テクノポートの廣常です。ある分野に特化したニッチな技術・製品を市場に広めるには、一般的な技術・製品とは少し異なるアプローチが求められます。本記事ではこうした技術・製品を拡販していくのに効果的な施策と、その精度を高める方法についてご紹介します。
この記事の目次
「技術・製品自体が知られていない状態」でのWebマーケティング
既に市場で広く知られている技術や製品の場合、ユーザーはそれらの名称を軸に直接検索をかけ、情報収集を行います。
検索例: 「板金加工」「基板実装 大阪」「3Dプリンター メーカー」「自動搬送装置 製造」
一方で、ニッチな分野の技術・製品の場合、その存在自体が知られていないため、上記のような技術や製品名を軸とした流入経路ではなかなか辿り着いてもらえません。
このような状況下でWebマーケティングを進めていくには、潜在顧客が抱えている課題や、既存の類似技術・製品に関連する情報を通じて、自社の技術や製品を認知してもらうといった多角的なアプローチが必要になります。
ニッチな技術・製品のWebマーケティング成功事例
リソー技研:超音波はんだごて「Velbond」
出典:株式会社リソー技研
- 製品概要
超音波はんだごて「Velbond」 - 状況
ニーズがあるだろうと想定していた機能(具体的には異素材接合)に対する市場ニーズが薄かったため、新たな用途で活用してもらえるターゲット顧客を模索する必要があった。 - 実施施策
– MFTフレームワークで技術を要素分解
– 要素分解した結果をもとにSEO対策を実施
– アクセス解析により新たなニーズを発掘 - 結果
– 低温接合という機能に市場ニーズがあることを発見
– 低温接合が求められるアルミ接合にフォーカスし、多くの分野で困っていたアルミ同士の接合に関する問い合わせを獲得
協友製作所:摩擦攪拌接合(FSW)
出典:株式会社協友製作所
- 技術概要
摩擦攪拌接合技術(FSW) - 状況
摩擦攪拌接合に関する問い合わせがなく、一般的な機械加工の問い合わせ(相見積もりと思われる)しか来ない。 - 実施施策
– 技術紹介用のページを立ち上げ、イラスト等でわかりやすく解説
– 解決できる課題の明示
– 「コールドプレート 設計」など加工部品名でのSEO対策を実施 - 結果
– 特定の技術での加工や、製品製作の問い合わせ獲得
– 受注率の改善
鳴滝工業:歯車製造事業・鋼構造物事業
出典:鳴滝工業有限会社
- 技術概要
歯車・鉄構造物製造 - 状況
潜在顧客を発見することが難しく、新規顧客開拓に課題を感じていた。 - 実施施策
– 事業内容や自社の強みがより伝わるようにWebサイトリニューアル
– 「べべルギア」など加工部品名でのSEO対策を実施 - 結果
– 問い合わせ数の大幅な増加
– 新市場からの問い合わせ獲得
北進:酸洗い処理
出典:株式会社北進
- 技術概要
酸洗処理・電解研磨 - 状況
ニッチな技術なため訪問営業の成果が出づらく、新規開拓においては既存顧客の紹介のみが頼みの綱であった。Webサイトを立ち上げたが効果が出ていなかった。 - 実施施策
– 酸洗技術を解説するためのコンテンツ追加
– 「酸洗い」など技術名でのSEO対策を実施 - 結果
– 狙いとしていた顧客層からの問い合わせをWeb経由で獲得
高木特殊工業:めっき(PTFE複合無電解ニッケルめっき等)
出典:高木特殊工業株式会社
- 技術概要
めっき加工(無電解ニッケルめっき、硬質クロームめっき、セラミック‐カニゼン‐複合めっき、PTFE複合無電解ニッケルめっき) - 状況
自動車業界をメインとして安定した受注を確保できていた一方で、新規顧客開拓には注力していなかった。自社の技術が生きる他の業界を探すことも必要だと考え、Webサイトを使った営業に着手。 - 実施施策
– サイト上のターゲットを「設計者」に特化させ、めっきによる効果を訴求
– 実験データの公開
– 「PTFEめっき」など技術名でのSEO - 結果
– 問い合わせの増加
– 受注率の改善
ニッチな技術・製品におけるWebマーケティングの進め方
1. 市場での自社の立ち位置を整理
サイトリニューアルや具体的な施策に取り組む前に、まずは市場での自社の立ち位置を整理することが重要です。
今まで取引のあった業界・顧客の特徴を一度整理した上で、そのまま既存業界で戦い続けるのか、新規路線へアプローチをかけるのかを検討していきます。
ニッチな技術・製品の場合は狙いとする顧客の母数が限られているため、ターゲットを特定の分野に絞りすぎると早々に頭打ちになってしまう可能性があります。それらの商材が提供できる価値に焦点を当て、事前調査を行なった上でできるだけ視野を広げることが必要です。
2. Webマーケティングの目的・ペルソナを設定
自社の立ち位置が整理できたら、Webマーケティングの目的・ペルソナ(ねらいとする顧客の属性)を設定します。
認知度向上なのか売上拡大なのか、マーケティング目的が曖昧であるとコンテンツの見せ方や施策が定めづらくなるため、何に主軸を置くのかをよく検討しておく必要があります。
また、ニッチな商材である分顧客の属性を想像しやすいという特長があります。
これを活用し、自社のサイトにどのような顧客が来て欲しいのか、具体的なペルソナにまで落とし込みます。
■ 最低限整理しておきたい情報
- 企業規模
- 業種
- 役割/役職
- 課題/ニーズ
- (そのペルソナが)実現したいこと
技術や製品導入によって何を達成したいのか、どんな効果があると嬉しいかを想像し、Webサイトのコンテンツに盛り込んで行きます。
3. 施策を選定、実施
上記の項目が整理できたら、具体的な打ち手を決めていきます。
以下に、ニッチな技術・製品におけるWebマーケティングにおいて効果的な施策の例を3つ紹介します。
1. 新規顧客向け SEO
技術・製品を知っていなくても自社サイトに辿り着いてもらえるよう、技術・製品名称以外の検索語句でのSEOが効果的です。
a) 課題・ニーズ系のキーワード
潜在顧客が直面している問題や課題に関連するキーワードを想像し、それらの語句で自社サイトが検索結果の上位に表示されるようにページを作成します。
対策キーワード例
・耐熱 コーティング
・金属部品 軽量化
・搬送 自動化
・防塵 対策
コンテンツ例
– 課題解決事例の作成
– FAQの作成
b) 類似技術・製品系のキーワード
もし既に市場に浸透している類似技術や製品があれば、まずはそのキーワードでユーザーを呼び込み、代替として自社の技術・製品が使用できることを訴求するのも効果的です。特定の技術・製品しか検討していなかったユーザーに対して、選択肢を増やしてあげるようなイメージです。
コンテンツ例
– 類似技術や製品との比較記事の作成
(※自社技術・製品への一方的な誘導ではなく、メリット・デメリットもしっかりと記載)
– 技術・製品の優位性を示す独自のテストや性能評価結果の公開
2. 新規顧客向け 広告出稿
潜在層にアプローチするためには広告の出稿も効果的です。ユーザーが自発的に検索をしなくとも、自ずと自社技術・製品に出会える機会を作り出します。
a) ディスプレイ広告(バナー広告)
関連業界のWebサイトや専門メディアにバナー広告を掲載し、情報収集をしているユーザーに直接アプローチします。
b) SNS広告
LinkedInやXなどのSNSにて、ターゲットを絞った広告配信を行います。職種や業界、興味関心などの詳細なターゲティングが可能なため、効率的にアプローチできます。
a)ディスプレイ広告、b)SNS広告どちらにおいても、媒体によっては動画広告を配信することも可能なため、広告内で技術や製品のデモンストレーションを見せて訴求することもできます。
3. 既存顧客向け メールマーケティング
新規顧客の獲得ばかりに目を向けがちですが、別事業や製品を通じて既に接点のある既存顧客に対しても技術や製品の認知を高めることも重要です。
a) メールマーケティング
定期的なニュースレターや製品情報の配信によって既存顧客に新技術や製品の情報、導入事例を紹介します。他の商材の顧客であったとしても、思わぬニーズの掘り起こしにつながる可能性があります。また、継続的に情報を送付することで、すぐの商談にはつながらなくとも、「そういえば〇〇社がXXを扱っていたな」と想起してもらえることを目指します。
より見込みの高そうな顧客には、一斉送信感のある内容よりは個人宛に向けたメール内容を作成することで反響率をあげることが可能です。
作成例
- 送信元の氏名を社名でなく、自社営業担当者の氏名にする
- メール本文に、送付先の個人に宛てた内容を盛り込む
Webサイト上で伝えるべき内容
SEOや広告等の施策によって獲得した訪問者を最終的な商談や購入につなげるためには、Webサイト上で適切な情報を伝える必要があります。
サプライヤー・メーカー企業別に、サイト上で載せておきたい情報は以下となります。
サプライヤー企業
– 加工事例:実際に加工した部品等の事例(掲載できるものが無ければ、自社で加工したサンプル品や3Dデータで代替)
– 技術説明:前提知識や特徴、対応材質、精度など
– 評価結果:加工前後の物性値変化など
– 他工法との比較:従来技術・類似技術と比較したメリットや優位性の明示
サプライヤー企業の場合、技術ばかりを説明してもその良さに気づいてもらえない場合があります。
その技術の効果を理解してもらえるよう、場合によっては前提知識・基礎的な情報等も併せて紹介することが求められます。
メーカー企業
– 導入事例:実際の導入事例や成功事例の掲載
– 使用方法の詳細説明:導入〜運用までのステップを具体的に解説
– 製品スペック:性能や仕様を詳細に記載
– 他製品や従来品との比較:従来製品・類似製品と比較したメリットや優位性の明示
施策の精度を高めるためには
これらの取り組む施策の精度を高めるためには、直接ユーザーに普段の行動や自社を知ったきっかけを聞いてしまうことも一つの手立てです。新規顧客との商談時や、既に自社技術・製品を導入してくれた既存顧客にヒアリングすることで、効果がありそうな施策の目星をつけることができます。
1. 商談時のヒアリング
新規顧客との商談の際に、自社を知ったきっかけを直接聞き取ります。これによりどの施策が効果的であったかを把握します。
2. 既存顧客へのインタビュー
既存顧客にインタビューを行い、自社の見込み顧客が普段どのような行動をしているのかをつかみます。業界のトレンドや情報収集方法、課題解決のプロセスなどを詳しく聞くことで、自社がどういった情報を発信していくべきかの方向性の参考となります。
まとめ
ニッチな技術・製品におけるWebマーケティングの進め方
1. 市場での自社の立ち位置を整理
2. Webマーケティングの目的・ペルソナを設定
3. 施策を選定、実施
ニッチな技術や製品の認知度向上は、長期的かつ多角的な取り組みが必要です。自社の技術・製品を広めていくための一つの参考となれば幸いです。