技術ブランディングとは|製造業が技術ブランドを確立する手法を解説

【執筆者紹介】徳山 正康
この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
精密板金企業が「Webでの引き合い」を売上につなげることができた、たった一つの理由(ビジネス+IT)
製造業のSEO対策を基礎から解説、「加工事例」が超重要なワケとは(ビジネス+IT)
製造業の「技術マーケティング」戦略、事例で読み解く自社技術の可能性を広げる方法(ビジネス+IT)
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テクノポートの徳山です。技術ブランディングは、部品や部材を提供しているサプライヤー企業において、大きな可能性を秘めている手法の一つです。今回の記事では、製造業が自社の技術ブランドを確立するメリット、推進方法、成功事例について解説します。

技術ブランディングとは

技術ブランディングとは、完成された製品をブランディングするのではなく、製品に使われている部材や技術をブランディングすることで、技術の価値を高める手法のことです。

ブランディングされた技術を使用して作られた製品は、エンドユーザーに選ばれやすくなったり、高い価格で購入してもらえたりする可能性が高くなるため、メーカーは積極的にその技術を使うようになります。

エンドユーザーがその部材や技術を直接購入するわけではありませんが、その部材や技術が搭載されているからという理由で製品を購入してもらえるようになるなど様々な目的があります。

技術ブランディングの目的

技術をブランド化する目的としては以下のようなことが挙げられます。

自社技術の再認識と差別化

技術をブランディングすることで、自社が保有する技術を改めて分析・評価できます。他社にはない自社の独自性や強みを明確にし、技術の詳細を再確認することで、競合と差別化を図れるようになります。

技術価値の向上

技術のブランドが確立すると、技術そのものの付加価値が高まり、顧客や市場においてその価値を認知してもらえるようになります。ただ単に技術が優れていることを示すだけでなく、自社の技術の独自性などを押し出すことで、技術の「価値」をより高い次元で見てもらえるようになります。

技術ブランドとしての良いイメージが定着すると、同様の機能を持った競合技術よりも高く技術を買ってもらえる可能性が高まります。これは同じような機能を持つ技術であっても、技術ブランディングにより高められた情緒的価値を価格へ転嫁することができるためです。

また、エンドユーザーへ技術ブランドを広めることができれば、エンドユーザーから「この技術が搭載されているから購入する」「この技術を使ってほしい」という逆指名をもらえる可能性があります。そうなると、取引先としては少々値段が高くても採用せざるを得ない状況となるため、技術を採用してもらえる可能性が高まります。

新規市場・顧客開拓

自社の技術力をベースに、これまで未開拓だった市場や顧客層にアプローチできるようになります。例えば、既存の技術を異業種へ応用することで新たな需要を掘り起こしたり、技術の先進性を訴求して新しい顧客基盤を築いたりすることで、事業拡大のチャンスを得ることができます。

技術の用途開発

既存の技術の新しい活用方法を開発し、潜在的な価値を引き出すことを目指します。技術の適用範囲を広げるだけでなく、新しい製品やサービスの創出が可能となります。用途開発は既存市場での収益拡大に寄与するだけでなく、未来志向のイノベーションの一環としても重要です。

「技術ブランド」という分かりやすく多くの人に興味を持ってもらえるような形式で技術を広めることによって、さまざまな分野の技術者へ技術を認知してもらえる可能性が高まります。より多くの技術者へ技術を広めることができれば、技術の利用用途が広がり、さまざまな製品に技術を利用してもらう機会を増やすことができます。技術を活用してもらえる市場が増えれば増えるほど、大きな収益を挙げることが可能となります。

技術ブランディングのメリット

製造業が技術ブランドを確立することで享受できるメリットは以下のとおりです。

第一想起してもらえる

自社技術を購入してもらえる可能性のある顧客の社内において、何らかの技術課題が発生した際に、解決手段となる技術として一番に想起してもらうことができます。

第一想起してもらえれば、競合他社より優位に立ち、いち早く見込顧客との接点を持つことができ、優位に商談を進められるようになり、営業効率が高まります。

企業規模を越えて仕事獲得につながる

技術のブランディングが成功し、自社技術の確固たる地位が確立すると、自社の企業規模に関わらず、大手や公的機関との取引も可能になります。

技術ブランディングの進め方

技術ブランディングを推進するためには「認知度を高める活動」と「技術の利用用途を広げる活動」の2つが重要となります。

マーケティング活動により技術の認知度を高める

技術の認知度を高めることによって、「〇〇と言ったら△△」と第一想起してもらえる技術ブランドとなることを目指します。具体的には以下の方法が考えられます。

ブランドアイデンティティーの明確化

ブランドアイデンティティーとは、エンドユーザーに伝えたいメッセージや価値観などをまとめた、ブランドの特徴や個性を伝えるためのイメージのことを指します。具体的には、ロゴ、カラー、コピー、パッケージなどの要素を統一することで、エンドユーザーの印象に残りやすいイメージを作り上げます。

広報活動

エンドユーザーが一般消費者の場合は、マス広告(TVCM、新聞、雑誌など)、企業の場合は研究成果の発表(論文、プレスリリースなど)、Webサイトによる情報発信、展示会への出展などが挙げられます。

製品の普及

技術ブランドの場合、製品が普及するに伴い、そこに搭載されている技術の知名度も自然と広まります。そのため、より多くの製品に技術を採用してもらうことで、製品の普及に伴い技術の知名度も向上させることができます。製品の普及を直接コントロールすることはできませんが、製品や製品のパッケージにロゴやコピーを掲載してもらうなどといった取り組みは必須となります。

あくまで直接取引する相手ではなく、エンドユーザーへの認知度を広めることが技術ブランディングにおいては重要となりますので、注意が必要です。その結果、エンドユーザー側から逆指名を獲得し技術を採用してもらうことにつながり、少々値段が高くても技術を買ってもらえるようになります。

用途開拓を目的としたコンテンツを準備する

技術の利用用途が増えることで、技術を使ってもらう機会が増え、技術が搭載された製品が売れるほどに技術の情報が広まっていきます。情報が広まると技術の認知度が高まり、新たな利用用途が見つかる、といった具合に、技術ブランディングでは利用用途の広がりと技術の認知度向上の好循環を生み出すことが重要です。

好循環を生み出すためには、技術を利用してもらう用途を広げることが重要であり、利用用途を広げるにはさまざまな分野の人に用途を見出してもらう必要があります。

技術の用途は、自社内で用途仮説を立てる方法と、他者に技術の存在を知ってもらい用途を見つけてもらう方法の二つがあります。
二つの手法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

他者に用途を見出してもらうためには、誰にでも分かりやすく技術のことを伝える必要があります。技術を採用してくれる企業(技術者)が、その技術に対する知識をどの程度有しているかが分からない状況でコンテンツを作る必要があるため、知識がなくても理解できるようなレベル感を目指しましょう。

技術を分かりやすく伝えているコンテンツの事例

図解や動画などを駆使し、技術の詳細や利用用途を分かりやすく伝えているコンテンツの事例をいくつかご紹介します。

【図解】デクセリアルズが運営するTECH TIMES

TECH TIMESでは、接着・粘着・熱伝導・光学設計などの基礎知識を豊富な図解・イラストを用い、初心者エンジニアへも分かりやすく技術を伝えています。

デクセリアルズが運営するTECH TIMES出典:デクセリアルズ株式会社

【動画】トヨタ自動車の水素エンジンと車載用液体水素システム

水素エンジンの動きや液体水素システムについて、CGを用いた動画を使って分かりやすく技術の情報を伝えています(出典:トヨタ自動車株式会社(YouTubeチャンネル))。

【マンガ】富士産業の燻し加工技術

金属を経年劣化した風合いに見せる「燻し加工技術」について、マンガというコンテンツを使い、技術の特徴やその用途を分かりやすく伝えている事例です。

富士産業出典:株式会社富士産業

【アプリケーション事例】村田製作所の製品・ソリューション

同社の製品やソリューションのアプリケーションをさまざまな用途から探索することが可能です。かなり細かく用途が分類・整理されているのが特徴です。

村田製作所のアプリケーション事例出典:株式会社村田製作所

【導入事例】シャープのプラズマクラスター技術

オフィス、工場、学校、公共機関など、さまざまな場所でプラズマクラスター技術が使われていることを伝えるための導入事例コンテンツです。

出典:シャープ株式会社

技術ブランディングの成功事例

最後に、技術ブランディングに成功した事例をいくつかご紹介します。

シャープ(プラズマクラスター)

プラズマクラスター
出典:シャープ株式会社

プラズマクラスターは、シャープ株式会社が開発した空気清浄技術です。プラズマという状態にあるイオン化した水素分子(H+、OH-)を発生させることで、微生物や有害物質を取り除く仕組みです。空気中に存在する微小なウイルスや細菌、花粉、カビ菌などの微生物や有害物質を取り除くことができる技術です。

プラズマクラスターは、空気中に浮遊する微粒子だけでなく、家具や床などの表面に付着する微生物や有害物質にも効果があることから、さまざまな用途で利用されています。

利用用途

空気清浄機、冷蔵庫、エアコン、自動車など

認知度向上の施策

一般消費者向けにマス広告(TVCM、雑誌、新聞など)を展開した他、企業向けには研究成果の積極的な発表(さまざまな研究機関との共同研究や、学術論文の発表)を行いました。
製品にプラズマクラスターのロゴを掲載することで、技術が搭載されていることをPRしました。これらの施策によって一般消費者およびビジネスユーザーへの認知拡大を図りました。

インテル(マイクロプロセッサー)


出典:インテル株式会社

インテルのマイクロプロセッサー(CPU)は多くのパーソナルコンピュータに搭載されており、主要な特徴は、高速性と省電力性です。また、インテルのマイクロプロセッサー技術は、安定性と信頼性が高いことでも知られています。インテルは、高品質のチップを生産するために、多くの工程で厳密な品質管理を行っています。これにより、デバイスの故障率を低く抑えることができます。

利用用途

パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、サーバなど

認知度向上の施策

1990年代初頭から展開したインテル・インサイド(Intel Inside)キャンペーンを実施することで、一般消費者への認知度向上を計りました。当キャンペーンでは、TVCMを使った広報活動の他、インテルのロゴと「Intel Inside」の文字をPCの製品パッケージに掲載することにより、製品の中にインテルのプロセッサーが搭載されていることを消費者に認知させました。

デュポン(テフロン加工)


出典:デュポン株式会社

テフロン加工技術はアメリカのデュポン社(現在はダウ・デュポン社)が開発した技術です。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)という非常に滑らかで耐腐食性が高い樹脂を、金属やプラスチックの表面に塗ることで、その表面を滑らかで耐腐食性が高いものにする技術です。テフロン加工は、非常に低い摩擦係数を持つことから、摩擦が起こる部分に使用されます。また、耐腐食性が高いため、化学工業や医療器具などの分野でも広く使用されています。

利用用途

調理器具、衣料品、自動車部品、医療機器、建材など

認知度向上の施策

デュポン社はテフロン加工技術の認知度を高めるために、テフロン加工技術をライセンス提供という手法で一般解放し、さまざまな企業がその技術を利用できるようにしました。それにより、さまざまな企業が当技術を利用した製品開発を実施し、多くの商品がリリースされました。その結果、一般消費者のテフロン加工に対する認知度は飛躍的に上がり、技術を開発したデュポン社の名前より知名度の高い技術となりました。

ジオ・サーチ(地雷探査技術「スケルカ」)

地雷探査技術「スケルカ」は、もともとジオ・サーチ株式会社が路面下空洞探査システムとして世界で初めて実用化していた技術です。地下の空洞を見つけて陥没事故を未然に防ぐ技術として発表していた論文が国連の地雷除去技術責任者や、海外政府の方の目に留まることで声がかかり、地雷除去装置の開発に至りました。この地雷探査技術「スケルカ」を使用した装置で、現在ではカンボジアやタイなどの多くの地雷撤去に成功しています。

利用用途

陥没予防調査、地上・地下インフラ3Dマップ🄬、掘状状況3D管理、橋梁・舗装劣化診断調査

認知度向上の施策

自社の技術を論文としてまとめ、アメリカで発表していました。また、国連の推薦で「地雷除去関係者会議」に参加するなど、専門家が集まるところでの協力姿勢を取っていました。その後、NPO法人「人道目的の地雷除去支援の会(JAHDS)」を発足し、日本の大企業から支援を受けて、「日本の技術で世界に貢献する」という活動が世界から注目を集めています。

以上、製造業が技術ブランドを確立するための手法について解説いたしました。技術ブランディングを成功させるためには「認知度を高める活動」と「利用用途を広める活動」の両方が必要になることをご理解いただけましたでしょうか。テクノポートでは、製造業が有する技術の利用用途を広げるためのWebマーケティング支援を得意としています。技術ブランディングの一端としてWebマーケティングを検討されている方は、お気軽にご相談いただければ幸いです。

関連資料のご案内

  • 製造業の用途開発に関する実態調査レポート
  • 製造業が持つ自社技術の用途開発をWebマーケティングにより実現する方法
  • サプライヤー企業の新市場開拓をWebマーケティングにより実現する方法

資料イメージ
この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

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間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
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