中小企業専門の弁理士の亀山です。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、クラウドファンディングを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。
この記事の目次
とある特許相談にて
お客様:今回の便利グッズ「財布」は、特許が取れるでしょうか?
かめやま:便利グッズ「財布」のポイントは、こことここですね。まずは、この2点について、先行技術調査とクリアランス調査を済ませておきましょう。
お客様:ああ、そういえば、前回の発明品のときもやりましたね。今回も調査をお願いします。
かめやま:かしこまりました。調査の結果が出るまでしばらくお待ちください。
かめやま:ところで、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の販売計画はどうなっていますか?特許出願を済ませて半年くらい経つと思うのですが・・・
お客様:あれですね! まずは、クラウドファンディングをやろうと思っています!
かめやま:なるほど。今回のアイデアは消費者向け商品。クラウドファンディングは、マーケティングリサーチの側面もあるので良い方法ですね。ところで、いつ頃申し込むのですか?
お客様:もう申し込みは完了しています!!1か月後には掲載される予定ですので、現在、ページのデザイン制作をしているところなんですよ~
かめやま:あらら・・・
お客様:え?? 何かまずかったですか?前回の発明は、調査を済ませているので、他人の特許権は問題なかったはずですよね?
かめやま:それはそうなのですが・・・クラウドファンディングをする際には、特許権以外にもチェックポイントがあるんです。
特許権以外にチェックすべき点(1) 商品名
お客様:特許権以外に何をチェックする必要があるのですか?
かめやま:まずは、クラウドファンディングの規約を見せてください。ほら、ここに「第三者の商標権、著作権、特許権などの知的財産権等を侵害する行為をおこなってならないこと」と書いてありますよね?
お客様:本当だ。特許権の他に、商標権や著作権もあるのですね。
かめやま:まずは、商標権ですね。現在の原稿をみると、この商品名は○○ですね。この商品名○○は、もう確定ですか?
お客様:はい。クラウドファンディングの運営にも届けています。
かめやま:おぉぅ・・・万が一、届け出た商品名を変更するとどうなります?
お客様:うぅ。変更届を出さないとマズいですね。最悪、一から原稿を作り直しになるので。掲載が1か月遅れてしまいます。
かめやま:確かに1か月の遅れは痛いです。しかし、この商品名の使用が、他人の商標権を侵害していたら、この商品名を使用できなくなるので、それこそ問題です。まずは、この商品名を使用してよいかの調査をしましょう。万が一、侵害している場合は、名称変更、そして、掲載が1か月遅れることを覚悟してください。
お客様:それでは困ります!ここまで準備していたのが水の泡になってしまいます!
かめやま:しかし、仮に、権利者がこちらのサイトを見つけたらどうしますか?商標権侵害による差し止め請求によって、この商品名が使用停止となってしまいますから、どのみち、やり直しになると思います。今、商標調査を先送りして、日に日に大きくなる「やり直しの爆弾」を抱えて進むくらいなら、やり直しの範囲を「本日まで」としておいたほうが良いのではないでしょうか?
お客様:それもそうですね。あれ?ということは、クラウドファンディングを申し込む前に、商品名の相談も先生に済ませておいた方が良かったのですか?
かめやま:それがベストでした。私も、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の先行技術調査のご依頼のときに、販売計画のところまで確認しておけばよかったですね。
お客様:いえいえ。あのときは、まだクラウドファンディングのアイデアもなかったときなので・・・まずは、商品名の調査を進めて下さい。
特許権以外にチェックすべき点(2) イラストや写真等
お客様:商標権のチェックはOKとして、著作権はどうすればよいのですか?
かめやま:現在の原稿をみると、ここのイラストや写真は、貴社のオリジナルですか?それとも誰かに制作依頼をしたものですか?
お客様:このイラストはA社のフリー素材です。こっちの写真はB社のフリー素材です。
かめやま:A社の利用規約をみると、クラウドファンディングにおける使用はOKそうですね。B社の方は、・・・くわしく書いていないですね。ちょっと怖いので、B社に問い合わせするか、A社の素材に差し替えた方が良いかもしれません。
お客様:この写真は、結構、気に入っているんですよね。こだわって選び抜いたものですし・・・
かめやま:お気持ちはわかります。しかし、著作権侵害となった場合には、商標権同様、結局やり直しになることを覚悟しないとなりません。後々のリスクを負ってまでその写真を使いたいですか?
お客様:わかりました。B社に問い合わせして、許可をもらいます。もしも、NGの場合には、A社のものに差し替えます。
クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと
その商品名は合法的に使用できますか?
商品名は、ほぼ間違いなく商標権の対象となります。そして、あなたが使用しようとしている商品名も、見知らぬ他人が商標権を持っている場合もあります。商標権侵害の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。そして、このような名称変更によるリスクを減らすためには、クラウドファンディングを申し込む前に、専門家に相談した方が良いでしょう。
その著作物は合法的に使用できますか?
イラストや写真も、ほぼ間違いなく著作権の対象となります。あなたが使用しようとしているイラストや写真にも、第三者の著作権の効力が及ぶ場合があります。著作権侵害の場合、差し替えとなる場合も多いですが、権利者の意向によっては、相当のライセンス料の支払い等の条件を前提に使用を許可してくれる場合もあります。このような著作権侵害のリスクを小さくするためには、デザイン制作会社へ依頼した場合には、業務委託契約書の中で著作権の処理が必要になりますし、フリー素材を使用する場合には、フリー素材の利用規約をよく読み、用途に合ったものを選ぶようにしましょう。
出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?
出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは、特許権や意匠権の対象となります。そして、特許権侵害や意匠権侵害の場合には、著作権侵害同様、クラウドファンディングの出品の中止、または、相当のライセンス料の支払い等の条件に出品を許可してくれる場合もあります。上述の「万能キッチンハサミ」のケースのように、事前にクリアランス調査を済ませていた場合はよいですが、クリアランス調査が未実施の場合には、他社の特許権侵害のリスクを把握する意味でも事前に進めた方が良いです。また、万が一、特許権侵害のリスクが高い場合には、特許権侵害のリスクが低くなるよう「どのような設計変更が望ましいか」を専門家と検討したほうがよいでしょう。
クラウドファンディングの規約を守っていますか?
どのクラウドファンディングでも利用規約があります。そして、その規約の中に、第三者の知的財産権を侵害しない旨を規定しています。かりに、あなたの商品や商品名等が他社の侵害品であることが判明すると、規約違反により、ページの削除などの対応を迫られる場合もあります。もちろん、クラウドファンディングの利用規約には、知的財産権以外についても触れられています。このため、クラウドファンディングを行う際には、後から規約違反といわれないように、申し込み時に利用規約をしっかりと理解しておきましょう。利用規約を読み込むのが大変な場合には、お近くの専門家に問い合わせして下さい。
専門家にはいつ相談すればよいのですか?
他社の商標権や著作権等の存在によって、商品名変更、設計変更やイラストの差し替えが発生するかもしれません。また、他社の特許権等によって商品の設計変更が必要になるかもしれません。名称変更や設計変更等によるやり直しを防ぐためには、クラウドファンディングに申し込む前に、お近くの専門家にご相談ください。万が一、申し込んでしまった場合には、できるだけ早く、お近くの専門家にご相談ください。
まとめ
クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと
- 商品名は合法的に使用できますか?(商標権侵害のチェック)
- ページに利用されるイラストや写真は合法的に使用できますか?(著作権侵害のチェック)
- その技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?(特許権侵害や意匠権侵害のチェック)
- クラウドファンディングの利用規約のチェック(利用規約違反とならないため)
- ご相談タイミングは、クラウドファンディングの申し込み前が望ましい(やり直し量を最小限に抑えるため)