海外向けテストマーケティングの基礎(進め方・実施方法)

【執筆者紹介】稲垣 達也
この記事の執筆者
稲垣 達也
【経歴】
テクノポート株式会社「海外Webマーケティング」サービスの責任者
名古屋工業大学大学院 電気機械工学専攻 博士前期課程卒業
同大学 機械工学科卒業

【保有資格】
TOEIC L&R:990/990、英検一級:合格、TOEFL iBT:108/120
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テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。

この記事では海外事業展開をご検討の方へ、海外市場向けのテストマーケティングを実施に役立つ情報をまとめました。

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海外向けテストマーケティングとは?

一般的にテストマーケティングとは、企業が特定の製品やサービスの提供を開始する前に、特定のターゲット顧客や市場で製品やサービスを試験的に展開し、市場の反応を評価する活動を指します。「海外向けテストマーケティング」とは、この一連の活動を海外のターゲット顧客や市場で実施することを指します。

海外向けテストマーケティングの目的

海外事業展開時にテストマーケティングを実施する目的は、大きく以下の3つに大別されます。

製品・サービスの需要調査

テストマーケティングの目的は、特定の製品・サービスが、海外で売れる可能性があるかを確かめることです。売れる可能性を確かめる(売れる根拠を集める)ことで、失敗するリスクが下がると同時に、失敗した際に発生する時間的、金銭的コストも抑えることができます。

顧客ニーズの把握

国内で評価を受けている製品・サービスをそのまま海外に販売して成功するパターンもありますが、海外の特定の地域では同じ商材に対しても製品の用途、製品の評価ポイント、顧客の購買の流れ、購買時に使用する媒体が変わります。これらの情報を事前に集めておくことで、海外の顧客ニーズが具体的になり、よりミスマッチの少ないマーケティング活動が可能になります。

製品・サービスの改善

テストマーケティングの過程で得られた情報は、仮説の検証だけでなく製品・サービスの改善はもちろん、販促資料、マーケティング用コンテンツの改善にも活用できます。これらの改善を実施したのちに、再度テストマーケティングを行うことで、更なる改善活動も可能です。

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海外向けテストマーケティングの進め方

テストマーケティングの進め方を、以下の5つのステップで解説します。

1. 仮説立案
2. 仮説の検証
3. テストマーケティングの実施準備
4. テストマーケティングの実施
5. 評価・改善

1. 仮説立案

海外向けのテストマーケティングの仮説立案時に整理するべき内容は、大きく以下の内容に分かれます。(以下は、すでに売りたい製品・サービスが具体的にイメージできている場合のチェック項目です)

製品・サービスについての仮説 ・現地の顧客が現在採用している製品、サービスは?
・現状の製品、サービスに対して感じてる不便さは?
・製品、サービスを切り替えるタイミング、新しい製品、サービスを探すきっかけは?
・製品、サービスに求める性能、重視する特徴は?(国内の既存顧客が評価するポイントと差はあるか?)
見込み顧客についての仮説 ・顧客になり得るユーザーが属している地域は?
・見込み顧客の業種、業態、企業規模は?
・現地の見込み顧客の一般的な購買の流れは?
・現地の見込み顧客の情報収集方法、情報収集時に使用する媒体は?
競合企業についての仮説 ・現地の顧客が購買時に検討する主要な競合企業は?
・現地の競合企業の製品が評価されているポイントは?
・現地の競合企業の製品、サービスに対して顧客が感じている課題は?
・現地に参入している海外の競合企業とそれらの企業のビジネスはうまくいっているか?
その他(例:文化、商習慣、言語)についての仮説 ・製品、サービスのコンセプトは現地でも受け入れられるか?
・地域特有の商習慣や慣例、法規制が製品の販売に影響するか?
・製品、サービスに使用されている言葉は、現地のユーザーにとって自然か?

上記のような検討項目と、各項目に対する仮説を手元の情報で一通り整理します。
整理した内容の整合性は、すでにデータとして確証が取れるものを除き、以降のステップで検証します。

2. 仮説の検証

最初のステップで洗い出した仮説に対して、答え合わせをするステップです。
特にBtoB商材においては、以下のような情報収集方法を活用できます。

  • 海外の見込み顧客へインタビュー
  • 海外支社、販売代理店からの情報提供
  • 海外展示会への参加・出展
  • 専門家のコンサルティング
  • 公開情報

海外の見込み顧客へインタビュー

海外の見込み顧客へインタビューを行う方法です。販売を強化したい地域に属する顧客に対象を絞り、仮説立案プロセスで定義した業種・業態のお客様を中心にインタビューを実施します。
インタビューの被験者を募集する際は、以下のようなツールが活用できます。

RESPONDENT

Respondent
出典:Recruit High-Quality Participants for User Research | Respondent

BtoBとBtoCの両方の目的に対応。インタビュイーの属する国、業界、職種でフィルターをかけることが可能。
【インセンティブ(報酬)の目安】1万円〜/1インタビュー

OPENQ

B2B User Interviews - OpenQ - openq.co
出典:Home | OpenQ

英語圏のBtoBのユーザーインタビューに対応。インタビュイーとして認証されたユーザーのみが登録されており、ユーザーの選定に必要な情報が豊富に掲載されている。
【インセンティブ(報酬)の目安】5,000円〜/1インタビュー

User Interviews

User Interviews
出典:User Interviews | The User Research Recruiting Platform for Teams

200を超える国と地域のユーザーインタビューに対応。インタビュー形式のリサーチに加え、ユーザビリティテストや、アンケート調査といった調査方法も利用可能。
【インセンティブ(報酬)の目安】15,000円〜/1インタビュー(BtoBユーザーへの絞り込みありの場合)

見込み顧客の数が限られる場合

上記のようなツールは、製品・サービスに対して一定数の需要(見込み顧客)が見込める商材の仮説検証時に有効なツールです。ただ商材によっては、対象となる顧客(企業)が限定される場合もあります。

そのような場合は、上記のようなツールを使用するよりも、見込み顧客になり得るユーザーに対して彼らのSNSアカウントに直接メッセージを送る方法もあります。特に見込み顧客(企業)がリストとして洗い出せるような場合は、LinkedIn上で企業検索を行い、企業内の特定の職種のユーザーに対して直接インタビューを打診する方法も有効です。

海外支社、販売代理店からの情報提供

海外に支社や販売代理店が存在する場合、現地のユーザーのニーズを把握する上で、情報提供を依頼したほうがいいです。特に海外向けに新製品や新規事業の立ち上げを行う場合、以下のような情報は新しいビジネスを展開するにあたっても有益な内容になります。

  • 既存の製品が現地の顧客に評価されている理由
  • 現地の顧客が製品・サービスの購買時に検討する競合他社の製品・サービス
  • 現地の顧客が既存製品・サービスの導入に至った背景
  • 現地の顧客が既存製品・サービスの導入時に活用した情報収集方法、媒体

特に現地での販促活動や顧客対応を行っている営業部隊、アフターセールスサポートやメンテナンス対応をしている部署の担当者は、日頃から顧客の声を直接聞けている可能性が高いため、有益な一次情報が手に入る可能性も高いです。

海外展示会への参加・出展

特定の地域において主要な競合企業の製品、サービスを把握する目的や、その業界の市場感や顧客層を把握する目的で、海外の展示会(業界イベント)に参加する方法があります。特にテストマーケティングの目的で出展する場合は、「見込み客から商材についてのフィードバックを得て、現地市場で受け入れられそうか確認する」ことを目的に情報収集を行います。

特に商材のターゲット地域と業界が絞り込まれるような商材の場合、特定の地域において業界関係者向けの展示会に参加することで、業界の全体像と参加者の顔ぶれから見込み顧客のイメージがより鮮明になります。

専門家のコンサルティング

特定の業界や商材の海外展開について経験のある有識者や企業にコンサルティングを依頼する方法です。海外市場に精通した大手コンサルティング企業に依頼する方法が難しい場合は、以下のような方法が活用できます。

現地の調査会社

現地の調査会社に直接依頼する方法は費用面でも現地ユーザーの声を調査する上でも有用な手法です。現地の調査会社を選定する際は、調査会社ができるだけユーザーに近い場所に所在しており、十分な調査実績がある会社を探して調査を依頼するほうがよいといえます。

スポットコンサルティング

特定の業界に精通した有識者へスポットでコンサルティングを依頼する方法です。自社が販売を進めたい商材や地域で検索を行い、似たような経歴を有するコンサルタントにアドバイスをもらうことで、現地の販売において事前に知っておくべきことや、現地顧客が選ぶ大手企業など、公開情報では得られにくい情報を把握できます。

公開情報

信頼できる機関が公表している情報を中心に、特定の業界や国における全体的な傾向を把握するために活用します。公開情報として活用できる情報源の種類には、以下のようなものがあります。

行政団体・業界団体のWebサイト

各国の行政団体のWebサイトでは、その国における特定の業界の統計情報が確認できます。また業界団体のWebサイトを閲覧において、団体に参画している企業の名簿をチェックすることも可能です。

現地の販売代理店のWebサイト

各国の自社以外の製品を取り扱う販売代理店のWebサイトを確認することで、各企業が現地でどのような製品を、どのような価格帯で販売しているかがわかります。

オンラインセミナー

現地の業界団体や現地における競合企業が主催するセミナーに参加することで、市場感や彼らの販売戦略を把握する材料になります。また開催されているセミナーの傾向を把握することで、現地ユーザーのニーズを把握する材料として活用できます。

3. テストマーケティングの実施準備

上記の調査を一通り終えると、それぞれの仮説に対し回答が集まります。得られた回答を元に、製品・サービスの販売方法、訴求方法を決め、それらの決定をもとに、テストマーケティングを実施するために必要な準備を行います。

テストマーケティングで活用できる販促資料には、以下のようなものがあります。

  • ランディングページの制作
  • サービス提案資料の制作
  • サービス紹介動画の制作

サービス提案資料の制作

製品・サービスの内容を紹介するための提案資料を制作する方法です。提案資料の内容は、見込み顧客が購買検討時に重要視する情報が盛り込まれた形で制作し、仮説検証の場合である程度形になっている場合は、顧客から直接フィードバックをもらい、修正した状態でテストマーケティングに臨めるとよりよいです。

ランディングページの制作

製品・サービス用のランディングページを制作する方法です。国別、言語別、ターゲットする業界別で異なるパターンのランディングページを制作することで、特定の切り口(例:地域ごと)での反応の違いを分析することもできます。

サービス紹介動画の制作

上記のような説明では使用感や活用イメージが伝わりづらい場合、サービス紹介用の動画を準備することも選択肢に入ります。特に顧客の購買時の判断基準の一つに「動画での説明」が挙げられるような商材の場合は、上記のような準備に合わせて、動画での説明も検討されるとよいです。

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4. テストマーケティングの実施

上記の準備が完了したら、どのようにテストマーケティングを実施するかを決定します。テストマーケティングに使用する媒体は、可能な限り見込み顧客インタビュー時に得られた回答を元に選択します。それ以外の選択肢を検討される場合、BtoB企業向けのテストマーケティング時に活用できる媒体として、以下のようなものがあります。

  • Web広告(例:Google広告、Microsoft広告、Baidu広告)
  • SNS広告(例:Facebook広告、LinkedIn広告、Weibo広告)
  • 業者マッチングサイト・ECサイト(例:Amazon Business、Alibaba、Thomasnet®)

Web広告

対象の国や地域における見込み顧客が使用する検索エンジンや広告媒体に広告出稿する方法です。特にWeb広告は、以下のような場合に有効な手法です。

  • 現地において見込み顧客(企業)が無数に存在する
  • 現地の検索エンジンで製品・サービスを表すキーワードでの検索が一定回数発生している
  • 見込み顧客が検索エンジンでの情報収集を積極的に行う可能性が高い

特に製品・サービスを表す検索キーワードが現地において、一定数検索されている場合はリスティング広告の出稿が相性が良いです。リスティング広告は、検索エンジンの検索結果画面に表示するテキスト型の広告で、製品・サービスに一定の関心があるユーザーのみを対象に、Webサイトへ集客できる特徴があります。

SNS広告

現地でビジネス用途で一般的に使用されているSNSに広告出稿する方法です。以下のような場合に有効な手法です。

  • SNSがビジネスの購買プロセスにおいて活用されている
  • 直接的に製品、サービスそのものを表す検索キーワードが見つからない
  • ターゲット企業名をリスト形式で絞り込むことができる

3つ目のポイントについては、BtoB商材の場合、ターゲット企業が企業名として数えられるほどに限られる場合があります。そのような場合、上記のような(見込み顧客に広くアプローチできる)Web広告ではなく、ターゲット企業を絞り込んで配信できるLinkedIn広告を使用したほうが効率が良いといえます。

業者マッチングサイト・ECサイト

上記以外の方法として、特定のBtoB商材向けの業者マッチングサイトやECサイトを活用する方法があります。以下のような場合におすすめです。

  • 顧客の購買プロセスにおいて特定の業者マッチングサイトやECサイトが活用されている
  • 特定の地域においてよく使用されている業者マッチングサイトやECサイトがある
  • 現地の競合他社に比べて製品・サービスの優位性が明確に存在する

3つ目のポイントについては、業者マッチングサイトやECサイトを活用する場合、利用するユーザーは必ず競合他社の製品と比較をするためです。比較された際に、製品やサービスの優位性が媒体上で伝わりにくいような商材の場合、選ばれる可能性も下がるため、注意が必要です。

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5. 評価・改善

最後のステップとしてテストマーケティングの実施結果を評価し、販促資料、販促方法を含めた製品・サービスの改善に活かします。テストマーケティングの結果を、以下のような視点で整理します。

  • 国/地域別の結果
  • 販売方法(販促資料)別の結果
  • 媒体別の結果

上記の項目で明確な差が出なかった場合や、新たな仮説が生まれた場合は、再度ステップを戻り、必要な修正を加えた上で再度テストマーケティングを行います。

まとめ

海外向けのテストマーケティングの実施方法について解説しました。テストマーケティングの全てのステップを丁寧に進めていくには、時間も労力もかかりますが、その過程で得られた情報は、中長期的な失敗を防ぐのに大きな価値を発揮します。

弊社(テクノポート株式会社)では、海外向けのテストマーケティングの支援も対応可能です。海外事業展開における需要調査について課題を感じている企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。(テクノポート株式会社の海外Webマーケティング

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この記事の執筆者
稲垣 達也
【経歴】
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名古屋工業大学大学院 電気機械工学専攻 博士前期課程卒業
同大学 機械工学科卒業

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