「主要取引先への依存度が高い」——銀行や税理士、中小企業診断士からそう指摘されたことはないでしょうか。あるいは、特定の1社からの売上が全体の大半を占めていて、漠然とした不安を抱えている経営者の方もいるかもしれません。
本記事では、取引先依存度の基本的な意味から、依存度が高いことによる経営リスク、そして実際に1社依存から脱却した製造業3社の事例まで、具体的に解説します。
この記事の目次
取引先依存度とは
取引先依存度(取引依存度)とは、常時取引を行っている販売先のうち、最も多く取引をしている1社への売上が、自社の総売上高に占める割合を指します。計算式は以下の通りです。
取引依存度 = 最も多く取引している販売先への販売額 ÷ 総売上高 × 100
例えば、年間売上1億円のうち、A社への売上が6,000万円であれば、A社への取引依存度は60%となります。
中小企業診断士やコンサルタントの間では、経営リスクを分散する観点から「特定企業への依存度は3割以下に抑えるべき」という考え方がよく語られます。中小企業庁の調査でも、常時取引を行っている販売先数が多い企業ほど、特定の販売先への依存度が低い企業の割合が高くなる傾向が示されています。
つまり、依存度を下げるということは、実務的には「販売先の数を増やす=新規取引先を開拓する」ことと同義です。
1社依存が招く経営リスク
特定の1社に売上の大半を依存している状態には、次のようなリスクが伴います。
外的要因によって仕事が一気になくなる可能性がある:発注元の担当者の異動、方針転換、生産移管、災害、倒産など、自社ではコントロールできない要因で発注が途絶えることがあります。最悪の場合、連鎖的な経営悪化につながりかねません。
価格交渉力が弱くなる:主要取引先との関係を優先するあまり、無理な工期や利益の出にくい条件でも受けざるを得なくなり、気づけば薄利多売の構造が常態化しているケースも少なくありません。
新しいチャンスを逃しやすくなる:条件の良い新規案件の話が来ても、既存の主要取引先の対応を優先せざるを得ず、断ってしまうことがあります。結果として、せっかくの新規取引先との関係が疎遠になってしまうこともあります。
これらのリスクを踏まえると、依存度を下げる取り組みは「守りの経営」であると同時に、新しい事業機会をつかむための「攻めの経営」でもあります。
新規取引先開拓のハードルの高さ
「では新規開拓をすればいい」と分かっていても、実際に動き出すと多くの中小製造業がハードルの高さに直面します。
既存の取引関係が壁になる
発注元と受託加工業者の間には長年の信頼関係が築かれており、新規参入の余地が小さいことが多いです。
情報が閉鎖的
業界内は口コミや紹介中心で情報が広がる傾向があり、外部からは「何ができる会社なのか」が見えにくい構造になっています。
展示会だけでは”タイミング”がつかめない
展示会や商談会は、商談機会を増やす手段として有効ですが、相手が発注を検討しているタイミングと一致しなければ、名刺交換や情報収集で終わってしまいがちです。どれだけ出展回数を増やしても、「今まさに探している人」に出会えるとは限りません。
技術の違いが伝わらず価格競争になりやすい
自社の強みが言語化・可視化されていないと、他社との違いが伝わらず、価格だけで比較される展開になりやすくなります。
属人的な営業には限界がある
紹介営業は経営者や担当者個人の人脈に依存するため、スケールさせにくいという構造的な課題があります。
こうした背景から、多くの企業が展示会や紹介営業と並行して、Webを起点とした新規開拓に取り組み始めています。次章では、そのための具体的な進め方を4つのステップで紹介します。
新規取引先を開拓する4ステップ|取引先依存度を下げる実践プロセス
STEP1:技術棚卸
まず、自社が保有する技術・設備・ノウハウを棚卸しします。「何ができるか」を洗い出す工程です。加工技術、保有設備、対応可能な材質・サイズ・精度、これまでの実績などを一覧化し、自社の対応力を可視化します。
STEP2:多面的な価値分析
棚卸しした技術を、「技術」「提供機能」「用途・市場」という3つの軸で捉え直します。
技術:保有する加工技術や設備そのもの(例:精密切削、樹脂成形、レーザー溶接)
提供機能:その技術が実現できる価値(例:軽量化、異素材接合、微細加工)
用途・市場:その機能が活用できる産業分野や具体的な用途
ここが最も重要な工程です。「〇〇業界向けの技術」という業界軸だけで自社を語ってしまうと、これまで接点のなかった業界には情報が届きません。一方で、「機能」の軸で語り直すと、想定していなかった業界からの問い合わせにつながる可能性が広がります。1社依存に陥っている企業の多くは、この技術の切り口が主要取引先の業界に最適化されすぎているという共通点があります。
STEP3:Webマーケティング実施
STEP2で整理した「技術×機能×用途」の切り口をもとに、Webコンテンツを企画・制作します。技術解説記事、用途例の紹介記事、技術者インタビューなど、発注担当者がキーワード検索で情報収集する際に見つけてもらえるコンテンツを継続的に発信します。展示会と違い、Webは24時間365日「今まさに探している人」との接点になり得る点が最大の強みです。
STEP4:問い合わせ分析と価値の再分析・訴求
コンテンツを公開して終わりではなく、どのような問い合わせが実際に来ているかを定期的に分析します。想定していなかった業界や用途からの問い合わせがあれば、それは新しい市場のヒントです。反応の良かった切り口を踏まえて、STEP2の価値分析を再度見直し、訴求内容をアップデートしていく——このサイクルを回し続けることが、依存度を継続的に下げていく鍵になります。
事例紹介
有限会社小林製作所:通信1社80%→10年で新規100社超

引用:有限会社小林製作所
金属のプレス板金・金型設計製作・切削加工を手掛ける、従業員25名ほどの金属加工会社です。
課題
10年前、通信機器インフラ関連の1社からの売上が全体の80%を占めていました。経営の安定化のため特定1社への依存脱却が急務でしたが、展示会や商談会、紹介営業では顔つなぎで終わることが多く、思うような成果が出ていませんでした。また、プレス・板金・切削と幅広い加工に対応できる反面、「何が強みの会社なのか」が伝わりにくいことも課題でした。
取り組み
Webサイトを軸にしたマーケティングに切り替え、加工技術の見せ方を継続的に見直しました。当初は難削材の加工技術を中心にアピールしていましたが、プレスや切削の特徴を捉え直し、その時々で訴求ポイントを変える運用に転換。「何でもできます」という打ち出し方から、「多様な加工方法の中からお客様に最適な方法を提案できる」という強みの伝え方へと変化させていきました。
成果
現在は月平均30件の問い合わせを獲得し、過去10年間で100社以上の新規顧客を開拓。特定企業への依存から脱却しました。ホームページ単独の成果ではなく、問い合わせ後も提案を続け、その場で決まらなくても別案件での受注につなげる対面営業と組み合わせたことが、成果を支えています。
ギケン:自動車依存→短期間で成果を創出、今後の成果にも期待が持てるように

引用:株式会社ギケン
樹脂試作・樹脂成形を手掛ける受託加工メーカーで、試作部品用の金型・治具・検査具の製作から量産まで対応しています。
課題
主に自動車業界向けの案件が中心でしたが、EV化や脱炭素、自動車関税、若者の自動車離れといった業界構造の変化を背景に、自動車業界への依存度を下げたいという課題を抱えていました。以前のWebサイトは会社概要や設備紹介が中心で、新規の問い合わせを生み出す営業ツールとして十分に機能していませんでした。
取り組み
自社の加工技術や対応実績を、業界軸ではなく用途・機能の軸で整理し直し、Webコンテンツとして発信する取り組みを開始しました。
成果
ホームページ経由の問い合わせが大幅に増加し、GFRP加工、熱板溶着、試験片製作など、これまで受注経験のなかった分野からの相談が入るようになりました。自動車業界一本足打法からの脱却に向けた基盤ができつつあります。
鳴滝工業株式会社:草刈り機向け70〜80%→取引先60社を超えて開拓し依存率25%に

引用:鳴滝工業株式会社
鋼構造物事業部と歯車事業部を持つ製造メーカーで、歯車事業部ではベベルギアやスパイラルベベルギアなど、高い加工技術を要する精密歯車を製造しています。
課題
以前は草刈り機向け歯車が売上の7〜8割を占め、特定顧客への依存度が高い状態でした。草刈り機向けは機能面で差別化しにくく、価格が主な評価基準になりやすいため、薄利多売の構造から脱却する必要がありました。
取り組み
精密歯車という技術・機能そのものに需要がありそうな新しい用途を仮説として立て、Webコンテンツを通じて発信していきました。
成果
ホームページ公開後、約4年間でホームページ経由の問い合わせが186件、電話を含めると200件以上の新規案件につながりました。公開3年目以降は、ホームページ経由顧客の売上が年間500万円以上を継続して計上。国立大学の鳥人間コンテスト向けギア、大型ドローン、ロケット開発関連など、従来は接点を持ちにくかった分野からも相談が入るようになりました。2025年度には取引先が約60社となり、主要取引先への依存率も25%まで低下しています。
新規取引先が増え始めたら意識したいこと
新規取引先が増え始めると、売上の分散が進み、1社依存のリスクを軽減できます。一方で、新規案件への対応に追われるあまり、既存顧客への対応品質が低下したり、利益率の低い案件が増えたりすると、本来の目的である経営の安定化につながらないこともあります。
そのため、新規取引先を増やす際は、既存顧客との関係を維持しながら、利益率や業界・用途のバランスも意識して顧客基盤を広げていくことが重要です。また、ホームページからの問い合わせはすぐに受注へ結び付くとは限りません。継続的な提案やフォローを行い、長期的な取引へ育てていく視点も欠かせません。
まとめ
取引先依存度は「最も多く取引している販売先への売上÷総売上高」で計算され、一般的に3割以下が望ましいとされています。しかし、依存度を下げることは数値上のテクニックではなく、新規取引先を地道に開拓し続けた結果です。
今回紹介した3社に共通するのは、「展示会や紹介営業だけでは限界がある」と気づき、自社の技術を業界軸ではなく機能・用途の軸で捉え直し、Webを通じて発信し続けた点です。技術棚卸→多面的な価値分析→Webマーケティング実施→問い合わせ分析と価値の再分析・訴求、というサイクルを回し続けることが、1社依存・特定業界依存からの脱却につながります。
テクノポートでは、1社依存からの脱却を目的とした新規取引先開拓の支援実績を豊富に持っています。自社の主要取引先への依存度に不安を感じている方、展示会や紹介営業だけでは限界を感じている方は、お気軽にご相談ください。