AI検索が製造業マーケティングに与える影響と対応策

【執筆者紹介】徳山 正康

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この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のデジタルマーケティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術の“伝わらない”をマーケティングで解決する」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,200社を超える製造業を支援し、数多くの企業の新市場開拓や技術の用途開発を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
精密板金企業が「Webでの引き合い」を売上につなげることができた、たった一つの理由(ビジネス+IT)
製造業のSEO対策を基礎から解説、「加工事例」が超重要なワケとは(ビジネス+IT)
製造業の「技術マーケティング」戦略、事例で読み解く自社技術の可能性を広げる方法(ビジネス+IT)
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テクノポートの徳山です。近年、生成AIの急速な普及により、ユーザーの情報収集行動は大きく変化し、製造業のWebマーケティングにも直接的な影響が及び始めています。

本記事では、AI検索の台頭がもたらす構造的な変化と、企業が今後取るべき実践的な対応策について、最新のデータと事例を交えながらわかりやすく解説します。

AI検索の普及により起こる変化

近年、生成AIの利用者数は急速に拡大しています。下図が示す通り、ChatGPTをはじめとした生成AIツールは広く一般に浸透し、情報収集手段として定着しつつあります。一方で、検索エンジンの王者であったGoogleでは、ユーザー数および検索結果のクリック率(CTR)が大幅に低下しており、従来のような圧倒的な送客力は失われつつあります。

この変化は、単なるツールの流行ではなく、「情報探索の入り口」が検索エンジンからAIへ本格的にシフトしていることを意味しています。

検索エンジンとAI検索ユーザーの検索行動の違い ― ゼロクリック現象の拡大

AI検索の普及により、ユーザーの検索行動そのものが大きく変化しています。従来の検索エンジンでは、ユーザーは検索結果ページに表示されたWebサイトへ遷移し、複数のページを比較しながら情報収集を行っていました。それに対しAI検索では、AIが最適化された回答をワンストップで提示するため、ユーザーがAIの回答だけで満足し、Webサイトへ訪問しないまま情報収集を完了するケースが増えています。

この現象は「ゼロクリック現象」と呼ばれ、AI検索時代において急速に広がっています。SEOを中心に集客してきた企業にとっては、ただ順位を上げるだけではアクセスが獲得しづらくなるという深刻な課題を突きつけています。

製造業のマーケティングに与える影響 ― 調査レポートから読み解く変化

製造業のWebマーケティングは長らく検索エンジンからの送客に依存する傾向がありました。実際、弊社が2024年に実施したアンケート調査でも、新規外注先を探す際の情報収集手段として検索エンジンを利用する割合が最も高いという結果が得られています。

しかし、2025年に実施した同様のアンケートでは状況が変わりつつあることが明らかになりました。依然として検索エンジンを利用するユーザーは多いものの、生成AIを情報収集に活用するユーザーがすでに約25%に達していたのです。この数字は、AI検索が製造業分野にも急速なスピードで普及していることを示しているのではないでしょうか。

 

AI検索ユーザーの特徴 ― アクセスは少ないがCV率は高い

弊社が支援する製造業クライアントのWebサイトでも、2025年春頃から変化が明確に表れ始めています。これまで主流であった検索エンジンからの流入数は徐々に減少し、その一方で生成AIを経由した流入が着実に増加している状況が確認されています。

さらに、AI検索を経由して訪問したユーザーの行動データを詳細に分析したところ、いくつかの特徴が明らかになりました。まず、AI検索からの流入数そのものは依然として多くはありません。しかしながら、問い合わせや資料請求といったコンバージョンに至る割合は、検索エンジン経由のユーザーと比較して2〜5倍と非常に高い傾向を示していました。

このことから、AI検索を利用するユーザーは、自身の課題をある程度明確に認識し、目的意識を持った状態でWebサイトに訪れている可能性が高いと考えられます。

AI検索の普及により製造業が受ける影響まとめ

以上の結果から、AI検索の普及が製造業のWebマーケティングに及ぼす影響について、整理してまとめます。

ネガティブな影響

  • 製造業のWeb集客は検索エンジン依存度が高かったが、近年その利用者は減少傾向にある
  • 一方でAI検索は急速に普及しており、ゼロクリック現象の影響でWebサイトへの流入機会が確実に減少しつつある
  • 従来のSEO施策だけではアクセスの維持が困難になりつつある

ポジティブな影響

  • AI検索を経由して訪問するユーザーは、目的意識や課題意識が明確
  • そのため、問い合わせ・資料ダウンロードなどのコンバージョン率は検索エンジンより高い傾向
  • 少数精鋭だが、高品質な見込み客と接点が生まれる可能性がある

AI検索によって変わるユーザーの行動

AI検索の普及は、ユーザーが情報を探し、比較し、意思決定するプロセスそのものに大きな変化をもたらしています。本章では、検索行動がどのように変わり、それが製造業のWebマーケティングにどのような影響を与えるのかを整理して解説します。

1. 潜在ユーザーがWebサイトに訪れにくくなる

AI検索の普及によって最初に考えられる変化は、潜在ユーザーがWebサイトに訪れにくくなるという点です。この背景については、当社が開発した「購買フローマップ」を用いることでより明確に説明できます。
※購買フローマップの詳細はこちら:顧客の購買プロセスを可視化する「購買フローマップ」

購買フローの前半に位置づけられる潜在ユーザーは、技術の基礎知識、メカニズム、技術課題など、比較的一般的な情報を検索する傾向があります。しかし、これらの情報はAIによって十分に生成可能であり、多くの場合、ユーザーはAIが提供する回答だけで満足してしまいます。その結果、Webサイトに訪問する理由がなくなりやすい状況が生まれてしまいます。

一方で、購買フロー後半のユーザーは、課題解決方法の模索や具体的な技術・製品の比較検討を進める段階にあります。この層のユーザーは、AIの回答だけでは必要な情報を十分に得られないケースが多く、最終的には問い合わせや資料ダウンロードといった企業との直接的な接点を通じなければ目的を達成できません。そのため、この段階のユーザーがAI検索を行った際に自社の情報が引用されるかどうかが、Webサイト訪問へとつなげるうえで極めて重要なポイントとなります。

このように、AI検索の普及に伴い、今後は潜在ユーザーとの接点をどのように構築するかが、製造業のマーケティングにおける大きな課題になると考えられます。

2. 探索(会話)型の検索行動へと変化する

二つ目の変化は、ユーザーの検索行動が探索型、つまり会話型へとシフトする点です。従来の検索エンジンでは、ユーザーはまずキーワードを入力し、その検索結果に表示されたWebサイトの中から必要な情報が得られそうなページを選び、実際にアクセスして内容を確認しながら情報を収集していました。それに対しAI検索では、ユーザーはキーワードに縛られず、会話を通じて段階的に情報を深掘りしていくことが可能になります。その結果、ユーザーはより深い情報に辿りつきやすくなります。

この変化は、企業側の情報発信に対して大きな影響を与えます。一般的な知識情報は、検索エンジン対策(SEO)では一定の効果がありましたが、AI検索の時代にはこうした情報は差別化につながりにくく、引用されたとしてもリンクをクリックしてもらえない可能性が高いです。つまり、他のサイトと同質な内容では、AI検索において存在感を示せなくなるということです。

そのため、AI検索を前提とした情報発信では、ユーザーのニーズに応える専門性の高い一次情報を充実させることが重要になります。AIとの対話の中で「引用する価値のある情報」を提供できるかどうかが、今後のWebサイト運用における競争力を左右すると言えるでしょう。

3. 検索行動のグローバル化 ― AI検索は国境を越える

三つ目の変化は、検索行動のグローバル化です。従来、検索エンジンで日本語のキーワードを入力した場合、検索結果には基本的に日本語のWebサイトが表示されていました。しかしAI検索では、たとえ日本語で質問したとしても、AIが各言語のWebサイトから情報を横断的に収集し、回答を生成します。そのため、引用されるリンクには海外のWebサイトが含まれるケースも珍しくありません。

この特性により、AI検索の普及は必然的に情報収集のグローバル化を促進し、企業間の競争を国境の枠を超えて激化させる可能性があります。しかし、日本の製造業のWeb上での情報量は、アメリカや中国をはじめとした海外企業と比較すると圧倒的に不足しているのが現状です。このままでは、AI検索の回答生成において日本企業の情報が参照されにくくなり、その結果、比較検討の対象から外れてしまうリスクすらあります。

したがって、日本の製造業はAI検索時代を前提に、情報発信量とWebサイト運用の強化に積極的に取り組む必要があります。AIが引用したくなる質と量の一次情報を整備することこそが、グローバルな競争環境において存在感を維持する鍵になると言えるでしょう。

AI検索時代に製造業マーケターがとるべき対応策

AI検索の普及により、製造業マーケティングの取り組み方は大きく変わりつつあります。ここでは、これからの時代に製造業マーケターがどのような対策を取るべきかを、一問一答形式で整理しました。

Q. AI検索で自社情報が引用されるためには何をすべきですか?

A. AIが理解しやすい“構造化された技術情報”を整備することが重要です。
AIは長文よりも「体系立てて整理された情報」を引用しやすいため、技術情報を見出し・箇条書き・表・工程説明などで構造化し、論理的に整理することが求められます。特に「用途」「特徴」「スペック」「比較情報」「よくある質問」などは構造化しやすく、AIに引用されやすい傾向があります。

Q. AI検索時代において、Webサイトにはどのような情報を掲載すべきですか?

A. AIが引用しやすい一次情報(独自情報)を積極的に増やすことが必要です。
一般論や基礎知識だけでは差別化できず、AIにも引用されたとしてもリンクをクリックしてもらいにくいため、自社の経験や技術ノウハウを基にした一次情報が不可欠です。例えば、加工ノウハウ、導入事例、検証データ、品質管理プロセス、トラブルシューティング、技術者インタビューなどを積極的に掲載することが有効です。

Q. WebサイトのどのページからAI対策を始めるべきですか?

AI検索対策においても、SEOと同様に購買フロー後半のユーザーを想定したコンテンツを優先的に強化すべきです。
後半のユーザーは具体的な課題解決や製品選定を行っているため、AIが引用した際に実際のWebサイト訪問につながりやすい特徴があります。まずは、ユーザーが製品情報を調べる際にどのようなプロンプト(質問文)を使うかを想定し、その質問に対して引用されるような詳細かつ実用的な情報をページ内に盛り込むことが重要です。

Q. 情報発信量の不足を補うために、どのような活動が有効ですか?

A. オウンドメディアだけでなく、広報活動全般を強化することが効果的です。
AIはWeb上の幅広い情報を参照するため、自社の認知度を高めることが引用獲得につながります。広報活動(Webメディアでの露出)、特許情報や技術レポートの発信、製品比較サイトへの掲載など外部発信の強化が重要です。

Q. 潜在ユーザー層がWebサイトに訪れにくくなる中、どのように接点を作ればよいですか?

A. 潜在層向けの発信はSNS・動画など別動線でカバーすることが必要です。
潜在ユーザーは情報収集の大半をAIで完結させるため、従来のSEO施策だけでは接点を作りづらくなっていくと考えられます。YouTubeによる技術解説動画、LinkedInやXでの技術トレンド発信、Webメディアへの掲載など、他チャネルでの露出が重要になります。

Q. AI検索時代において“比較検討段階のユーザー”に選ばれるには?

A. 比較検討に必要な情報(価格帯、仕様、試験データ、導入事例など)を明確に提示し、AIとの対話で深掘りされる質問にも応えられる詳細情報を整備することが重要です。
AI検索の後半段階にいるユーザーは、具体的な意思決定に向けてより深い情報を求める傾向があります。AIとのやり取りの中で「他社製品と比べ具体的にどのような点が優れているのか」「〇〇以上のスペックを持つ製品を探している」「自社で発生している課題が解決できるのか」といった踏み込んだ質問が発生しやすく、これに対応するコンテンツを掲載しておくことで引用してもらえる可能性が高まります。

Q. 技術者不足の企業でもAI検索対策を進める方法はありますか?

A. 技術者が不足している企業では、どうしても詳細な技術情報を一次情報として発信しづらい傾向があります。その場合は、情報発信の切り口を変えることが効果的です。
たとえば商社であれば、顧客課題に応じて複数の製品から最適なソリューションを選定し、組み合わせて提案できるという独自の強みがあります。こうした価値提供を示す導入事例や提案プロセスを多くWebコンテンツとして掲載することで、技術的な一次情報が不足していても、AIに評価される実践的で独自性のある情報を十分に補うことができます。

Q. AI検索の時代ではSEOは無意味になってしまうのでしょうか?

A. いいえ、SEOは引き続き重要であり、むしろAI検索対策としても有効です。
検索エンジンとAI検索はアプローチこそ異なるものの、「ユーザーにより良い情報を提供する」という根本的な目的は共通しています。AIはWeb上の膨大な情報も含め回答を生成しますが、その学習元には検索エンジンで高く評価されているページが多く含まれています。つまり、検索エンジンで上位表示される良質なコンテンツは、AIにとっても信頼性の高い学習リソースとなりやすく、結果としてAIの回答に引用される可能性が高まります。

◇◇◇

AI検索の普及は、従来のSEO中心の集客モデルを大きく変えつつありますが、その一方で、目的意識の高い優良ユーザーとの接点を生み出す新たな機会にもなっています。重要なのは、AIに引用される価値のある一次情報を整備し、国内外へ向けた発信力を強化することです。

AI検索対策にお困りでしたら、ぜひテクノポートへご相談ください。

この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のデジタルマーケティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術の“伝わらない”をマーケティングで解決する」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,200社を超える製造業を支援し、数多くの企業の新市場開拓や技術の用途開発を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

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