テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
今回は「インドの製造業」を紹介します。
「Make in India」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?これはインド政府が、インドを世界の製造業の中心拠点にするために掲げている政策です。この政策の中には、インドのGDPに占める製造業の割合の増加、製造業分野における1億人の新規雇用の創出(今後5年間)、先端産業に対する積極的な投資活動などが含まれています。
以上のことからも分かるように、インドは今、国を挙げて製造業の強化に取り組んでおり、世界中の企業からも中国に次ぐ世界の工場になり得る存在として注目を集めています。今回はそのインドの製造業を日本企業の目線から掘り下げていきます。
この記事の目次
基本情報
- 正式名称:インド共和国(Republic of India)
- 首都:ニューデリー(New Delhi)
- 大統領:ラーム・ナート・コーヴィンド(2017年7月~)
- 首相:ナレンドラ・ダモダルダス・モディ(2014年5月~)
- 通貨:インド・ルピー(1インド・ルピー=1.53円 ※2022年2月3日時点)
- 人口:約13億6,641万人
- 面積:約329万km2
- 公用語:ヒンディー語(他に憲法で公認されている州の言語が21ある)
- 宗教:ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%
- 平均寿命:男 67.6歳、女 70.1歳
参考資料
[1] インド基礎データ|外務省
[2] インドの基本情報|地球の歩き方
[3] India | History, Map, Population, Economy, & Facts | Britannica
産業構造
まずはインドの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はインドの国内総生産(GDP)の内訳の推移を示したグラフです。
データ引用元:India: sectoral composition of the economy | TheGlobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- GDPに占める製造業の割合は2008年頃まで緩やかに増加を続けるが、以降は減少傾向
- インドのGDPは2019年時点で約2兆9,400億USドルで世界第7位
現状
- 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は、2020年10月以降55を上回る高水準を維持(2021年1月時点で57.7で世界第8位)
- 2020年のインドのGDPは、新型コロナウイルスによる影響で前年比8.0%のマイナスを記録
今後
- IMFの調査によると、2022年度のインド経済の成長は11.5%になる見通し(ワクチンの普及による感染拡大の防止効果、死亡率の低下による)
- インド政府は医療システムとインフラにGDPの5%(2020年ー2021年は3.5%)を投資し、10年後に世界平均である10%にまで増加させる見通し
参考資料
[4] India: sectoral composition of the economy | TheGlobalEconomy.com
[5] GDP, constant dollars by country, around the world | TheGlobalEconomy.com
[6] India Purchasing Managers Index (PMI), manufacturing, January 2021 – data, chart | TheGlobalEconomy.com
[7] Beyond the pandemic: India’s economic outlook – The Economic Times
[8] India Economic Outlook | Deloitte Insights
製造業全体
次に、インドの製造業の調査結果を紹介します。下の図は、インドの製造業のGDPの推移を示すグラフです。(縦軸は10億USドル)
データ引用元:India Manufacturing value added – data, chart | TheGlobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 2013年以降増加傾向であったが、2017年から横ばいの状態が続く
- 2018年の製造業が生み出す付加価値額は、3,957億USドルで世界第6位
現状
- 自動車関連会社の多くは、サービスのデジタル化、部品輸入ルートの拡大(中国への過度な依存から脱却するため)、中古車販売業への参入など、自社の利益を確保のためにさまざまな工夫をしている
- 新型コロナウイルスによるロックダウンの影響により、テレコミュニケーション産業が急速な成長を遂げている(例:インターネットインフラ事業、AI関連事業)
今後
- 「Make in India」のスローガンのもと、インドを世界の製造業の中心拠点にするための政策が増加する見通し(例:インド政府は2022年までに1億人の製造業関連の雇用を生み出す予定)
- インドの製造業GDPは、2025年までに1兆USドルに到達する見通し
参考資料
[9] India Manufacturing value added – data, chart | TheGlobalEconomy.com
[10] Manufacturing value added by country, around the world | TheGlobalEconomy.com
[11] India Economic Outlook | Deloitte Insights
[12] Manufacturing Sector in India: Market Size, FDI, Govt Initiatives | IBEF
製造業の内訳
次に、インド製造業の内訳を紹介します。下の図は、インド製造業の各分野の成熟度を示すグラフです。カラーバーの色は黒色:成熟産業、水色:未発展産業、青色:成長産業を表しています。
データ引用元:A new growth formula for manufacturing in India | McKinsey
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 製造業の3つの分類は次の通り。
- 成熟産業(自動車、自動車部品、 資本財・工作機械、医薬品)
- 未発展産業(化学、農業・食品、金属・材料、衣料品、家具、革製品、樹脂)
- 成長産業(電子部品・半導体、航空、国防、再生可能エネルギー)
- 2020年から2027年の間に、製造業の生み出す付加価値額は約3,200億ドル増加する見込みであり、増加額の80%は以下の6つの産業が貢献する見通し(1. 化学品・石油化学、2. 農業・食品加工、3. 電子・半導体、4. 資本財・工作機械、5. 鉄鉱石・鉄鋼、6. 自動車部品・車両)
現在
- インド製造業が現在直面している課題は大きく以下の3つに集約される
1. 生産性:インドの労働生産性はインドネシアの1/2倍、韓国・中国の1/4以下(特にエレクトロニクス産業分野では、韓国と比較すると1/18倍)
2. 技術力:産業として成熟しきっていない分野では先進国と比較し技術力不足が課題
3. 資本金の調達:インドの製造業が 今後7年間でGDPを2倍にするためには、合計1.0兆ドル~1.5兆ドルの投資が必要
今後
- ICEAは、2025年までにノートPCとタブレットの生産能力が1,000億USドルにまで拡大できる可能性があると予測
- 2019年のインドの自動車産業の市場規模は世界第4位であり、2021年には日本を抜いて世界第3位になる見通し(若者世代への2輪車と小型車に対する需要が主な要因)
参考資料
[13] IBEF Presentation
[14] Manufacturing Sector in India: Market Size, FDI, Govt Initiatives | IBEF
[15] Automobile Industry in India, Indian Automobile Industry, Sector, Trends, Statistics
[16] A new growth formula for manufacturing in India | McKinsey
日本企業の進出状況
ここからは日本企業の視点から、インドの製造業市場を調査した結果です。下の図は、インドに進出した日本企業数の推移を示したグラフです。
データ引用元:インド進出日系企業リスト – Embassy of Japan in India
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- インドにおける日本企業の数は年々増加傾向(ただし年成長率は低下)
- 2019年における進出企業数は増加したが、拠点数は減少した(要因として合併統廃合により拠点が整備されたことが考えられる)
現状
- 2019年における拠点数が多い上位5州は以下の通り(1位 ハリヤナ州:406社、2位 マハーラーシュトラ州:247社、3位 カルナータカ州:217社、4位 タミル・ナドゥ州:203社、5位 デリー準州:157社)
- 業種別では製造業が全体の49%を占め、その中でも輸送用機械器具(10.3%)、化学工業(5.9%)、電気機械器具(5.2%)、金属製品(4.7%)の4業種が製造業企業の約半数を占める
今後
- これまでは日系自動車関連企業の進出が主であったが、インドのインフラ整備に伴い情報通信業や各種サービス関連業企業の進出が増加傾向にある
- インドでビジネスを行う日本企業が直面しており、今後解決すべき課題として、以下の3つが挙げられる
1. 人件費の高騰:インド人従業員の人件費はASEAN諸国と比べて低くはなく、昇給率も10%を超えている
2. 認知度不足:ASEAN諸国ほど日本ブランドへの認知はない(例:家電量販店の商品の8割は韓国製、1割がインド製、1割が日本製)
3. 税制:インドに拠点を置く企業が輸入する材料に対しても関税負担が重くかかるため、材料の調達先をインド国外に持つ企業はビジネスモデルの見直しが必要
参考資料
[18] インド進出日系企業リスト – Embassy of Japan in India
[19] 2019年のインド進出日系企業数は前年比微増の1,454社(インド) | ビジネス短信 – ジェトロ
[20] インドに進出した日本企業が苦戦しているワケ 数字を狂わせる「2つのからくり」 WEDGE Infinity(ウェッジ)
インドに進出した日本企業
ここからは、実際にインドに進出した日本の製造業企業3社を紹介します。
株式会社電溶工業
▶基本情報
- 本社:山梨県中巨摩郡
- 従業員数:105人
- 事業内容:抵抗溶接機(スポット溶接ロボット)の製造・販売
▶概要
自動車製造のための抵抗溶接機の開発・生産・販売を行う。2015年にインドの製造工場用グループ会社Denyo Manufacturing India Pvt. Ltd.を設立。自動車メーカー各社の製造拠点のグローバル化に伴い、同社はインドの他にも中国・アメリカ・タイに製造拠点を有しており、海外進出を積極的に展開している。
株式会社 コイワイ
▶基本情報
- 本社:神奈川県小田原市
- 従業員数:150人 ※関係会社含め
- 事業内容:鋳物の製造・販売、機械加工
▶概要
3Dプリンター砂型積層装置を用いた鋳物造りを行う。2011年にインド・カルナータカ州バンガロールに現地法人KOIWAI INDIA PRIVATE LIMITEDを設立。2016年には、ラジャスタン州ニムラナ工業団地に工場建設用の土地を確保し、現地での金型鋳造、熱処理加工、機械加工を行うためのインド工場の開設に力を入れている。
シグマ株式会社
▶基本情報
- 本社:広島県呉市
- 従業員数:180人
- 事業内容:輸送機器精密部品、セキュリティー機器の製造・販売
▶概要
高品質の成形技術を生かした自動車部品の製造を行う。同社は海外展開を行う上で、自動車生産台数1位の中国、3位のインド市場で現地生産を行うことを目的に、2007年に中国現地法人を設立し、2013年にインド現地法人を設立。2017年にインドにおいて工場を立ち上げ、2018年から創業を開始。現在では積極的にインド人従業員を採用し、現地の日系企業および現地企業への部品の供給に力を入れている。
参考資料
[21] シグマ株式会社:ゼロからでもリスクがあっても海外に向かうのは、そこに「未来」があるからです | ジェトロ活用事例 – ジェトロ
まとめ
今回はインドの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査結果を以下にまとめます。
- 産業構造:製造業がGDPに占める割合は2008年以降減少傾向、2022年のインドの経済成長は11.5%になる見通し
- 製造業全体:「Make in India」のスローガンのもと、インドを世界の製造業の中心拠点にするための動きが加速すると考えられる、インドの製造業GDPは2025年までに1兆USドルに到達する見通し
- 製造業の内訳:インド製造業の主力産業は自動車、自動車部品、資本財・工作機械、医薬品の4分野、2027年までに以下の6分野(1. 化学品・石油化学、2. 農業・食品加工、3. 電子・半導体、4. 資本財・工作機械、5. 鉄鉱石・鉄鋼、6. 自動車部品・車両)がインド製造業の成長において大きな影響を与えると考えられる
- 日本企業の進出状況:インドにおける日本企業の企業数は年々増加傾向(ただし年成長率は低下)、業種別では製造業が全体の49%を占め、その中でも輸送用機械器具(10.3%)、化学工業(5.9%)、電気機械器具(5.2%)、金属製品(4.7%)の4業種が製造業企業の約半数を占める
今回の内容が、インド進出を視野に入れている方の参考になれば幸いです。
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