
技術の効果的な情報発信手法である「コンテンツマーケティング」については、下記記事に詳しく書かれていますので、こちらもご参照下さい。
コンテンツマーケティングの進め方(BtoB製造業・メーカー向け)
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