テクノポートの井上です。技術を保有する企業にとって、用途開発は非常に重要なテーマです。ただ、なかなか思うようにいかない企業も多いのが現状ではないでしょうか。今回は、自社の技術を別業界(分野)へ積極的に展開し、別の用途として使ってもらう「用途開発」の方法について、具体的な進め方を紹介したいと思います。
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この記事の目次
用途開発とは
技術の用途開発とは、自社が保有する技術の既存の市場以外での活用用途を見出し、新しい用途を開発することを指します。その目的は、保有技術を、既に使用されている領域ではなく、新しい領域へ用途展開することで、過当競争から抜け出し、技術探索者に技術を高く買ってもらうことにあります。そのため、技術を保有する企業にとって重要なテーマと言えます。
技術の必要性について
用途開発の方法を紹介する前に、前提とされる「技術の必要性」について述べたいと思います。基本的に技術は「課題を解決するための手段」として使われ、それだけで価値を生むものではありません。製品やサービスと結合することで、初めて技術に価値が生まれるものが技術になります。その技術が必要とされる一般的なケースとして、製品を改良するときがあげられます。
既存の製品は
- 機能が低い(掃除機で例えると、吸引力が低いなど)
- 機能が足りない(スマホで例えると、電子マネーに対応していない)
- 寿命が短い(電球で例えると、切れやすい)
- デザイン性が悪い
など、様々な課題を抱えています。この課題を解決するときに「技術が必要」となります。例えば、新しい技術を加えることで
- 機能の向上(掃除機で例えると、吸引力が高い)
- 機能の追加(スマホで例えると、電子マネー対応)
- 寿命が長い(電球で例えると、LED対応)
- デザイン性が高い(羽根のない扇風機)
など、製品に新たな価値を付けることができます。このように製品を改良したい場合に技術が必要とされることから、用途開発を考える場合も「技術と製品」をつなげて考える必要があります。
用途開発の方法について
用途開発の方法は大きく「自分で見つける場合」と「他者に見つけてもらう場合」の2つがあります。自分で見つける場合は「技術を活かせる製品を見つけること」、他者に見つけてもらう場合は「様々な投げかけを行い技術を知ってもらうこと」がポイントになります。
1.用途を自分で見つける場合
自ら用途開発を行う場合は「製品の課題を見つけて、製品をレベルアップできるような技術を提案する」ことが求められます。そのため、製品の課題を見つけることが最大の目標になります。
同じ課題をもった別の製品を調査する
自社の技術の理由が把握できたら、同じ課題を持った別の製品を探してみましょう。これが用途開発のきっかけになります。自社の技術が今の製品の課題を解決しているのであれば、別の製品の同様の課題を解決できる可能性は非常に高くなります。
ただ、別の製品を見つけることは容易ではありません。製品の構造や機能を知っていなければならないため、普段から情報のアンテナを伸ばし、製品についての知識を溜め込んでいかなければなりません。
自社の技術が新しい製品に転用可能か調査する
最後に、自社の技術がその製品の課題を解決できるかどうかを検討します。同じ課題を抱えていても、その製品の技術レベルのほうが高い可能性もあります。例えば、自動車業界の製品を作っていて、医療製品へ転用できそうだと思っても、医療製品のほうが精度などが高い可能性があります。これでは製品の課題を解決できないので、別の製品を調査する必要があります。
上記の手順の簡単な例を紹介します。
- 現在、自動車のエンジンのピストンを作っている。
- 技術が使われている理由は、真円度と円筒度の精度が高く、摩擦抵抗を小さくできるため。
- 真円度と円筒度の精度が必要となる別の製品として高速回転の軸がある。
- もしかしたらうちの技術は高速回転の軸に使えるかもしれないので、軸の現状について調査してみよう。
- 材質や精度について、ほぼ同程度の技術があれば自社の加工技術が高速回転の軸の製造にも応用できることがわかった。
- 提案資料などを作って、高速回転設備を作っている企業に自社技術の売り込みをする。
という風に、自社の技術が使われている製品からその理由を見つけることで、用途開発ができるようになります。
2.用途を他者に見つけてもらう場合
他者に用途開発を行ってもらう場合は「技術をオープンにして、相手に自社技術の利用価値を見出してもらう」ことが必要になります。技術をオープンにすると、不特定多数の技術者に自社の技術を知ってもらえます。すると、相手が技術の使い道を想像し、利用価値を見出してくれます。特にこれからの時代は、いかに多くの用途アイディアを呼び込めるかが重要です。そのための手法として、Web活用がおすすめです。なぜWeb活用がおすすめなのか、従来の自社発見型の用途開発の問題点とWebによる用途開発のメリットについて記載します。
自社発見型の用途開発の問題点
- 用途開発とマーケティングが切り分けられている
- ニーズの発掘に時間とコストがかかる
- 自社で見つけられる範囲は顕在化したニーズがほとんどで、想像を超える用途の発見にはつながりにくい
- 明確化させたターゲットが誤りだった場合の軌道修正が難しい
- 細かな需要をスピーディーにとらえられない
- 顧客ニーズの多様化/複雑化
- 製品ライフサイクルの短命化
Webによる用途開発のメリット
- ニーズの発掘と顧客獲得が同時進行ができる
- スモールスタートできる
- 自社で定義できない用途が呼び込める
- ターゲットを特定しないのでリスクは最小限
- 細かなニーズをスピーディにとらえられる
特にWebであれば、用途定義と顧客開拓が同時進行できる点が優れています。従来の発見型の用途開発だと、用途定義を行いターゲットを明確化した後に、どう売り込むかが次のステップでした。その点、Webでマーケティングを行えば「このような用途で使えますか」という相談を呼び込み、実現可能であればそのまま商談につなげることができます。可能性を多く呼び込めるようになると、需要のある領域をカテゴリ化して訴求力を高めた自社発見型のマーケティングも可能となります。
Webを活用した用途開発の4ステップ
- MFTフレームワークを使って、技術の棚卸しを行う。
- 棚卸しした技術の各要素をコンテンツ化するための企画を考える。
- コンテンツを制作し、Webサイトに掲載する。
- アクセスデータを分析し、技術MAPの更新要素を探る。
詳細なWebを活用した用途開発の流れと用途開発に役立つMFTフレームワークについてはこちらで説明しています。
自社独自の技術MAPを作成し、常に情報を更新していくことによって、新しい用途開発の可能性を模索していくことが可能になります。
用途開発に成功した事例
以下より、技術マーケティングにより「市場(用途)の発見」に成功した企業の事例をご紹介していきます。
NISSHA株式会社(摩擦・せん断力センサー)
(出典:NISSHA株式会社)
技術マーケティングの目的
自動車業界向けに開発された摩擦・せん断力センサーを、他の有望な分野へ用途展開させること。
施策の内容
- MFTフレームワークで技術を棚卸し
- 技術紹介を行うためのオウンドメディアを構築
- 多方面の技術者へ技術を知ってもらうために、SEOを目的としたWebコンテンツの制作やWeb広告を実施
- アクセスデータと問い合わせ内容を分析し、用途仮説の立案・検証を繰り返す
成果
技術マーケティングにより、自動車業界以外の有望な用途としてロボット業界を見出し、当業界向けの技術開発を本格展開するに至った。
株式会社リソー技研(超音波はんだ技術)
(出典:株式会社リソー技研)
技術マーケティングの目的
自社製品である超音波はんだごて「Velbond(ベルボンド)」の拡販、および超音波はんだ技術の用途を広げること。
施策の内容
- 超音波はんだごて「Velbond(ベルボンド)」の販売および、超音波はんだ技術のアプリケーションを紹介するためのオウンドメディアを構築
- 定期的なアクセス分析により用途仮説を立案
- 用途仮説を実証するためのWebコンテンツ(主に技術コラム)を作成
成果
ニーズがある機能として「誰でも簡単に接合できる」「異素材同士を接合できる」を想定していたが、新たに「低温で接合できる」という方向性を見出した。その結果、「アルミ同士の接合」という用途仮説を導き出し、多くの顧客獲得に成功した。
株式会社グリムファクトリー(剥がれないデジタルカラー塗装印刷)
(出典:株式会社グリムファクトリー)
技術マーケティングの目的
特許取得した技術「剥がれないデジタルカラー塗装印刷」の用途を開拓すること。
施策の内容
- 当技術を分かりやすく伝えるためのWebページや動画を制作
- クラウドソーシングで当技術を使った用途アイデアを募集
成果
金属カードの印刷、医療、屋外塗装などといった開発段階からの相談や、既存加工方法の代替手段として使えないかといった問い合わせを多数獲得。また、剥がれない印刷というキーワードで検索上位表示を実現。
用途開発を実現した3社の事例から考察する成功ポイント
- ターゲットを絞りすぎず、さまざまな分野のユーザーへ情報を届けることを意識する
- その技術に対し知識がないユーザーが閲覧しても分かりやすいようなコンテンツ(テキスト、画像、動画を活用)を作成する
- 情報発信した結果を踏まえ、新たな用途仮説を立案したり、立案した仮説から新たなコンテンツを生み出している
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