テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
この記事では、海外展開の手法としてのデジタルマーケティングの活用方法を解説します。
海外向けの新規顧客開拓として同手法をご検討されている企業様に役立つ内容です。
この記事の目次
海外向けBtoBデジタルマーケティングの進め方
Step 1 国内市場における自社の強み・訴求ポイントを言語化する
海外展開できそうな製品やサービスが決まっている場合、まず国内の顧客が同製品・サービスのどの部分が評価しているのか(例:性能 / 品質 / 価格 / 導入前後のサポート)を整理するところから始めます。このステップではマーケティングミックス(4P)と呼ばれる考え方が活用できます。
要素 | 意味 | 自社の強み整理をするための質問 |
---|---|---|
Product | 製品・サービスの特徴 | ・製品の技術的な差別化ポイントは?(例:独自構造・特許技術) ・品質や耐久性に関する証拠や実績は? ・顧客から「これが決め手だった」と言われたポイントは? ・バリエーション(型番、サービスラインナップなど)に特徴はあるか? |
Price | 価格や料金体系 | ・単価 or トータルコスト(TCO)での価格優位性はあるか? ・導入コスト、運用コスト、サポート費用など含めた見えづらい価値は? ・価格設定戦略(高価格高品質 / 中価格大量導入など)は? |
Place | 販売チャネル・提供の仕組み | ・どこで、どうやって顧客に届くか?(代理店 / 直販 / ECなど) ・サポート体制(現地拠点、レスポンス速度)はどうか? ・顧客の導入ハードルを下げる「使いやすさ」はあるか? |
Promotion | 販促手段・伝え方 | ・どんな導入事例・実績を打ち出しているか? ・自社の価値は、どんな言葉・媒体で伝えているか? ・顧客の心に響いているプロモーションはどれか?(展示会・メディア記事・動画等) |
上記のようなフレームワークを活用することで、体系的に現状の国内ビジネスの状況は把握できます。これらの内容は実際にお客様とのやりとりを行なっている営業部やカスタマーサポートをはじめとする現場の担当者に聞くことをおすすめします。この内容をもとに国や文化が違っても「自社(製品・サービス)が海外市場で選ばれる理由」の材料を整理できます。
Step 2 強みを活かせる海外市場をマクロ視点でリサーチする
次に国内で評価されている強みが「どの国・地域で活かせるか/求められているか」を見極め、優先して攻めるべき市場の候補を絞り込みます。このステップと後のミクロ視点の調査で得られたデータをもとに「なぜその国で売れる可能性が高いのか」という疑問に対する回答の根拠を集めます。マクロ視点の調査では具体的に以下のようなソースが活用できます。
日本の公的機関
例えば、JETROの公開している地域・分析レポートでは、世界各国の最新の市場トレンドやニュースを日本語で要約して公開しています。
参照:地域・分析レポート | 海外ビジネス情報 – ジェトロ
海外の行政関係/業界団体
また上記のようなデータに加えて「現地の行政関係/業界団体が公表している統計データ」を見ることも有効です。例えば、ドイツのヘルスケア業界への進出を検討している場合、ドイツにおける「保健・医療」分野を担うドイツ連邦保健省のWebサイトを見ることで、ドイツにおける医療業界の構造や最新のトレンドを把握することに役立ちます。
参照:Bundesministerium für Gesundheit (BMG)
また同じくドイツの医療系の業界団体を調べる際は、ドイツ医療技術協会をはじめとするその国における主要な企業が加盟している団体を調べることで、現地における主な競合企業とその国に進出している企業が把握できます。
参照:Bundesverband Medizintechnologie – BVMed
類似製品を扱っている現地の販売店
現地において自社と同じような製品を代理販売している代理店を探すことで、現地市場における主な企業と彼らが扱っている製品を把握できます。
参照:Medical Device Distribution | Uniphar Medtech
専門家からのヒアリング
ビザスクをはじめとする専門家からのヒアリングを行うことができるサービスを活用することも有効です。現地市場や特定の業界に知見のある専門家を募集しヒアリングを行うことで、デスクワークではカバーしきれない深い情報を把握できます。
参照:ビザスクinterview | ビザスク – 業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、ピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル
現地の市場調査会社
現地の市場調査会社を活用して、市場調査の代行を依頼することも可能です。現地の会社を使う場合は、市場調査の目的と方向性は自社で明確に定義し、実行を調査会社に依頼することが重要です。調査の主導権を現地の調査会社に渡してしまうと調査の意図とは外れた結果が返ってくる可能性が高いためです。
参照:Market research in Germany | ESOMAR Directory
上記のような調査を重ねていくと、海外の市場規模といった情報はもちろん「自社が参入できそうな市場」や「グローバルな大手企業が取りこぼしている市場」が見つかる可能性が高まります。
Step 3 ミクロ視点でユーザーニーズを調査する
次に絞り込んだ国や地域のユーザーを対象に、現地の見込み顧客や競合企業の製品を採用したユーザーを対象にインタビュー調査を実施します。このインタビューを通して、現地市場の顧客となり得るユーザーがどのような評価軸で製品選定をしているかを把握できるため、国内で評価されている自社の強みが海外でも活かすことができるかをより高い解像度で把握できます。(インタビュー調査の実施は、こちらの記事で紹介したツールを使用することで自社の製品やサービスに近いものを導入した経験のある顧客に絞ってインタビューを実施できます)
インタビューを実施する際は、顧客の購買の流れ(課題の認識→要件定義→解決策の探索→ベンダーの選定→導入後のサポート)に従って質問を整理することで、必要な情報をもれなく聞き出すことが可能です。
フェーズ | 顧客の置かれた状況 | インタビューでの質問例 |
---|---|---|
課題の認識 | 日々の業務の中で不便さや非効率、リスクを感じ始めているが、まだ明確な解決策は持っていない | ・業務の中で非効率やトラブルが発生していたポイント ・課題を放置していたことによる影響やリスク ・対応のきっかけとなった社内・外部の出来事 |
要件定義 | 課題を社内で共有し、改善の必要性が認識され、何を求めるか(条件・目標)を整理し始めている | ・解決のために必要だと考えた要件や機能 ・必須と判断した理由や優先順位付けの考え方 ・社内規定やセキュリティなど、導入にあたってクリアすべき条件 ・要件定義に関わった部署や担当者の役割分担 |
解決策の探索 | Web検索・展示会・営業訪問などを通じて情報を集め、製品やサービスの種類や選択肢を比較している | ・検討対象に挙がった製品やサービスの種類 ・情報収集で使用したチャネルやメディア(例:Web、展示会、人脈) ・製品比較の際に重視した評価項目 ・調査や比較に参加した社内メンバー |
ベンダーの選定 | 候補が数社に絞られ、価格・機能・サポートなどを比較し、社内稟議や見積もり検討が行われている | ・最終的に比較検討した候補数 ・製品の体験・検証方法(例:デモ、無料トライアル、提案プレゼン) ・想定内とされた価格帯やコスト感 ・導入を決めた主な決定要因 |
導入後のサポート | 導入が完了し、定着・活用に向けたフォローや課題改善、他部門展開などを検討し始めている | ・導入後のサポート体制やベンダー対応への満足度 ・利用開始後に判明した課題や改善点 |
余力があれば、上記で集めた情報をもとに顧客の「購買フローマップ」を作成すると、より体系的に顧客の購買の流れを整理できます。また本記事では詳しく解説していませんが予算に余裕がある場合は、現地市場の顧客を対象とした定量調査(例:アンケート調査)を実施することで、定性調査で得られたデータにより信憑性が加わります(定量調査に関しても実施は、こちらの記事で紹介したツールを使用できます)
Step 4 ペルソナを策定する
これまで集めた情報をもとに、顧客のペルソナ(理想的な顧客企業において購買決定に最も影響を及ぼす架空の人物像)を定義します。ペルソナを定義する際に必要な要素と、その情報源をまとめた表が以下になります。
ペルソナ要素 | 説明例 | 利用できるデータソースカテゴリ |
---|---|---|
業種・企業属性 | 業界、企業規模、地域、業務領域など | 既存顧客データ(国内市場)、デスクリサーチ |
役職・職種 | 例:製造部門の部長 / 管理部門の担当者など | 顧客インタビュー(海外市場)、既存顧客データ(国内市場) |
抱えている課題 | 現場で日常的に感じている非効率や制約 | 顧客インタビュー(海外市場)、社内でのヒアリング |
導入の動機・背景 | なぜ自社の製品・サービスに関心を持ったのか | 顧客インタビュー(海外市場)、社内でのヒアリング |
情報収集手段 | 展示会・Web・紹介など | 顧客インタビュー(海外市場)、社内でのヒアリング |
購買プロセス上の関与度 | 意思決定者 / 推薦者 / 実務担当 | 顧客インタビュー(海外市場)、既存顧客データ(国内市場) |
意思決定で重視する要素 | コスト、使いやすさ、導入サポート、実績など | 顧客インタビュー(海外市場)、社内でのヒアリング |
価値を感じたポイント | 他社との比較優位性や選定理由 | 顧客インタビュー(海外市場)、社内でのヒアリング |
導入後の利用実態・満足度 | 活用状況、効果、改善点 | 社内でのヒアリング |
上記の分析の結果、ペルソナが複数のカテゴリーに分類される場合は分類されたグループ毎にペルソナを策定する必要があります。ここまで後のプロセスに必要な調査が完了します。
Step 5 展開する海外市場と自社が選ばれる理由を明確にする
ここまでの調査で「どの市場の」「どのような企業の」「どのような需要に対して」「なぜ当社の製品が選ばれるのか」が明確になります。これらの内容が整理できたら、先のステップで使用したマーケティング・ミックスのフレームワークを活用し、4P(もしくは4C)として自社が海外展開でとるべき戦略を落とし込みます。
4P要素 | 自社の強み・訴求ポイント |
---|---|
Product | 高度なカスタマイズ性 × 日本品質で安定稼働 × 現地企業によく使用されている既存システムとの連携機能 |
Price | 初期コストはやや高めだが、維持管理費は業界最安水準 |
Place | 現地代理店によるサポートとWeb完結方のサポートチャネル導入の両立 |
Promotion | Webサイトをはじめとするオンラインチャネルの活用(日本国内で導入実績の訴求)、現地展示会への出展 |
ここで整理した内容は、現時点ではあくまで仮説ベースであるため、上記の仮説が間違っていないか確認するためにも、可能な限り現地で自社の競合製品を扱っている代理店や現地市場に詳しい専門家と直接コミュニケーションをとり、勝てる市場と自社の訴求方法をより高い精度で把握する取り組みが重要です。
Step 6 ローカライズしたWebサイト/LPを制作する
ここまでのステップで整理した情報をもとに、プロモーション用として作成する自社製品を紹介するWebサイトを作成します。Webサイトを制作する際は、以下の4つの観点から全体の方向性を整理します。
- Webサイトの種類:海外展開する製品全体を紹介する特化型サイトや、特定の課題に訴求する製品のみを紹介するランディングページが選択肢に入る
- Webサイトの内容:顧客の意思決定をするために必要な情報を中心に掲載する(例:製品情報、導入事例、技術資料)
- Webサイトのデザイン:現地の見込み顧客がよく使用するデバイスや馴染みのあるレイアウトを使用して作成する
- Webサイトの集客方法:SEOや広告、SNSを現地のユーザーの行動様式と購買フローのステージに合わせて選択し、情報発信を行う
海外向けのWebサイトの作り方は以下の記事を参照してください。
Step 7 Webサイトの集客施策を実施する
次に制作したWebサイトの集客施策を実行します。集客施策を実施する際は、Step 3で整理した顧客の購買フローをもとに、顧客がどの媒体でどのような情報を探しているのかという情報から逆算してチャネルを選定することが重要です。以下は顧客の購買フローにおけるステージ毎で活用できる集客チャネルの例です。
ステージ | 顧客心理 | 集客チャネルの例 |
---|---|---|
課題発生前 | 無自覚・潜在的な課題を抱えている | SNS投稿、SNS広告(例:LinkedIn)、業界メディアセミナー、プレスリリース |
課題の認識 | 自社の課題に気づき始めている | 自然検索(例:業界関連トピック)、ディスプレイ広告、動画配信プラットフォーム(例:YouTube) |
要件定義 | 解決の方向性を社内で検討中 | 自然検索(例:技術コラム)、検索連動型広告(例:ランディングページ) |
解決策の探索 | 複数製品を比較し始めている | 自然検索(例:製品紹介ページ)、業者比較/マッチングサイト、検索連動型広告(例:ランディングページ)、 |
ベンダーの選定 | 社内決裁・見積取得・最終選定の段階 | 業者比較/マッチングサイト |
上記で洗い出した集客チャネルを全て活用することは現実的ではないため、初期は購買フローの後半のステージにいる顧客が使用するメディアを優先して検討し、その後に購買フローの前半のステージにいる顧客に対しての認知を広げていく手法が有効です。
各集客手法の詳細は、以下の記事を参考にしてください。
Step 8 得られたデータを分析し施策を改善する
集客施策の実行後は、得られた反応をもとに達成するべきKPIを把握するためのレポートを作成し、定期的にデータを見ながら原因の分析と改善を行います。Webサイトと集客施策のパフォーマンスを評価する際には、必ず定量データと定性データを照らし合わせることが重要です。
定量データの例
- ROI(Return On Investment):投資した金額に対して得られた粗利益の割合
- CPA/CAC(Cost Per Acquisition):顧客1人の獲得にかかった金額
- MQL(Marketing Qualified Lead):マーケティング活動によって創出されたリードのうち、リードナーチャリングを経て購買意欲が高いと判断された見込み顧客
上記3つの指標は評価する対象の大きさに合わせて定点観測するポイントを工夫する必要があります。例えばROIは施策の収益性を評価するための指標であるため、ある程度の期間の結果を中長的で評価するときに適した指標であると言えます。一方、MQLのような施策開始直後から目に見えて成果がわかる施策は、短いスパンで数字を見ることで、施策の細かな方向修正や改善活動に繋げることができます。
定性データの例
- 問い合わせ内容: メール・電話・問い合わせフォームで寄せられた顧客からの問い合わせの内容(例:抱えている課題、望んでいる解決策)
- 商談の結果分析: Webサイト経由で生まれた顧客との商談結果の分析(例:受注/失注理由、稟議に必要な資料)
- 新規顧客へのインタビュー: 受注した顧客に対して自社の製品を導入した経緯と理由のインタビュー(例:導入の決め手、他社との比較軸)
定性データは、定量データで確認された変化点に対して生じる「なぜそうなったのか?」という疑問に対して、回答の材料を与えてくれます。
Step 9 リードと定期的に接点を作り想起を促す
株式会社WACULの調査によると、BtoBにおいて約55%のユーザーが第一想起した企業から商品を導入したと回答しています。したがってBtoBの購買プロセスにおいては一度自社に関心を示した顧客に対して定期的に情報発信することで、彼らが課題に直面した際に第一想起を獲得できる状態を作ることが非常に重要と言えます。特に海外の新市場となると、自社の知名度もなく海外の大手企業が圧倒的な認知を獲得している場合もあるため、以下のような施策を利用して、定期的に顧客と接点を持つことが必要です。
施策 | 内容 | 発信する情報の例 |
---|---|---|
メールマガジン(ニュースレター) | 自社の見込み顧客リストに定期的にメールで情報発信を行う | 製品アップデート、課題解決事例、展示会出展のお知らせ |
ウェビナーの開催 | 見込み顧客の関心のあるテーマでウェビナーを開催する | 製品のデモ、課題解決事例の紹介、Q&Aセッション |
SNSからの情報発信(LinkedIn) | 自社の属する業界における関連トピックを発信する | 業界トレンドの発信、製品アップデート、業界レポートの提供 |
リターゲティング広告 | 過去に接点のあった顧客に対する広告配信 | LPへの再誘導、お役立ち資料の提供 |
営業・カスタマーサポートからのフォローメール/DM | ホットリード(商談化する見込みの高い見込み顧客)に対しての個別フォロー | 個別相談、見積もり提示 |
Step 10 オフライン施策との連携(展示会・営業活動)を促進する
最後にここまでのステップで構築したオンライン施策とすでに行っているオフラインの施策を連携することで、さらなる効果改善を図ります。例えば以下のような連携が考えられます。
展示会で獲得した名刺情報をCRM(顧客管理システム)へ登録
ブースで回収した名刺をモバイルスキャナやQRフォームで即デジタル化し、CRMに「イベント名・興味商材・担当営業」などのタグを自動付与して登録することで、後続のメール配信やスコアリング、商談アサインを一気通貫で回せる体制を作る。
オフラインイベント参加企業へのターゲティング広告
CRMに保存されたリードのドメイン(会社URL)やメールアドレスを広告プラットフォームにアップロードし、展示会タグ付きリストだけをカスタムオーディエンスとして設定することで、来場後30日間に限定したリマーケティング広告(事例LP・比較LPなど)を配信し、想起を維持しながらオンライン上で追加情報を届ける。
展示会参加企業へのフォローアップメール/電話
イベント終了24〜48時間以内にサンクスメールで資料・デモ動画を送り、その開封/クリック状況をMAでスコアリングして温度感を可視化し、高スコア(例:資料DL+動画視聴)のリードから優先的に営業が電話フォローを行うことで、記憶が鮮明なうちに商談化率を最大化する。
まとめ
海外向けデジタルマーケティングの進め方とポイントを解説しました。各ステップの詳細な進め方や今回紹介した取り組みをご検討されている企業様がいらっしゃいましたら、お気軽に弊社(テクノポート株式会社)までご連絡ください。