テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
現在、多くの日本企業が東南アジアへ進出しています。東南アジアの中でもとりわけ注目されているのがASEAN(東南アジア諸国連合)地域です。
2016年の調査によるとASEAN地域に進出している日本企業の数は11,328社(出典:帝国データバンク)であるとされています。この数字からも分かるように、ASEANは日本と同じアジア地域として注目度を高めており、今後もこの傾向は続くことが予想されます。そこで、今回はASEANの製造業をテーマに現状と今後を掘り下げてみたいと思います。
この記事の目次
基本情報
設立の歴史
現在、世界には多くの地域統合組織があります。その中でも、比較的長い歴史を有しているのが今回紹介する「ASEAN(Association of South-East Asian Nations)」です。
1960年代初めに、ASEANの前身となる「東南アジア連合」がマレーシア、タイ、フィリピンによって設立されました。東南アジア連合設立の背景には、当時の東南アジア諸国のほとんどが独立したての新しい国であったことが影響しています。
東南アジア連合の設立に次いで、1963年にマラヤ(Malaya)、フィリピン(Philippins)、インドネシア(Indonesia)の頭文字を組み合わせた「マフィリンド(Maphilindo)」が設立されました。
そして、現在のASEANは1967年8月の「ASEAN設立宣言」に基づき設立されました。ASEAN設立の目的は大きく以下の7つに集約されます。
- 経済成長、社会的・文化的発展の加速
- 平和、安定の促進
- 協力、相互支援の促進
- 貿易、研究機関の相互補助
- 農業、貿易効率化のための支援
- 東南アジアの研究の促進
- 緊密かつ有益な協力関係の維持
加盟国
現在の加盟国は10カ国(タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア)です。
出典:ASEAN情報マップ
製造業
GDPの変化
ここでは、ASEANの製造業全体の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。
まず、ASEAN全体のGDPの遷移を確認します。下の図は2000年から2018年までのASEANのGDPと一人当たりのGDPを示したグラフになります。
グラフから分かるように、ASEANのGDPは年々増加しており上昇傾向であることが読み取れます。具体的には、2018年のGDPは2000年のそれと比較すると5倍以上に成長しています。加えて、一人当たりのGDPは2000年の1195ドルから4倍近くの4601ドルまで成長していることが分かります。
次に下の図は、ASEANの総GDPにおける3つの主要産業(農業、製造業、サービス関連業)が占める割合の遷移を示したグラフです。
棒グラフの中層にある製造業の割合に注目すると、年々製造業が占める割合は減少していることが分かります。具体的には、2018年の製造業(製造、電気、ガス、水道、鉱業、採掘業)が占める割合は2005年から3.1%減少しています。一方で、サービス関連業(貿易、政治関連事業、通信、情報、交通、金融、経済活動)は年々拡大していることが分かります。
以上2つのデータより、ASEANにおける製造業のGDPの遷移を表したものが下のグラフになります。
データ引用元:ASEANStatsDataPortal
先にも述べたように、GDPにおける製造業の割合は年々減少していますが製造業自体のGDPは年々増加していることがこのグラフから読み取れます。
GDPが増加している2つの要因
ASEANにおける製造業のGDPが増加している要因は大きく2つ考えられます。
1つ目はASEAN域内で6億4千万にのぼる消費者の存在です。下の図は1990年から2018年までのASEANの人口と人口増加率を示したグラフです。
ASEAN域内での人口増加率は減少傾向にあるものの、人口は増え続けていることが分かります。また、消費者の数が増加するに従い高所得者の数も増加し、より高価な商品・サービスを求める傾向が増加していることも製造業の発展に貢献していると言えます。
2つ目はASEANの安価な労働力が世界中から注目を集めていることです。
世界の製造業の生産拠点として飛躍的な発展を遂げた中国はここ最近、労働賃金の値上げに加え、規制を強化し始めています。よって各国の製造業企業は中国の代替となる生産拠点を探しています。生産拠点の候補としてASEANは低賃金かつグローバルなネットワークを有しているための世界各国の製造業を地域に引き付けています。
業種別の動向
自動車産業
ASEANでは急速な経済発展に伴い、自動車に対する需要も増加しています。下の図は2005年、2010年、2018年におけるASEAN各国内で登録された自動車台数を示したグラフです。
グラフからASEAN各国において自動車の登録台数が年々増加していることが読み取れます。ASEAN全体の登録自動車台数で整理したものが下のグラフになります。
データ引用元:ASEANStatsDataPortal
これらのデータよりASEANの自動車登録台数は年々増加しており、先にも述べた製造業の発展と同じ理由により、これからも上昇傾向が続くことが予想されます。
下の図は、2005年から2016年におけるASEAN主要5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の自動車生産台数を示したグラフです。
出典:ASEAN情報マップ
2016年におけるASEAN主要5カ国の自動車生産台数は、統計を開始した2005年と比較し2倍近く増加していることが分かります。これらのデータより、ASEAN域内では自動車に対する需要が高まっており、それに従い自動車の生産台数も年々増加していることが分かります。
補足情報として、ある調査によると東南アジア地域において
- 2018年の自動車売上は、2016年から3年連続で6%上昇
- 2019年の自動車売上台数は、2018年の357万台から427万台に増加
のような予想がされています。また、一部の専門家は中国とアメリカの貿易戦争の影響により、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシアでの販売台数は停滞する見通しであると主張しています。
化学産業
現在、世界の大きな化学工業企業は製造・研究開発の拠点を東南アジアで行っています。World of Chemicalsのレポートによると、ASEAN全体の化学工業には以下のような特徴があります。
- 東南アジアの多くの化学工業工場では自動化とデジタル化が進められ、生産効率の向上が図られている
- ASEAN諸国の化学工業による環境汚染対策として、先進技術の開発と規制の強化進んでいる
また、それぞれの国別で見ていくと、ASEANの中でも最も成長が著しいシンガポールの化学産業では以下のような特徴が挙げられます。
- シンガポールはASEANの化学工業の拠点であり、石油化学、特殊化学工業で強みを持つ
- シンガポールは100を超える先端化学工業企業を有しており、様々な企業が新しい実践的な化学技術の開発に力を入れている
そして、インドネシア、タイ、マレーシアといったASEAN主要国の化学産業には以下のような特徴が挙げられます。
- インドネシア、マレーシア、タイは安定した市場として化学工業の発展に貢献している
- マレーシアは世界第2位のパーム油の生産国であり、新しい油脂化学技術の開発に力を入れている
- タイではバイオプラスティックの開発に注力している
- インドネシアでは政府の援助不足と産業基盤の未発達により、バイオ化学工業の発達が遅れている
建設用機械産業
ASEAN地域での建設用機械の需要は年々増加しており、世界中の国と地域から企業が参入し競争が激化しています。
現在、世界中の製造業企業が東南アジアでの操業を考えています。それは先にも述べた、安価な労働力と地域内での需要の増加が主な理由になります。その中でも建設用機械産業は、東南アジア各国でインフラ整備への需要が増加しているため、東南アジアで最も盛んな産業の一つと言えます。
加えて、2019年6月にASEAN内での人、モノ、エネルギーの輸送を強化するためのパイプライン建設プロジェクトを発表し、2019年11月に正式にプロジェクトの合意を発表しました。19のプロジェクトにかかる総額は19億ドルと見積もられており、今後より多くの投資が集まることが予想されます。
また、東南アジアでは道路建設用設備の市場がここ数年で大幅に増大しています。その背景には地域内での道路建設の需要が高まっていること、道路建設による物流の改善が求められていることなどが主な理由になります。
例えば、ベトナムでは建設業による国の利益が12億ドル(2007年)が128億ドル(2017年)に増加しています。背景には、ベトナムではビルの建設許可が増加したこと、経済の回復、政府の商業・民間建設業に対する援助などの要因が挙げられます。
まとめ
今回は、多くの日本企業が進出し注目度を高めているASEAN地域について紹介しました。ASEANの製造業市場は拡大傾向にあり、個人的な見解として、中国に続く国際的な製造業の拠点として、これから存在感を高めていくだろうと考えています。しかし、ASEAN地域内における製造業のGDP割合は縮小傾向にあり、市場はサービス関連業にシフトしています。
次回はそのシフトを牽引し、ASEAN諸国の中でいち早く先進国となった「シンガポール」について紹介します。今後、ASEAN各国についての詳細記事を随時投稿していく予定ですので、ASEAN地域への進出に少しでも関心のある読者の方に読んでいただければ嬉しく思います。
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