テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
前回の記事では製造業の拠点候補として近年注目を集める「ASEAN(東南アジア諸国連合)」について紹介しました。今回はそのASEAN地域の中でいち早く先進国の仲間入りを果たしたシンガポールについて紹介します。
結論から申し上げますと、シンガポールのGDPにおける製造業の割合は縮小傾向にあり、主要産業はサービス関連業にシフトしています。(出典:ASEAN Key FIgures 2019)
しかし、製造業は依然としてGDPの22%を占め、中でもエレクトロニクス産業、精密工業産業、医療・バイオテクノロジー産業、航空・宇宙産業は世界でもリーダー的なポジションにあります。それではシンガポールの製造業についての現状と今後を掘り下げていきます。
この記事の目次
基本情報
- 正式名称:シンガポール共和国(Republic of Singapore)
- 首都:シンガポール
- 首相:リー・シェンロン(2004年8月から)
- 大統領:ハリマ・ヤコブ(2017年9月から)
- 通貨:シンガポールドル(1シンガポールドル=84.86円 ※2022年2月3日時点)
- 人口:約570万人 面積:724.2km2(参考:東京23区 619km2)
- 公用語:中国語、マレー語、タミル語、英語
- 公式宗教:なし(仏教・道教 43.2%、キリスト教 18.8%、イスラム教 14.0%、ヒンドゥー教 5.0%、無宗教 18.5%)
- 平均寿命:男 80.7歳、女 85.2歳
経済の特徴
強み
- 高付加価値産業:最先端技術産業を始め、化学産業、薬品産業が盛ん
- 輸送・貿易拠点:アジア最大の商品、農産物、鉱業品の貿易港を有する
- 海外直接投資:税制優遇制度、政治的安定性、優れたビジネス環境などが要因
弱み
- 経済的不安定性:エネルギーと食料を他国からの輸入に頼っているため
- 労働力不足:熟練技術者不足をはじめとして、住居不足、人口の高齢化など
- 言論の自由への規制:国民に有害な影響が出ると思われる出版物などへの検閲・規制
GDPの変化
シンガポールの製造業の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。
まず、シンガポール全体のGDPの変化を確認します。下の図は2010年から2018年までのシンガポールのGDPを示したグラフになります。
出典:Gross Domestic Product Dashboard – Statistics Singapore
グラフから以下のような特徴が挙げられます。
- シンガポールのGDPは右肩上がりに増加しており、今後も上昇傾向が予想される
- 2018年のGDPは前年のそれに比較して3.1%増加している
シンガポールのGDPに関する補足情報として以下のような数字が挙げられます。
- シンガポールのGDPは現在の市場価値で4兆912億ドルで世界35位
- 2018年の一人当たりのGDPは6万4579ドルで世界9位
産業構造
次にシンガポールの現在の産業構造を調査します。下の円グラフは2018年のシンガポールにおける各部門の名目付加価値額の割合を示したグラフです。名目付加価値額(Nominal Value Added)とは対象年度内において生産された付加価値の大きさを示す指標です。
出典:Gross Domestic Product Dashboard – Statistics Singapore
グラフから以下のことが読み取れます。
- 約25%を製造業関連(製造業、建設業、電気・ガス・水道サービス)
- 70%近くがサービス関連業からなる(卸売り・小売業、輸送・保管、宿泊・飲食サービス、情報・コミュニケーション、金融・保険、ビジネス関連サービス、その他サービス関連)
補足情報してとして、シンガポールの産業構造は以下のような特徴が挙げられます。
- 金融関連業GDPは安定して増加している(企業優先の環境と政治的な安定が理由)
- 近年特に成長しているのは、医療技術、航空・宇宙産業、クリーンエネルギー、ヘルスケア産業
日本企業の進出状況
ここからは、日本企業の視点からシンガポール製造業市場を調査した結果です。下の図は2007年から2019年までのシンガポール日本人商工会登録企業数の遷移を示したグラフです。シンガポール日本人商工会(JCCI)とは、日本とシンガポールの経済活動の更なる発展、シンガポールの日系企業の支援を目的に設立された組織です。
データ引用元:シンガポール日本商工会議所
グラフから読み取れることとして以下のような事が挙げられます。
- 2009年から2015年まで企業数は右肩上がりで、約1.2倍に増加
- 2019年次の工業部会の会員数は334で全体の約40%を占める
現状
- JETROの兆歳によると、日系企業の進出拡大と同時に、サポートとなるコンサルタント、会計会社、法律事務所、人材会社などのビジネ スサービス関連会社の進出も増加
- シンガポールへの事業展開より、東南アジア進出の拠点としてシンガポールを選ぶ企業も増加傾向
今後
- JETROの調査によると、人件費の高騰、土地・事務所スペースの不足、地価・賃料の上昇が課題となり撤退する企業が増加する見通し
- シンガポール政府が現在力を入れている研究開発(R&D)関連企業、研究機関が今後増加し、付加価値の高い事業が進出に有利になる可能性が高い
シンガポールに進出した日本製造業企業
次に、実際にシンガポールに進出した日本企業を3社紹介します。
(株)タグチゴム
▶基本情報
- 本社:東京都葛飾区
- 従業員数:9名
- 事業内容:ゴム製品製造業
▶概要
1987年にシンガポールに工場を設立。海外生産が全体の9割を占める。海外では大量生産、国内では重要保安部品や特殊部品などの付加価値の高いモノづくりに焦点を絞り製造を行う。「メイド・イン・ジャパン」のクオリティーを武器に東南アジアを生産拠点に高品質・低コストな製品を提供する戦略をとっている。
株式会社プランテック
▶基本情報
- 本社:大阪府大阪市西区
- 従業員数:120名
- 事業内容:竪型火格子式ストーカ炉(バーチカル炉)
▶概要
ダイオキシン等の有害物質の発生を抑えるバーチカル炉が主力製品。2017年にシンガポールに現地法人を設立。分別の習慣が根付いていないアジアで、異なる種類の廃棄物を効率よく処理できるバーチカル炉を大きな強みに事業を展開。
株式会社ヤマナカゴーキン
▶基本情報
- 本社:大阪府東大阪市
- 従業員数:228名(国内)
- 事業内容:鍛造金型事業、ソリューション事業
▶概要
1994年にシンガポール支社を設立。自動車部品製作に使われる精密冷間鍛造金型の製造を軸に高い加工技術を活かした高精度・高品質な部品を海外拠点で製造。海外販路開拓については、外国人を雇用し日本本社で研修、教育を行い経営ビジョンの共有を実施。
製造業
製造業全体
ここでは、シンガポールの製造業全体における変化をデータを通して調査します。下の図は1983年から2018年までのシンガポールの製造業における工業生産指数(基準年:2015年)の変化を示したグラフです。工業生産指数とは国内での製造業関連の生産量を基準念を100として指標化したものを指します。
データ引用元: Singapore Department of Statistics
グラフから読み取れることとして以下のような事が挙げられます。
- 統計を開始した1983年から2007年頃までは右肩上がりに上昇
- 2007年頃から2009年にかけて一時的に下降
- 2011年から2018年に至るまでは上昇傾向が継続
以上のようなデータに加え、シンガポールの製造業は、インダストリー4.0を軸に国際的な製造業の拠点として地位を確立しつつあります。
下の図はシンガポール政府が推進するスマートインダストリー準備指標の概念図になります。スマートインダストリー準備指標とは工業の自動化・デジタル化の準備の完成度合いを評価する指標です。
スマートインダストリー準備指標は工程(Process)、Technology(技術)、Organization(組織)の3本の基本構成要素の下に、8つの柱があります。そして8つの柱が16の区分によって評価される仕組みになります。
シンガポール政府は上記のスマートインダストリー準備指標を用いて、インダストリー4.0を実行する準備を国を挙げて包括的に行っています。
また、補足情報としてシンガポールの製造業全体にいて以下のような特徴が挙げられます。
- 世界で製造される医薬品トップ10の内5つはシンガポールで生産されている
- シンガポールのエネルギーと化学の複合集積地帯(ジュロング島:Jurong Island)では世界で5番目に大きな精油の製造をおこなっており、化学工業関連の輸出量は世界トップ10
エレクトロニクス産業
シンガポールの主要産業の一つであるエレクトロニクス産業の現状と今後について見ていきます。下の図は1983年から2018年までのシンガポール国内におけるエレクトロニクス産業の工業生産指数を示したグラフです。
データ引用元: Singapore Department of Statistics
グラフから読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。
- 1998年から2005年までの間、停滞が続くがその後は安定して上昇
- 2018年では過去最高の工業生産指数125.282を記録
現状
- 主要な分野は半導体、商用電気機器、情報技術など
- 2900以上の会社がエレクトロニクス産業に関わっている
- 幅広いエレクトロニクス産業のバリューチェーンを有しており、研究、開発、設計、製造、流通までサービスを提供している
- シンガポールのエレクトロニクス産業は900億シンガポールドルのGDPを記録し、製造業全体の1/4以上を占める(2017年)
- シンガポールは1兆80億シンガポールドル以上の半導体、電気集積回路の輸出を行っており、世界全体の10%を占めている
今後
- シンガポール政府はエレクトロニクス分野のGDPを220億シンガポールドル成長させることを目的として、2020年までに2000以上の新しい職を提供する予定
精密工学産業
次にシンガポールの精密工業産業の現状と今後について調査します。下の図は1996年から2018年までのシンガポール国内における精密工業産業の工業生産指数を示したグラフです。
データ引用元: Singapore Department of Statistics
グラフから読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。
- 2011年から2016年まで停滞が続いたが、2017年で大きく上昇
- 2018年では過去最高の工業生産指数164.146を記録
現状
- 世界の半導体産業で使用されるワイヤボンダの70%をシンガポールで生産
- 世界中の冷凍コンプレッサーの10%はシンガポールで生産
- 世界中の補聴器の30%はシンガポールで生産
今後
- ここ数年で自動化による生産効率の改善が盛んになっている
- 2020年までに140億シンガポールドルの経済的な付加価値と3,000以上の新たな職を作り出すとされている
- 半導体装置(年平均成長率:7%)、試験測定装置(年平均成長率:9%)、3D造形(年平均成長率:30%)、ロボティクス(年平均成長率:11%)、センサー(年平均成長率:10%)、レーザー・光学機器(年平均成長率:8%)、先進材料(年平均成長率:4.9%)で成長が期待される
医薬品・バイオテクノロジー産業
最後にシンガポールで現在急成長産業の一つである医薬品・バイオテクノロジー産業の現状と今後について調査します。下の図は1992年から2018年までのシンガポール国内における医薬品・バイオテクノロジー産業の工業生産指数を示したグラフです。
データ引用元: Singapore Department of Statistics
現状
- GDP全体の約3%を占める
- 医薬品製造で160億シンガポールドルの利益を上げ、2000年のそれから3倍以上に成長(2017年)
- 30を超える医薬品関連のトップ企業が新しい研究開発・製造の拠点としてシンガポールを選んでいる
- シンガポール政府は医薬品関連企業を援助するための土地開発、インフラ整備にも力を入れている
- 大学から有望な人材を雇用するために、実地訓練と学問を同時進行で推進する教育システムがある
今後
- 国内の医薬品関連の市場規模は2020年に16億シンガポールドル規模になる見通し(2017年:12.8億シンガポールドル)
- 研究開発施設に加え商品管理・運用までをシンガポール国内で行える施設を増やす運動が加速する見込み
- 2020年の研究イノベーション事業計画によると190億シンガポールドルが国内のイノベーション産業の強化のために投資される
まとめ
今回はシンガポールの製造業の現状と今後について主要産業を中心に紹介しました。全体を通して言えることは、シンガポールの製造業は自動化による生産効率改善の動きが盛んであることです。それを可能にしているのは、国を挙げたイノベーション産業への投資と、教育機関と連携して優秀な人材を輩出する努力の賜物であると感じました。
個人的には、今後シンガポールの製造業は付加価値の高い産業だけが残り、単純な部品製造拠点は減少していくと思います。今回の内容が、シンガポールへの進出に関心のある方の参考になれば幸いです。
弊社(テクノポート株式会社)では、BtoB企業向けに「海外向けWebマーケティング」を支援しています。
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