テクノポートの廣常です。2023年6月2日(金)に、経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で「2023年版ものづくり白書」を発表しました。
※ものづくり白書とは、国内のものづくりに関する基礎的なデータと、その年の課題や政府の取組、振興施策に関する報告書であり、今年で23回目の発行となります。
当記事では、2023年版ものづくり白書に基づき、日本の製造業の状況と、今度取り組むべきデジタル施策についてお伝えします。
この記事の目次
国内のものづくりに関する基礎データ(業績・施策・投資状況等)
業績
項目 | 状況 |
---|---|
GDPにおける製造業の割合(2021年) | 20.6% ※2015年度より20%程度を維持 |
業況(2022年) | 低調 ※2022年上半期から原材料価格の高騰等の影響で悪化 |
営業利益(2022年) | 約19.0兆円 増加傾向 ※過去10年で最高だった2021年を上回る。売上高増加やコスト(販管費)減少が寄与。 |
世界売上高シェア(2020年) | 200越えの品目で世界シェア60%越え |
2022年の業況は低調なものの、GDPにおいて製造業が占める割合は約2割と、高い存在感を維持しています。
また、世界売上高シェアに関しては、220品目において日系企業が世界シェア60%を超えています。
※上記引用図のバルーンは主要品目を表しており、その大きさは売上高を示しています。
この世界シェア60%以上の品目については他国と比べても圧倒的に高く、エレクトロニクス系や自動車部素材で強みを発揮しています。
<他国の世界シェア60%以上の品目数>
アメリカ:99品目、欧州:50品目、中国:44品目
ただ、売上高が1兆円以上の品目は他国と比べて18品目と少なく、その内訳は自動車産業(自動車・ハイブリッド車)に大きく依存している状態です。
<他国の売上高が1兆円以上の品目数>
アメリカ:33品目、欧州:25品目、中国:28品目
事業環境への影響と対策
項目 | 状況[回答割合] |
---|---|
事業に影響を与えた社会情勢の変化 |
|
情勢の変化に対し、直近3年で実施した企業行動 |
|
事業環境に影響を与えた社会情勢の変化について、前年度と比べ「原材料価格(資源価格)の高騰」との回答が引き続き高い割合を占めているほか、「エネルギー価格の高騰」「為替変動」の割合が顕著に高まっています。
また、これらの状況をふまえ、直近3年で最も事業に影響した企業行動としては、「価格転嫁(販売先に対する値上げ要請、消費者価格の値上げ)」が最も割合が高い状態です。製造・販売する製品や部材の原材料調達における高騰分の価格転嫁については、約7割の企業において実施が進んでいます。
投資状況
項目 | 状況 |
---|---|
設備投資(2022年) | 増加傾向 ※2020年前半にコロナ影響で大きく落ち込むが、増加傾向に |
IT投資(2022年) | 増加傾向 ※情報化投資の優先度が年々増加 |
設備投資については、2020年前半に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け大きく落ち込んだものの、以降は増加傾向が続いています。
投資の目的としては、2020年と比べてシステム化やDX、脱炭素関連の投資に大きな伸びがみられます。
2020年と比べて大きな伸びがみられた項目
有形固定資産
- 旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス
- DX関連(工場のIoT化等)
- 脱炭素関連
無形固定資産
- DX関連(工場のIoT化等)
- データの利活用による顧客行動や市場分析
近年の製造業を取り巻く変化
白書では、近年の製造業を取り巻く変化として、大きく以下の2つが挙げられています。
製造業を取り巻く環境の変化
国際情勢の不安定化に伴う、サプライチェーン寸断リスクの高まり
新型コロナウイルス感染症の感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻など、ここ数年で製造業が外的な影響を大きく受ける状況が続いています。
こうしたリスクに備えるため、調達先の把握や有事の際の生産拠点の変更・拡充といった行動がより重視されてきています。
GX(グリーントランスフォーメーション)の重要性の高まり
欧米をはじめ、世界で脱炭素に関する規制等の作成が進んでおり、GXへの取り組みの重要性が高まっています。GXに関する政府支援額についても、アメリカは10年間で約50兆円、ドイツは2年間で約7兆円などと高く、その動きは欧米を中心に加速化しています。
ビジネス環境の変化
ビジネス環境の変化については、海外の先進企業と比較した日本企業の特徴をふまえ、以下の2点が挙げられています。
デジタル化・標準化による水平分業の進展
日本:従来、設計や開発、製造技術は自社で保有(自社で一貫対応する、垂直統合的確保)
海外:生産技術の標準化・デジタル化が発展。設計など自社の一部機能を切り出し、高度化させて他社へ提供(複数社が一体となって対応する、水平統合的確保)
日本では現場の高度なオペレーションによる高い生産性や、熟練技能者による優れた技術など、独自の強みを保有しているものの、海外のような形式知化や複数企業との協力体制が進んでいません。既存の取引先・グループに縛られず、サプライチェーンを強靭化させていく柔軟性が問われています。
海外でのデジタル化・水平展開事例
・ドイツ Siemens AG
産業制御システムメーカーであるシーメンスが、サービス事業者へ転換。自社が保有していた企画から製造、販売、輸送、メンテナンスといったノウハウを標準化・デジタル化し、高品質のなものを製造できる「仕組み」として他社へ共有している。産業用IoT「MindSphere(マインドスフィア)」をはじめとした製造業向けサービスを展開。
サプライチェーンの見える化・ダイナミック化
日本:企業間のデータ連携・可視化の取組ができている事業者が少ない
海外:企業間のデータ連携・可視化が進んでおり、サプライチェーンの最適化の実現を目的とする、製造事業者のデータ連携基盤が発足
顧客の要望にスピーディーに応える、あるいは災害等の有事において調達先を動的に変えていくために、個社やグループを超えたデータ共有を通じた最適化を図っていくことが必要です。
海外でのデータ共有事例
・ドイツ発プラットフォーム「Catena-X」
ドイツ発の自動車産業向けデータ共有エコシステム。自動車メーカー、部品・素材メーカー、ソフトウェアベンダー、産業機械メーカー、研究機関など100社を超える企業が参加し、環境負荷に関する情報や部品のトレーサビリティ情報を共有。
白書の内容をふまえ、デジタルマーケティングにおいてできる取り組み
以上の白書の内容をふまえ、デジタルマーケティングの分野においてできる取り組みを3つ、紹介します。
サプライチェーンの拡張に向けた体制強化
白書にも記載の通り、有事の際のサプライチェーン寸断への備えや、企業・業種の枠を越えたつながりが必要となってきています。自社の従来のビジネスモデルに固執せず、その強みを生かして新たな事業へ挑戦する動きもより加速化すると考えられます。
そのため、以下のような要素を改めて見直し、デジタルマーケティングにおける情報発信(Webサイト等各種媒体で発信)に組み込んで行くことも一つの手立てと考えます。
- 既存の顧客業界以外に、他業界とどのようにつながりを得られるか?
- 水平分業的に協業する場合、自社にはどのような強みがあるか?
- 他社と提携、データ化・形式知化できるような情報はないか?
デジタルといった特性上、効果検証のためのテストやデータ分析、反響を掴みやすい点がメリットとして挙げられます。他社との関係性構築や、水平分業的な事業展開を本格的に始動する前の布石として、このような情報発信を行うことは効果的です。
GXへの取り組みに関する訴求
GXへの取り組みの重要性が世界的に高まっており、既に欧州では環境負荷軽減の取り組み具合をサプライヤー選定基準として設けている企業が増えてきています。
今後日本国内でも同様の動きが広まる可能性をふまえ、デジタルマーケティング上での自社の訴求内容として、技術的な強みや加工実績だけではなく、環境対応に関する取り組みもコンテンツ化できるよう、取り組み内容の強化やデータを蓄積していくことをおすすめします。
顧客データのデジタル化・分析
白書では製造の全工程(企画〜設計〜製造〜販売)におけるデジタル化や、それらをサービス展開する動きが取り上げられていましたが、業種や企業規模などによっては、そのような一貫したデジタル化が難しいケースや、何から手をつければ良いかわからないといったケースがあるかと思います。
製造工程におけるデジタル化は、生産ラインや製品への影響を考慮せねばならず導入難易度も高いですが、顧客データのデジタル化や自社に興味を持つユーザーの分析は、ツールやWebを活用すれば比較的容易に実施が可能です。顧客のニーズを分析し、製品の企画・開発に反映させていくためにも、まずは顧客データのデジタル化・分析からはじめてみてはいかがでしょうか。
まとめ
以上、2023年版ものづくり白書に基づき、日本の製造業の状況と、今度取り組むべきデジタル施策についてお伝えしました。近年の製造業動向の概要を掴む一助となれば幸いです。
GX、DX面では海外先進企業の進展が目立ちますが、日本国内においても大手・中小問わず自社の特長を生かしたさまざまな取り組みや、新規事業展開を図る企業が増えてきており、白書内にも多くの事例が掲載されています。ぜひご覧ください。