マーコム・サポーターの椎名です。中小企業や個人事業主のマーケティング活動をサポートする傍ら、ライティング活動も行っています。今回はプロダクトマーケティングをテーマにお話しします。
プロダクトマーケティングは製造業のマーケティングの要となる存在であり、専門組織を置く企業も多いと思われます。一方、企業によってその役割や求められるものが微妙に異なることが多く、どう進めていけばよいか迷う方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、プロダクトマーケティングの業務担当者や管理者の方に向けて、プロダクトマーケティングで求められる役割や、進め方や準備すべきコンテンツなどについて解説します。
この記事の目次
プロダクトマーケティングとは?
プロダクトマーケティングは、製品サービスを市場に浸透させる一連のマーケティング活動を指します。製品サービスのコンセプト企画や販売戦略の立案・推進を行い、発売後の顧客生涯価値であるLTV(Life Time Value)を最大化します。
プロダクトマーケティングの役割
プロダクトマーケティングは、業界や企業によって求められる役割が異なります。拡販活動を主軸に置く場合もあれば、企画開発から販売後までの全プロセスを見る場合もあります。また、さまざまな関係組織との連携が必要です。開発部門、営業部門、生産部門、品質管理部門など、製品に関わるあらゆる部門が対象になります。
プロダクトマーケティングのプロセスと推進方法
プロダクトマーケティングは、大きな流れとして、以下の7ステップがあります。
- アイデア検討
- 市場/競合分析
- 製品ポジショニング
- マーケティングミックス
- 実行計画
- 発売時の対応
- 顧客満足度向上(発売後)
ここでは、各プロセスの概要と推進方法についてお話しします。なお、プロダクトマーケティングでは、これらの業務を遂行する上で、関係する部門への情報伝達と意識合わせを行うことも求められます。
1.アイデア検討
まず行うのは、製品企画の種となるアイデアを創出することです。これは、次で説明する市場や競合分析と一緒に行うこともあります。
アイデアの創出は、既存プロダクトの延長の場合と、完全に新規で企画する場合とでやり方が異なります。既存プロダクトの延長製品の場合、営業やカスタマーサポートなど顧客と直接接点がある関係部署からニーズや課題をヒアリングしていきます。その上で、そのニーズ/課題に応えるアイデアを着想することになります。
全くの新規で企画する場合、プロダクトマーケティング担当者が顧客の声を収集することが有効です。営業などの顧客訪問に同行して、直接顧客と会話し、顧客自身の発言を拾っていくとよいでしょう。別の方法として、リサーチ会社など外部の知見を借りて、アンケートやインタビュー調査を実施するやり方もあります。外部の知見を借りることで、新たな着想を得ることが可能です。コストはかかりますが、他者視点を組み合わせるのは効果的です。
アイデアはひとつだけではなく、できるだけ多く創出しておきたいところです。その上でアイデアを整理していくことになります。
2.市場/競合分析
アイデアを整理したら、それをもとに対象となる市場や競合の分析をしていきます。
市場分析では、そのアイデアが活用できそうなポテンシャルのある領域について調査します。現時点でどのような用途があるのかだけでなく、将来的に応用できそうなものは何かというところまで考えていきます。
同時に、競合となり得る製品やサービスも調査します。類似の他社製品だけでなく、広義の意味で製品を置き換える可能性のあるものはすべて視野に入れて考察していきます。
市場と競合がしっかりと分析されていると、自社のアイデアの立ち位置や、攻めるべきターゲットをどこに置けばよいのかが見えてくるはずです。
3.製品ポジショニング
ポジショニングは、市場における立ち位置を明確にすることです。製品やサービスの属性(セグメント)を2つの軸で考え、顧客から自社がどう見えてほしいか立ち位置(ポジション)を考えていきます。
2軸となる属性には、製品の機能や価格、ユーザビリティ、拡張性などがあげられます。例えば以下のようなものです。
- 価格(安い)
- 操作性(使い易い)
- 機能(高機能/多機能/シンプル)
- 品質(安全/長持ち)
4.マーケティングミックス
ポジショニングを行ったら、これまで検討したコンセプトをもとにマーケティングの実行戦略を考えていきます。マーケティングの4Pといわれるフレームワークに当てはめて検討するとよいでしょう。ここでの「4P」とは、
- どんな製品を(Product)
- いくらで(Price)
- どこで(Place)
- どうやって売るか(Promotion)
のことです。その際、顧客にとっての製品価値やコスト、入手手段に関する現状・課題・ニーズなどを調べておくと検討しやすくなります。なお、扱う商材によっては、Person(対象)/Package(パッケージ)/Process(業務プロセス)の要素を考えていくこともあります。
5.実行計画
製品サービスの発売前には全体の進め方や販促計画、顧客対応をどうするかなどの計画を立てていきます。プロジェクト全体の進捗を管理し、発売に合わせ具体的にどうアプローチしていくか考えるとよいでしょう。
プロダクトローンチのような発売前の取り組みも行うこともあります。プロダクトローンチとは、発売前に見込み顧客を集め、部分的に情報提供を行い顧客の購買意欲を高める手法です。
6.発売時の対応
製品の発売と同時に、プロモーション、営業をスタートします。
製品を発売すると、その製品に関心がある顧客から製品の仕様や価格、入手手段などの問い合わせを受けることになります。そのため事前に、問い合わせに対するサポートをどうするかを検討しておきます。また、製品不具合、配送トラブルなど不慮の事態に備えた対応も必要です。
問い合わせは営業や販売店、CS、広報など、さまざまな関係部署から寄せられます。それらの情報は一元管理して、関係部署間で共有しておいた方がよいでしょう。今後、改善ポイントを洗い出しPDCAを回していくために必要となります。
7.顧客満足度向上
プロダクトマーケティングは販売して終わりではありません。発売後はカスタマーサクセスにつなげ、顧客エンゲージメントの向上を図っていきます。プロダクトライフサイクルを考え、製品が今どの位置にいるか見ながら、その都度、売上や価格、チャネルを見直す必要があります。
そうして顧客の生の声を吸い上げ、次の改良製品につなげていくのです。
プロダクトマーケティング推進に必要なコンテンツ
プロダクトマーケティングを進めるにあたって、製品サービスをターゲットに知ってもらい、興味喚起させる必要があります。そのために必要なのがコンテンツです。ここではプロダクトの広報や広告宣伝用に活用するコンテンツについて解説します。
どんなコンテンツが必要か
コンテンツは、オンラインとオフラインのものがあります。
用途は、通常の営業活動で使うほか、広報や広告宣伝、展示会・イベントなど幅広いです。各コンテンツは、媒体/用途に限らず統一感のあるものが望ましいです。また、コンセプトを正しく効果的に伝える共通のビジュアルとメッセージを用意します。
オンラインで用意するもの
オンラインで用意するコンテンツは、Webサイトやランディングページ(LP)、ブログ、WP(ホワイトペーパー)、動画などです。また、これらのコンテンツを広めるためのSNS投稿やメール配信用のコンテンツも必要になります。
Webサイトは、会社ホームページ上に掲載しますが、製品の重要度、販売方針によって製品用に特設サイトを作ることもあります。デジタル広告を打つ場合、商品ページとは別に専用LPを用意した方が効果的です。
ダウンロード用のコンテンツとして、製品が必要な背景・課題などをとりあげたレポートや 事例、カタログ情報なども用意するとよいでしょう。製品の利用シーンや製品デモなど、体験型のコンテンツは動画制作が効果的です。
紙媒体の配布物
紙媒体の主なコンテンツとしては、製品カタログ、チラシなどがありますが、コロナ禍以降、デジタル化が急速に進展し、紙媒体コンテンツの提供機会は減っています。WebサイトからのPDFダウンロードで同じ情報として届けられる一方、紙は印刷や郵送コストがかかるため、コスト削減対象に考える企業もあるでしょう。
一方、紙のコンテンツは今でもFtoFの営業やリアルイベントの際の強力な販促ツールであることは変わりありません。むしろ、多くの企業がデジタル化に注目している今、逆に目に留まりやすい側面もあります。日々、大量のデジタルコンテンツが流れ、デジタル疲れをおこしているユーザーも少なくありません。紙媒体は、こうしたターゲットに刺さるコンテンツになり得る可能性があります。
広報宣伝で用意するもの
新製品を発売する際には、プレスリリースや記者発表、メディアキャラバンなど各種広報活動を行います。そうした広報活動に必要なコンテンツも準備する必要があります。
製品サービスの位置づけ、重要性によって異なりますが、最低でもプレスリリースは用意した方がよいでしょう。プレスリリースは、やることが当たり前になっていて形骸化しがちですが、少額のコストで準備ができ、メディアの力を利用することで広く拡散できます。
ただし、メディアを相手にする場合、期待通りにコントロールすることは難しいです。媒体の方針や記者の考え方によっては、露出効果が限定的になってしまうこともあります。最近は、PR TIMESなど、自社主導で発信できるプレスリリース配信サービスも充実しているので、うまく活用することをおすすめします。
展示会・イベントで用意するもの
イベントでは、オンライン、オフライン含めたすべてのコンテンツが有効活用できます。また、イベント専用のコンテンツとして、製品デモや試用サンプル、説明パネルなどもあります。
展示会の場合、競合他社も出展し、横並びで比較されるため、たくさんの展示品に埋もれないよう見せ方の工夫が必要です。そのためだけにコンテンツを企画制作することもありますが、制作準備のコストやリソースがかかるのが難点です。出展する展示会が自社の目的にどの程度マッチしているのか、期待する効果が得られるものなのか、慎重に選ぶ必要があります。
プロダクトマーケティング業務上の注意点
ここでは、プロダクトマーケティングの業務を推進する上で、現場担当者として気を付けておきたいポイントをご紹介します。
関係部門との意識整合
プロダクトマーケティングは、開発、製造、宣伝、営業、カスタマーサポートなどいろいろな部署と連携することになります。これらの関係部門・担当者間で、情報共有と意見整合がしっかりなされていることが重要です。
企画アイデアのヒントとなる顧客の声や新技術の開発状況、最新の市場トレンドや他社の動きなど各々の担当部門で収集した情報が、担当者や組織を超えて共有されていれば、問題解決やフォローがスムーズになり、部署間の議論が進み、スピードアップを図れます。
逆に情報が共有されていないと、関係者間のコミュニケーションに齟齬が生じて、企画段階からなかなか先に進まず、他社に先を越されてしまったり、十分に仕様検討を煮詰められずに市場に出すことになってしまったりするかもしれません。
ツールなどを活用し、情報共有の仕組みを構築しておくとよいでしょう。
また、組織の体制によっては各関係者の役割分担が曖昧で、業務の境目にボールが落ちることもあります。企業によりますが、プロダクトマーケティングの担当者には、プロジェクトの全体最適化が求められることも多いです。自身の業務だけでなく、他部門も含め上空から鳥の目線で業務を見ることも大切になります。
アイデア企画
プロダクトマーケティングにおいて、企画アイデアや打ち手の検討は根幹となる重要な部分です。この部分をどう考えていくべきかについては、製品/サービスが、従来延長なのか全くの新規なのかで変わってきます。
従来延長の製品/サービスの場合、顧客の課題やニーズに対する声は、日ごろ接点が多い営業やカスタマーサポートが拾う機会が多いです。こうした顧客接点のある担当者間の情報連携を仕組化し、一元化して情報蓄積しておくことが重要になります。
一方、新規プロダクトの場合、そうした通常のコミュニケーションではなかなか顧客の声を拾うことはできません。特に潜在的なニーズや課題は、言語化された情報になりにくいです。インタビューやアンケートを通して、マーケティング担当者が自ら情報収集し、業界の動向や先進事例なども見ながら分析・考察をすることになります。
この際注意したいのは、アンケートなどの調査のやり方です。従来のアイデア企画では、対象となる多くのユーザーの声を集め、傾向を分析する傾向がありました。しかし、大多数の平均的な声に耳を傾けすぎると、誰もが考えるような尖らない企画になってしまいます。
今日では、むしろリーディング顧客の一人に焦点をあて、その人を深堀して隠れた潜在的なニーズを引き出すことが重要視されています。
業務の優先順位
プロダクトマーケティングの業務は多岐に渡ります。一人でいくつもの製品を担当する人も珍しくなく、業務量も多いです。
特にコンテンツの資料作成や、内部関係者整合に時間をとられがちになります。そのため、本来やりたいアイデア着想や売り方を検討する時間がとれないのが課題です。高度な技術知識が要求されるハイテク関係でその傾向が強いといわれています。
一番の対策は、組織的解決です。例えばハイテク関係の企業であれば、テクニカルマーケティングの組織と担当者を置き、技術領域は担当者に専任してもらうという手があります。技術領域は高度な知識と専門性が必要とされるため、これは単にプロダクトマーケティングの負荷を減らすだけでなく、専門家部隊を置くことで価値向上を図ることもできます。
担当者自身が解決できる対策としては、コンテンツの制作負荷を削減する工夫です。先に挙げたようにプロダクトマーケティングに必要なコンテンツは多岐に渡りますが、目的や用途に合わせてテンプレート化し、コンテンツの流用を図ることで省力化できます。
プロダクトマーケティングは、高い専門性とマネジメント力を要求される業務です。人材育成にも時間がかかるため、慢性的な人材不足に陥っている企業もあるでしょう。自社の努力だけでは限界がある場合、外部人材やパートナー企業の活用も視野にいれるとよいでしょう。
最近は、マーケティング領域でも外部人材を積極活用する企業も増えています。コンテンツの企画制作や、調査分析業務であれば外部にリサーチ人材も多いので、業務を切り出してみるのもよいのではないでしょうか。
まとめ
プロダクトマーケティングは、アイデア検討から市場分析、発売からその後までプロダクトライフサイクルの全工程を見る業務です。さまざまな関係組織との連携が必要で、関係部署との情報共有と意見整合が重要になります。担当者や組織の垣根を超えて最新の情報共有を図ることで、部署間の議論が進み、スピードアップを図れます。時代のニーズをとらえた製品を他社に先駆けて市場投入するには、情報共有の仕組み化が重要です。
製品/サービスを認知喚起し、ターゲットに購入を促すためには、さまざまなコンテンツが必要になります。コンテンツは通常の営業活動以外でも、広報や広告宣伝、展示会・イベントなど幅広い用途があります。一方、それらのコンテンツの制作にはかなりのリソース・工数が必要です。マーケティング担当者が資料作成に追われ、本来力をいれるべきアイデア着想や売り方を検討する時間がとれなくなっては本末転倒になります。
業務の最適化を図る方法として、組織体制の見直しやコンテンツの流用などがありますが、外部人材を活用するのもひとつの手です。テクノポートは製造業のWebマーケティングを支援する各種コンサルティングサービスをご用意しています。お困りの際は、ぜひご相談ください。