テクノポートの徳山です。製造業が休眠特許や技術を積極的に活用することは、企業の成長や競争力の強化に寄与する重要な戦略であるといえます。休眠特許・技術を積極的に社外へ情報発信することで、特許技術の新たな用途の発見や、他企業との戦略的パートナーシップにつながることが期待できます。
当記事では、休眠特許や技術を積極的に社外へ情報発信を行い、新たな用途を発見するための具体的な手法について解説します。
この記事の目次
手法1. プラットフォームの活用
一つ目の手法として、オープンイノベーションを促進することを目的に作られたプラットフォームの活用があります。休眠特許・技術を題材にプラットフォーム上でアイデアを募ることで、多種多様なユーザーからのフィードバックを得ながら、新たな用途の発見につなげていくことができます。
知財図鑑
出典:知財図鑑
「知財図鑑」は、知的財産(知財)と事業をマッチングさせることを目的としたプラットフォームです。技術や発明などの知的財産を、それまで接点のなかったユーザー層や新たな事業領域に紹介し、ビジネスチャンスを生み出すことを促進しています。さまざまな業界で利用されていない知財を公開し、新しいアプリケーションやビジネスモデルの創出を支援しています 。
プラットフォームはさまざまな産業分野にわたり、生活・文化、医療・福祉、教育・人材、製造業、環境・エネルギーなど多岐にわたるカテゴリーで知財を紹介しています。これにより、専門性が高く閉じられがちな知財がより広い層に知られるようになり、新しいビジネスの種を見つける機会を提供しています。
Creww
出典:Creww
Creww(クルー)は、新しい事業を創出することを目的としたオープンイノベーションプラットフォームです。スタートアップ、企業、個人に対して、挑戦を支援する多様なサービスを提供しています。Crewwは、事業創出や社会課題の解決に挑む人々を全面的にサポートし、「大挑戦時代をつくる」というビジョンのもと、アクセラレータープログラム、起業支援、プロジェクト協力などの形で、さまざまなニーズに応えています。
Crewwは「Creww Growth」というプラットフォームを通じて、オープンイノベーションプログラムを展開しており、これによりスタートアップと大手企業が共創を進めることができます。また、「47クルーズプロジェクト」を通じて、地方の中小企業や自治体とスタートアップの協力を促進し、地域活性化にも貢献しています。
Wemake
出典:Wemake
Wemakeは、異業種・異分野のプロフェッショナルを集めて、新しい商品や事業を生み出す共創プラットフォームです。企業が自らの課題を共有し、多様なバックグラウンドを持つ登録メンバーと共に解決策を探求することを目的としています。このプラットフォームを利用することで、企業は新規事業の創出や既存事業の革新につながるアイデアを外部から得ることができます。
プロジェクトは通常、初期提案の段階から最終審査までの複数フェーズに分けられ、提案者はアイデアを精緻化していく過程で主催企業からフィードバックを受けます。最終的なアイデア(コンセプト)が企業に採用されると、その権利は主催企業に移りますが、採用されないアイデアの知的財産権は提案者に帰属します。また、提案されたアイデアは、主催企業により実際の事業化が進められることがあります。
Wemakeは、多くの大手企業と連携しており、過去にはダイキン工業やHondaなどが参加して新たな事業案を募集しています。これにより、参加企業は外部のアイデアを取り入れることでイノベーションを促進し、新規事業の創造につながっています。
手法2. オウンドメディアによるWebマーケティングの推進
二つ目の手法は、自社で運用するオウンドメディアでWebマーケティングを推進することで、新たな用途を発見する方法です。メディア内に休眠特許・技術の情報や、それに関連するトピックをWebコンテンツ化し情報発信を行うことで、外部ユーザーから活用方法を見出してもらえます。
この方法を積極的に行っている企業をいくつかご紹介します。
京セラ株式会社
出典:京セラ株式会社
京セラは、自社の独自技術を活用したイノベーションを起こすために、保有する特許技術のライセンス提供を行っています。具体的に次のような技術です。
- においを感知する嗅覚センサー
- スマホなどに手をかざして操作するエアジェスチャ
- スマホで内臓脂肪を見える化するデイリースキャン®️
ライセンス提供を受けることで、社外の企業は京セラが保有する特許技術を活用した製品の開発や販売できるようになります。
また、自社の持つ技術や特許そのものを紹介するだけでなく、周辺技術や技術に関連するニュースを発信しています。当サイトでは、知財ニュースという形で、低比重・低熱膨張コージェライト材料に関する特許技術が「令和2年度全国発明表彰 発明賞」を受賞したことを紹介しています。
セイコーエプソン株式会社
出典:セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソンは、持続可能でこころ豊かな生活を実現するイノベーションを起こすことを目的とした「Epson Innovation Platform」を開設しています。この中で、セイコーエプソンが保有する「省・小・精の技術」を活用し、人材交流や社外パートナーとの共創などに取り組んでいます。具体的なテーマは、インクジェット技術の応用やDXイノベーション、光学エンジンモジュール、センシングデバイスなどです。
オープンイノベーションを目的としたオウンドメディアでは、自社の製品や技術について、読み手が理解できるように紹介しなければなりません。例えば、社内でしか通用しない言葉ではなく、一般的な言葉で説明するという点は重要です。また、自社が想定している技術の活用方法について紹介することで、読み手が他の活用方法をイメージしやすくなります。
セイコーエプソンは、自社が持つPrecisionCoreテクノロジーの特徴だけでなく、想定される技術活用方法として、ディスプレイやエレクトロニクス領域を示しています。
NISSHA株式会社
出典:NISSHA株式会社
NISSHA株式会社が運営するオウンドメディア「connect.nissha.com」では、NISSHAが提供するさまざまな製品やサービスを通して、世の中の技術的な課題や社会的課題の解決に貢献する情報を紹介しています。
自社で提供可能な製品・技術情報の発信を行うことはもちろん、NISSHAのことをまだ知らない層へも情報を伝えるために、コラム記事を積極的に投稿しています。コラム記事は、検索エンジンで技術用語を検索した際にヒットするため、コラム記事を読んでもらうことを通じてNISSHAの認知度アップに貢献しています。
用途開発マーケティングの進め方
Webマーケティングによる用途開発は、以下の4STEPで進めていきます。対象となるユーザーは、検索エンジンを使い情報収集することが多いため、さまざまなユーザーにアプローチするには、対象のユーザーが使用するキーワードで検索上位表示されることが大事です。そのため、用途開発につながる検索キーワードが何かを調査・選定することが最重要です。
1. 技術の棚卸し(MFTフレームワークの活用)
まずは「MFTフレームワーク」などを使用して、自社の技術を整理します。MFTとは「Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)」の略語で、技術と市場の間にある機能に着目することで、技術を活用できる市場を幅広く検討できるフレームワークです。
技術探索時に使用する検索キーワードは技術者の属性により異なり、探索の切り口は多岐にわたります。そこでMFTフレームワークを活用し、技術を棚卸ししたうえで情報発信することで、さまざまな分野の技術者に見てもらえる可能性を高められます。
2. キーワード調査・選定
次に、対策するキーワードを選定します。キーワードの候補は、MFTフレームワークの情報から対策できそうなものをピックアップし、さらにカテゴリ間の掛け合わせによって候補を増やしていきましょう。最終的に対策するキーワードは、検索需要の多さ、競合性の低さ、用途開発の可能性の3点から評価したうえで決定します。
キーワードリスト(例:ガラスコーティング技術の場合)
3. Webコンテンツ制作
対策するキーワードが決まったら、それを題材にWebコンテンツを作成していきます。コンテンツの種類には、コラム記事、製品・技術紹介、事例など、さまざまなものがありますが、キーワードごとにユーザーの検索意図を調査したうえで企画していきましょう。
Webコンテンツは、検索エンジン対策を意識することはもちろんですが、「新たな用途開発につながる」という目的を達成するためには、技術を知ってもらったユーザーに技術課題解決や新たな用途アイデアへと結びつけてもらえるよう、ユーザーの技術課題解決や用途想起につながる良質なWebコンテンツを制作することが求められます。
4. 公開後の効果測定
オウンドメディアで情報発信を続けていると、さまざまな情報(アクセスデータや問い合わせ)が入ってくるようになります。これらを活かし、MFTフレームワークで整理した情報を拡充するとともに、Webコンテンツのさらなる拡充を行います。
以上、休眠特許や技術を活用し、新たな用途を見出すための手法をご紹介しました。
Webマーケティングを活用した技術の用途開発は、その効率性から多くの企業に注目されています。しかし、その取り組みを成功させるためには、豊富なノウハウと十分な事前準備が不可欠です。簡単な方法での成功は期待できませんが、当記事を通じて、より多くの企業が努力の成果を実感できることを心より願っています。
もし、自社だけの力で用途開発マーケティングを進めるのが難しいと感じた場合は、どうぞお気軽に弊社までご相談ください。