テクノポートの小林です。戦略立案の際に使われるフレームワークとしてSWOT分析があります。今回は事例を交えて具体的な活用方法について紹介いたします。
分析の流れとしては以下の通りで、分析する目的は今後の進むべき方向性、施策を考察するために利用されます。
- SWOT分析表の作成
- 施策の立案(クロスSWOT分析)
- 施策の優先順位を決定
では具体的なテストケースをもとに分析を行っていきましょう。
想定企業:
事業内容:金属切削加工業
従業員数::20名
設立:昭和50年
資本金:1,000万
この記事の目次
1.SWOT分析表の作成
強み(Strengths)
- 技術力と経験: 多年にわたる金属切削加工の経験と高度な技術を持つ。
- 難削材での加工実績と経験:多様な材質の加工実績を持ち、積極的に新規材質に挑戦している。
- カスタマイズ対応: 顧客の特別な要求に柔軟に対応できる。
- 小ロット対応:一個からの加工対応が可能。
- 個人からの製作にも対応。
弱み(Weaknesses)
- 規模の小ささ: 中堅規模の加工競合他社に比べて規模が小さく、稼働できる設備に限界がある。
- 設備の古さ: 一部の設備が古くなっており、最新の技術や機械に対応できない部分がある。
- マーケティング不足: 新規顧客の開拓に関するマーケティング戦略が不足している。
- 人材の限界: 技術者の数が限られており、繁忙期に対応するのが難しい場合がある。
- 高齢化:技術者の高齢化が進んでおり、若い人への技術継承が進んでいない。
機会(Opportunities)
- 材質の進歩: 機能性材質、合金などの開発が盛んで、未知材の切削加工が求められている。
- 新規市場の成長: 半導体製造部品、自動車電装部品、ロボット部品などの成長分野がある。
- 競合数の減少:景気悪化や後継者不足から廃業する同業者が増えていることで残存者メリットがある。
- 国内回帰の流れ:円高やチャイナリスクの影響で一部の仕事は国内に戻ってきている。
- 政府の支援策: 中小企業向けの補助金や助成金、技術支援プログラムの利用可能性がある。
- 持続可能性への関心の高まり: 環境に配慮した加工技術やリサイクル材料の需要増加。
脅威 (Threats)
- 競争の激化: 国外の競合他社の増加と価格競争。
- 衰退市場:自動車のエンジン部品などEV化に伴う部品点数の減少。
- 原材料費の上昇: 金属材料の価格変動によるコスト増加。
- 経済の不確実性: 経済状況の変動による需要の変化。
- 環境規制の強化: 環境保護規制の強化による対応コストの増加。
- デジタル化:デジタル化が進み人が必要なくなってきている。
上記のように、自社を取り巻く環境と自社内部の状況を交えて状況を可視化させる表を作成します。その上でどのような施策が立てられるかを検討していきます。考え方としては企業の内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を組み合わせて、具体的な戦略を導き出す手法です。以下の4つの組み合わせで戦略を考えます。
- SO戦略(強み×機会):企業の強みを活かして、外部の機会を最大限に活用する戦略。
- ST戦略(強み×脅威):企業の強みを使って、外部の脅威に対抗する戦略。
- WO戦略(弱み×機会):企業の弱みを改善しつつ、外部の機会を活用する戦略。
- WT戦略(弱み×脅威):企業の弱みを最小限に抑えつつ、外部の脅威に備える戦略。
これにより、企業の現状を総合的に分析し、具体的なアクションプランを策定することができます。
2.施策の立案(クロスSWOT分析)
強み(Strengths) × 機会(Opportunities)= SO戦略
- 技術力と経験 + 材質の進歩:多様な材質の加工実績と高度な技術を活かし、新しい材質の加工ニーズに対応する。
- 難削材での加工実績と経験 + 新規市場の成長:難削材の加工経験を活かして、半導体製造部品やロボット部品などの成長市場に進出する。
- カスタマイズ対応 + 国内回帰の流れ:カスタマイズ対応力を強化し、国内回帰の流れを捉えて新規顧客を獲得する。
- 小ロット対応 + 持続可能性への関心の高まり:環境に配慮した加工技術を採用し、小ロット対応を武器に環境配慮型製品を提供する。
強み(Strengths) × 脅威(Threats)= ST戦略
- 技術力と経験 + 競争の激化:高度な技術力を強化し、競争力を維持するための独自の技術やプロセスを開発する。
- 難削材での加工実績と経験 + 衰退市場:難削材の加工実績を他の成長市場(例:EV関連部品)に転用し、衰退市場からの影響を最小限に抑える。
- カスタマイズ対応 + 原材料費の上昇:カスタマイズ対応を強化し、原材料費の上昇に対応するためのコスト管理戦略を導入する。
- 技術力と経験 + デジタル化:デジタルではできない領域を定義し技術者が活躍する領域の仕事を獲得する。
弱み(Weaknesses)× 機会(Opportunities) = WO戦略
- 規模の小ささ + 材質の進歩:新技術の導入により、規模の小ささを補い、材質の進歩に対応する。
- 設備の古さ + 新規市場の成長:補助金や助成金を活用して設備を更新し、新規市場に対応する。
- マーケティング不足 + 国内回帰の流れ:デジタルマーケティングを強化し、国内回帰の流れを活かして新規顧客を開拓する。
- 高齢化 + 政府の支援策:技術継承プログラムを活用し、若い人材を育成し、高齢化に対応する。
弱み(Weaknesses) × 脅威(Threats) = WT戦略
- 規模の小ささ + 競争の激化:特定のニッチ市場に特化し、大手競合他社との差別化を図る。
- 設備の古さ + 原材料費の上昇:設備の効率化を図り、コスト削減のためのプロセス改善を行う。
- マーケティング不足 + 経済の不確実性:リスク管理の強化と、多様な市場に対応するための柔軟なマーケティング戦略を導入する。
- 人材の限界 + 環境規制の強化:自動化技術を導入し、環境規制に対応するためのトレーニングを実施し、人材の効率化を図る。
3.施策の優先順位を決定
上記のようにアクションプランの候補を挙げた中で、取り組むべき施策とその優先度を決定していきます。このようにSWOT分析を行うことで、おおまかな事業の内容をとらえ、アクションプランの選定と優先度の決定、そこから実現するための具体的な方法を検討するという流れを作ることができます。
SWOT分析についての一般的な紹介
SWOT分析とは
SWOT分析とは経営環境や開発環境を整理するフレームワークのひとつです。社内外の環境を分析して戦略を立案するのに用いられます。SWOTとは強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字を並べたものです。これら4つの観点をもとに整理していきます。
一般的に内部環境は社内が当てはまり、自社の強みや弱みを分析します。一方で外部環境は社外環境や外部環境です。自社に対する機会やチャンスと脅威を分析します。このように、社内外の環境を4つの切り口でフレームワークし、戦略を立案する手法がSWOT分析です。
SWOT分析は経営や開発戦略の立案時に有効な考え方です。内部環境と外部環境を、強みや弱み、機会、脅威4つの観点で整理できるからです。4つの観点で整理した内容組み合わせることで、今後の戦略を立てられます。戦略立案に困っている方は一度SWOT分析を用いてみてはいかがでしょうか。
SWOT分析の4つの観点
SWOT分析では、4つの観点による分析が必要です。具体的に分析する内容を紹介します。
強み(Strength)強みは同業他社に対して優れているスキルや技術、環境などです。 たとえば、加工メーカーであれば、0.1μm以上の精度で加工ができる。部品メーカーであれば、独自の機能を有する半導体部品の製造しているなどです。その企業や開発部門だけがもつ独自の技術を洗い出しましょう。 |
弱み(Weakness)弱みは同業他社と比較して劣っていることスキルや技術、環境です。 たとえば、マーケティングが劣っており開発のリサーチ力が足りない他社に比べて加工精度が低い、開発、実験環境が整っていないなどが該当します。社内における課題が多く当てはまるのです。 |
機会(Opportunity)機会は市場や業界のチャンスです。 たとえば、コロナ禍であればテレワークで働く方が増えるため、在宅で活用するプリンターやノートPCの需要の増加、家での食事による冷凍食品の需要の増加などが当てはまります。市場や社会の変化が該当します。
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脅威(Threat)脅威も市場や社会の変化が当てはまります。 たとえば、環境問題意識の高まりによる製造手法の改善や開発内容の変更を余儀なくされたり、保有技術以上の高度な技術を要求されて対応に四苦八苦したりなどです。部品需要の増加により、製造部品が手に入らなくなるなどが該当します。脅威は、機会と同様に市場や社会の変化による自社への悪影響と捉えるとわかりやすいでしょう。 |
SWOT分析を基にした戦略(クロスSWOT分析とは)
SWOT分析は4つの観点を吟味し、戦略にいかすためのフレームワークです。SWOT分析をいっそう活用するには、強みと機会を掛け合わせた組み合わせが大切です。
強み×機会による戦略自社の強みをいかして市場のチャンスをつかみます。 チャンスをつかむと、他社よりも有利に働く場合が多くなります。たとえば、大企業であれば、コア技術を生かした戦略や蓄積された技術を軸に戦略をたてるなどが該当。自社の強みを生かして市場の流れにのる戦略です。
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強み×脅威による戦略自社の強みをもとにして、将来の脅威を乗り越える戦略です。市場調査や社会動向を調査して、危機に対応します。 脅威は社会全体に影響を与える場合が多いのが特徴です。たとえば、最近の半導体不足問題を考えると、強固な販売網を駆使して在庫を潤沢にするなど、自社の強みで課題を解決するものになります。ピンチをチャンスに変えたり、ピンチを強みで乗り切る戦略です。 |
弱み×機会による戦略自社の弱みを克服して機会を得ようとする戦略です。一般的には弱みを克服しても競合他社に勝てるまで育てるのには、時間やお金など多くのリソースが発生します。また、競合他社は市場で優位な地位を築いているため、余力が少ない場合は強みを伸ばす戦略が望ましいです。 |
弱み×脅威による戦略自社の弱みや脅威を認識してリスクに備える戦略です。リスクを乗り越えるよりも、これから起こりうるリスクへ対処する予防策を練るとも捉えられます。自社や自部門だけで解決できない課題は、他社や他部門に協力を求めるなど将来起こりうる最悪な結果の発生を防ぐための戦略です。 |