海外向けWeb(オンライン)広告の始め方・出稿までの流れ

【執筆者紹介】稲垣 達也
この記事の執筆者
稲垣 達也
【経歴】
テクノポート株式会社「海外Webマーケティング」サービスの責任者
名古屋工業大学大学院 電気機械工学専攻 博士前期課程卒業
同大学 機械工学科卒業

【保有資格】
TOEIC L&R:990/990、英検一級:合格、TOEFL iBT:108/120
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テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。

この記事では、海外向けWeb広告出稿の流れを、10つのステップに分けて解説します。

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海外向けWeb広告の出稿までの流れ

全体の流れは、以下の10のステップに分かれます。

  1. 顧客を決める
  2. 解決策(製品・サービス)を決める
  3. 出稿地域と言語を決める
  4. 検索キーワードを洗い出す
  5. 「月間平均検索ボリューム」と「平均クリック単価(CPC)」を調べる
  6. 出稿地域の「検索エンジン」と「デバイス」のシェアを調べる
  7. 費用対効果を試算する
  8. 広告予算と出稿媒体(+出稿地域)を決める
  9. 広告アカウントを設定する
  10. 広告を出稿する

順に解説します。

ステップ1:顧客を決める

広告出稿で対象とする顧客を明確にします。具体的には以下のような項目を、明文化しておくことをおすすめします。

顧客像

カテゴリ 項目 記入例
基礎情報 従業員数 300〜1,999人
売上 100〜1,000億円
業種 製造業(最終製品メーカー、中間製品メーカー)
役職 購買部、設計開発部、新規事業部
地域 東南アジア
国内の近い企業例 A社、B社、C社
顧客 ※ターゲット顧客の顧客 現地自動車部品メーカー、現地日系自動車メーカー
心理状況 抱えている課題 既存のサプライヤーからの部品調達コストが上がっている
解決策(製品・サービス)を探すきっかけ 原価高騰で利益を圧迫し始めている
主な情報収集方法 産業部品調達用Webサイト、Webサイト検索、社内調達先リスト
Web検索する場合のキーワード custom crankshaft, custom forged crankshaft
解決策(製品・サービス)選定の基準 必要な仕様を満たしているか、現地の拠点の有無、コスト
問い合わせ(コミュニケーション)の手段 Webサイトからの問い合わせ、電話、SNS

上記のような項目について、現地の見込み顧客や既存顧客へ直接ヒアリングできる場合は、ヒアリングを行えると理想的です。
ヒアリングが難しい場合は、国内の既存顧客や営業部からの情報提供をもとに、推測でも一度整理しておくとよいと思います。

上記のような顧客像を明確にしておくことで、広告運用の方向性で迷いが生じたときに、顧客像と照らし合わせて判断することができます。
また上記の調査の結果、顧客はWeb検索をして解決策を探さない(頻度が少ない)という結論が出る可能性があります。その場合は、そもそも広告出稿が適した集客手法なのか、という疑問に立ち返って、効果的な予算の使い方を検討することが必要です。

またユーザーの情報収集方法が、業界専用のサイト(例:日本でいうミスミ、モノタロウ)である場合、それらの媒体への広告出稿も視野に入れる必要があります。

ステップ2:解決策(製品・サービス)を決める

上記の顧客に提供する解決策(製品・サービス)を決定します。
解決策は、以下の2パターンになると思います。

  1. 国内に提供している製品・サービスを海外の顧客にも展開する
  2. 海外の顧客用に新しい製品・サービスを展開する

前者の場合は、広告出稿用のキーワードを洗い出す際に、国内のWebサイトや国内向け広告出稿キーワードの情報が活用できます。
後者の場合は、海外の競合サイトや、見込み顧客へのヒアリング、その他キーワード調査ツールを使用し、地道にキーワードを洗い出します。

ステップ3:出稿地域と言語を決める

広告の出稿地域と広告の出稿言語を決定します。最終的な決定は、後で解説する「費用対効果の試算」の結果を見たのちに行うため、この段階ではあくまで候補を挙げておくというイメージで問題ありません。

ただ情報がないと判断が難しいと思いますので、一般的な出稿地域を決める際の考え方を共有します。(私の経験則ですので、情報正確性は保証できません)

  • 広告の出稿料金は、出稿地域の物価(平均収入)に比例して高くなる(例:ヨーロッパの方が東南アジアよりも出稿料金がかかる)
  • 広告出稿地域は、初期は少ない方が改善活動が早くなる(データのサンプル数が早く集まり、キーワードの精査も短いスパンで行えるため)
  • 広告の言語は、現地語の方が安く、コンバージョン率も高い(例:タイ向けの広告は、英語よりもタイ語の方が安く、コンバージョン率も高い)
  • 広告の言語とランディングページの言語は揃えた方がよい(言語が揃っていないとランディングページ流入後に離脱が増える)

ステップ4:検索キーワードを洗い出す

次に、広告出稿で使用する検索キーワードの候補を洗い出します。

キーワードの洗い出し方については、下記の記事で詳しく解説しています。

↑SEO対策を想定して説明していますが、基本的な流れは変わりません。

広告出稿用に使用するキーワードの選び方で補足として、以下のようなポイントを考慮する必要があります。

ターゲットとする顧客が使用するキーワードか?

例えば、キーワード調査の結果、”crankshaft(クランクシャフト)”というキーワードが候補に上がったとします。

このキーワードは、一見製品を端的に表現しており出稿に値するキーワードだと見受けられますが、実際のGoogleの検索結果を見てみると製品に関する一般情報が検索上位に表示されていることがわかります。

つまりこのキーワード検索するユーザーは”crankshaft”という製品の購買を検討しているユーザーよりも、”crankshaft”という部品について知りたい(情報収集目的の)ユーザーが多いことが予想されます。すなわち、このキーワードで広告出稿をした場合、これらの情報収集目的のユーザーに広告が配信されてしまうため、広告から問い合わせ獲得に至る可能性が低くなると推測できます。

したがって、上記のようなユーザーではなく、ターゲットとする顧客(製品の購買を検討しているユーザー)が使用するキーワードは何か?と考えることが重要です。上記の”crankshaft”というキーワードの場合、”custom crankshaft“というキーワードを検索すると、実際に製品の製品の購買を検討しているユーザーが多く検索しているキーワードであるとわかります。

SEO対策では、目的に応じて情報収集系のユーザーも検索するキーワードで対策する場合もありますが、広告はキーワードを絞り込んで選定することが費用対効果を高めるためのポイントになります。

広告用のキーワードの精査については、下記の記事でも解説しています。

ステップ5:「月間平均検索ボリューム」と「平均クリック単価(CPC)」を調べる

検索キーワードの候補を洗い出したら、Googleの「キーワードプランナー」で「月間平均検索ボリューム」と「平均クリック単価(CPC)」を洗い出します。(これらの情報は、そのほかのSEOツールでも調査可能です)

それぞれの用語の説明は以下の通りです。

  • 月間平均検索ボリューム:対象のキーワードとその類似パターンが検索された平均回数
  • 平均クリック単価(CPC):広告1クリックあたりに発生する費用の目安(キーワードプランナーの場合、低額帯と高額帯の平均値で算出)

また上記の調査を行う際は、ステップ3で決定した地域と言語をキーワードプランナーで設定し、調査します。
例えば、先ほどの”custom crankshaft”というキーワードの場合、以下のような結果が返ってきました。(調査地域:アメリカ、言語:英語)

キーワード 月間平均検索ボリューム 平均クリック単価(CPC) クリック単価(低額帯) クリック単価(高額帯)
custom crankshaft 320 174 32 316
custom billet crankshaft 50      
custom billet crankshaft cost 10      
custom crank 210      
custom crankshaft cost 70      
custom crankshaft manufacturer 20 465 82 847
custom flat plane crankshaft 10      
custom forged crankshaft 30      
custom made crankshaft 30      
custom motorcycle crankshaft 20      

※平均CPCは一部のキーワードのみ表示されます。
上記のように、”custom crankshaft”というキーワードで調査をすると、Googleキーワードプランナーが類似のキーワードも提案してくれるため、合わせてメモします。

これをステップ4で洗い出したキーワード全てで行います。また出稿地域や言語の候補が複数ある場合、それぞれのパターンでも上記の数字を整理します。

ステップ6:出稿地域の「検索エンジン」と「デバイス」のシェアを調べる

次に、広告を出稿地域の検索エンジンとデバイスの利用率を調べます。これらのデータは出稿媒体を決定する際や、出稿デバイスを決める際に参照するために調べます。

両方の数字は「Statcounter Global Stats」というWebサイトのデータが使用できます。

またBtoBでのWeb広告を出稿する場合、先進国ではスマートフォンよりもデスクトップで検索を行うことが多くなります。その場合は、検索エンジンを調べるときに「デスクトップユーザーが使用する検索エンジン」を調べることで、より正確なデータを取得できます。

例えば、以下はヨーロッパの主な国と地域の「デスクトップユーザーが使用する検索エンジン」と「デバイスの利用率」を調べた結果です。(Reachとは、指定した地域に所在するユーザーやその地域に関心があるユーザーの推定数です。ログインして Google のサイトにアクセスしたユーザーの数に基づいて算出されます)

Region
Country
Reach
(Google)
Search Engine/Desktop, % Device, %
Google Yahoo! Bing YANDEX Mobile Desktop Tablet
Europe
United Kingdom 12,300,000 85.09 2.29 10.81 0.17 47.68 47.93 4.38
Poland 30,700,000 87.87 1.34 9.52 0.49 68.79 30.64 0.57
Netherlands 24,000,000 84.71 1.77 10.46 1 46.03 51.81 2.15
Austria 8,600,000 81.82 2.06 12.91 0.55 46.27 51.78 1.94
Switzerland 7,510,000 82.45 1.36 12.19 0.34 34.16 63.7 2.15
Romania 12,400,000 92.8 0.9 5.74 0.18 53.97 45.26 0.77
Germany 70,700,000 79.69 2.52 13.56 0.68 52.85 45.01 2.14
France 66,200,000 79.61 3.23 12.99 0.79 50.41 47.01 2.58
Belgium 10,600,000 78.39 1.21 18.75 0.25 54.08 43.7 2.23
Ireland 5,010,000 86.12 1.72 10.89 0.16 63.08 34.3 2.62

上記をみると、どの国でもGoogleが圧倒的なシェアであることがわかりますが、BingやYahoo!も一定数のユーザーがいることがわかります。したがって、上記の国に広告を出稿する場合、予算の大半はGoogleに投下し、一定の割合をそのほかの検索エンジン(BingやYahoo!)に投下するという選択肢が考えられます。

補足:国ごとで独自の検索エンジンが使用されているケースがある

以下は、国ごとで独自の検索エンジンが使用されている例です。これらの国と地域に広告出稿を検討している場合は、参考になるかと思います。(データは2023年11月に取得したものです)

中国

中国版Googleと言われる「Baidu」が広く使われています。

順位 検索エンジン シェア, %
1 Baidu 60.98
2 bing 15.13
3 Sogou 10.05
4 Haosou 5.57
5 Google 3.12
韓国

韓国語の検索に特化した「Naver」という検索エンジンが使用されています。

順位 検索エンジン シェア, %
1 Google 62.33
2 Naver 32.31
3 bing 2.66
4 Daum 1.08
5 CocCoc 0.53
ロシア

ロシア語の検索に特化した「YANDEX」という検索エンジンが使用されています。

順位 検索エンジン シェア, %
1 YANDEX 57.52
2 Google 40.28
3 bing 1.3
4 Mail.ru 0.33
5 DuckDuckGo 0.22
ベトナム(デスクトップ)

ベトナム語の検索に適した「CocCoc」という検索エンジンが使われています。

順位 検索エンジン シェア, %
1 Google 83.64
2 CocCoc 10.3
3 bing 2.88
4 Yahoo! 2.84
5 YANDEX 0.18

各国の検索エンジンのシェアについては、以下の記事で詳しく解説しています。

ステップ7:費用対効果を試算する

ここままで整理した情報を元に、広告の費用対効果の試算を行います。

費用対効果の計算結果は、以下のようにまとめます。(地域名、国名は仮の名前で設定しています)

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詳細な数字の説明は割愛しますが、おおよそ以下の数字を確認する目的で作成します。

  • 予算:広告出稿金額(広告代理店を利用する場合、手数料を含む)
  • 予想クリック数:獲得できるクリック数
  • 獲得リード数:獲得できるリード数(見込み顧客)
  • 顧客獲得単価(CPA):1リードあたりの獲得単価

上記の試算は、あくまで事前調査で得られたデータからの計算であるため、見積もりから大きな乖離が生じる可能性もあります。ただある程度の見積もりを作っておくことで、実際の運用効果を評価する際の一つの指標として活用できるため、やっておいて損はないと思います。(また実際に得られたデータがある場合は、それらの数値を参照することでより正確な見積もりが算出できます)

※Bingへの広告出稿は、Yahoo!広告を出稿すれば自動的にBingへも広告が出稿されるため、Yahoo!広告でまとめて出稿する方が手間が少なくて済みます。(参照:Yahoo!広告 ネットワークパートナー

ステップ8:広告予算と出稿媒体(+出稿地域)を決める

上記の試算の結果を元に、全体の広告予算と、国別(地域別)で出稿媒体別での予算配分を決定します。

予算が限られている場合は、あまり多くの国と地域を選択するとデータが集まりづらく、広告出稿継続の判断や広告媒体の機械学習の速度が落ちるため、なるべく出稿地域と媒体を絞って始めることがおすすめです。

また上記の試算には含まれていませんが、媒体別のほかに、言語別でも試算を行うことをおすすめします。例えば、東南アジアの地域では、現地語と英語で比較すると、現地語の広告出稿の方が1/4〜1/5程度の価格でクリックを獲得できることがあります。このような点も考慮し、目的達成に適した配分を検討することをおすすめします。

ステップ9: 広告アカウントを設定する

検索キーワードをグループごとに分類し、広告アカウントを作成します。

広告アカウントを作成する際は、一度スプレッドシートに設定を整理しておき、抜け漏れがないか確認しながら設定することをおすすめします。

以下は、広告グループの設定見本です。(右端の数字は、それぞれの広告文の文字数をカウントしているものです)

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基本的にどの広告媒体も設定方法に大きな違いはないため、一つの設定を複数の広告媒体で共有する形で問題ないと思います。上記のほかに広告アセット(例:サイトリンク、コールアウト、構造化スニペット、電話番号、画像)を設定します。

そのほかにも、出稿する国、デバイス、時間帯、コンバージョン設定を含めて、チェックリストを用意しておくと広告出稿時のエラーを減らすことができます。

広告文の作る際のポイントは、以下の記事でも解説しています。

ステップ10:広告を出稿する

必要な広告アカウントの設定が完了したら、広告出稿を開始します。広告出稿直後に特に確認しておくべき点を紹介します。

意図しないキーワードの除外

広告出稿初期は、Googleも機械学習が進んでいないため、広告出稿側が意図しないようなキーワードで入札が発生する場合があります。そのようなキーワードは「検索語句(検索クエリー)」の画面を細かく確認し、丁寧に除外設定をする必要があります。(特に検索ボリュームの大きいキーワードで「部分一致」を適用すると、多種多様なキーワードに広告が出稿されます。)

上限クリック単価の設定

上記のほかにも、1クリックで数千円のコストが発生するキーワードでクリックが発生する場合もあります。このようなキーワードでのクリックが複数回発生すると、広告予算が特定のキーワードで消化されてしまい、十分なクリック数が獲得できない可能性があります。

したがって、初期は上限クリック単価という設定を入れておき、クリック単価が高すぎるキーワードでクリックが発生しないように、調整しておくことをおすすめします。

デバイス別の配信結果

特定の国と地域(特に発展途上国)では、ビジネスにおいてスマホの利用率が高い場合があります。そのような国と地域に広告を配信する場合、最初からデスクトップで絞り込みをかけず、スマホにも配信してもよいと思います。

一定期間データ(例:検索クエリ、平均クリック単価)が集まった段階で、それぞれの結果を比較し、より費用対効果に絞り込むという流れがおすすめです。

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まとめ

今回の記事では、海外向けWeb(オンライン)広告の出稿手順を解説しました。

国内向けの広告配信に比べて、事前準備や調査にやや時間がかかりますが、丁寧に進めていくことをおすすめします。最後まで読んでいただきありがとうございました。

弊社(テクノポート株式会社)では、製造業向けに「海外リスティング広告運用代行」サービスを行なっております。
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実態調査
資料イメージ

【調査期間】 2024年1月22日〜1月23日
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この記事の執筆者
稲垣 達也
【経歴】
テクノポート株式会社「海外Webマーケティング」サービスの責任者
名古屋工業大学大学院 電気機械工学専攻 博士前期課程卒業
同大学 機械工学科卒業

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