テクノポート株式会社の稲垣です。
BtoB企業向けの「海外向けWebマーケティング」サービスの責任者を務めています。
この記事では以下の内容について解説します。
・中小企業が海外進出に失敗する3つの理由
・海外進出の失敗例4選
・中小企業が海外から撤退できた要因3選
・中小企業が海外進出で失敗しないための戦略
なお本記事で使用するデータは、すべて参考文献へのリンクを記載しています。ご自身でデータの内容を確認したい方は、ご参照ください。
この記事の目次
中小企業が海外進出する割合
失敗する理由に入る前に、まずどれくらいの中小企業が海外展開しているのかを確認します。
こちらの図は、中小企業庁が1997年から2018年における「中小企業の海外展開比率」を表したグラフです。
参考資料:中小企業庁:2021年版「中小企業白書」 第3節 グローバル型・サプライチェーン型企業の目指す方向性と支援の在り方
グラフが示す通り、中小企業の海外展開の動き(直接輸出と直接投資)はともに増加傾向が続いており、統計が開始された1997年時点と比べ、どちらも約5%の増加が確認できます。
日本企業の海外拠点数を調べたこちらの記事でも解説しているように、ASEANを中心としたアジア諸国への進出が特に目立ちます。
参考記事
中小企業が海外から撤退する割合(2022年最新)
こちらのグラフはアジア・オセアニア地域に拠点を持つ日系企業4,587社に「今後1~2年の事業展開の方向性」を調査した結果です。(出典:2021年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)(2021年12月))
こちらのグラフと関連するデータから以下のことがわかります。
2021年時点における「今後1~2年の事業展開の方向性」について
- 「拡大」と回答した企業の割合は前年と比較し6.9%上昇(2021年:43.6%、2020年:36.7%)
- 「縮小」・「第三国(地域)へ移転、撤退」と回答した企業の割合は前年と比較し3.5%低下(2021年:5.6%、2020年:9.1%)
- 国別で見るとミャンマー、スリランカ、ニュージーランド、ラオスでは10%以上の企業が「縮小」もしくは「第三国(地域)へ移転、撤退」と回答
海外進出に失敗する3つの理由
「海外進出の失敗」とは?
本題に入る前に、この記事における「海外進出の失敗」という言葉の定義を明確にしておきます。
この記事での海外進出の失敗とは、「撤退」という意味と同義になります。厳密には「本国の親企業が在外子会社の企業活動に対する支配を放棄すること」と定義します。(参考文献:日本企業の海外進出と撤退についての一考察)
結論
それでは、本題の海外進出に失敗する3つの理由を紹介します。
結論からまとめると、海外進出で失敗する3つの理由は「①現地市場での売上の減少」「②輸出の低迷」「③コストの増加」です。これらの理由は、2020年12月の日本貿易振興機構の「2020年度 海外進出日系企業実態調査」のデータを参照しています。
以下では順にそれぞれの要因について解説します。
①現地市場での売上の減少
回答グループ | 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, % |
---|---|
製造業全体 | 46.0 |
中小企業(非製造業含む) | 50.9 |
最も大きな理由とも言えるのが「現地市場での売上の減少」です。
こちらの理由が原因で事業縮小もしくは移転・撤退をしたと回答した企業は、大企業、中小企業にかかわらず最も高い比率となっています。
製造業の場合、東南アジアにおいて現地の日本企業から獲得していた案件が急になくなる(もしくは規模が縮小する)ことによって利益の確保が難しくなることが典型的なケースとして挙げられます。
タイのバンコクに拠点を構えて、現地の日本企業向けに部品調達を行っていた会社が、急に仕事がなくなり現地企業から新規の仕事を獲得するか、撤退するかの選択を迫られるケースもあったと言われています。
②輸出の低迷
回答グループ | 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, % |
---|---|
製造業全体 | 51.2 |
中小企業(非製造業含む) | 36.6 |
製造業全体で見ると、先ほどの「現地市場での売上の減少」より高い比率であったのが「輸出の低迷」です。
輸出が低迷する原因として、物流コストが上昇傾向にあることが挙げられます。物流コストの上昇にともない、海外に拠点を持つ日本企業が生産部品供給を現地で完結させたいという需要が強まり、結果として輸出に対する需要が低迷していると考えられます。
例えば、以前は中国から部品を輸入していたベトナムの日本企業メーカーが、物流コストを抑えるために現地の部品供給先に切り替えます。この動きによって、中国からの部品供給が低迷するといった流れです。
③コストの増加
回答グループ | 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, % |
---|---|
製造業全体 | 37.0 |
中小企業(非製造業含む) | 30.8 |
こちらの「コスト」とは、主に原材料・部品の「調達コスト」「人件費」のことを指します。
調達コストの上昇は、物流コストの上昇の影響を受けていることが主な原因であると考えられます。調達コストが増加した結果、利益の確保が難しくなり、撤退の選択を迫られる企業が多いです。
人件費の問題については、近年では中国を含めたアジア諸国の人件費の高騰が続いていることが関わっていると言えます。アジア諸国の人件費が高騰している主な理由として、より高い収入を求める現地の低賃金労働者の海外への出稼ぎが増えていることが挙げられます。
海外進出の失敗例4選
次に実際にあった海外進出の失敗例を4つ紹介します。
失敗例1. 中国に進出したA社
現在では少なくなっていますが「競合が進出しているから」という理由だけで、よく検討せずに海外に進出し、失敗してしまうパターンがあります。2010年ごろに中国に進出したA社も、経営者が十分に現地の市場性を調査しないまま、競合が進出しているからという理由で中国に生産拠点を設け、結果的に撤退を余儀なくされています。
ポイント
一口に「中国」と言っても場所が違えば人件費も変わるため、海外進出の際は、国単位での市場調査はもちろんさらに細かい地域の調査を行い、自社の業態に見合った地域を選定することが重要だと言えます。
中国への工場設立については、こちらのインタビュー記事をご覧ください。
中国の製造業についてはこちら
失敗例2. ベトナムに進出したB社
ベトナムに進出したB社は、先ほどの例と同様に「同業他社がベトナムに進出しているから間違いないだろう」という仮説のもと、ベトナムへの海外展開を行いました。
ただこの企業は国内ではさまざまな業界に取引実績がある一方で、海外企業との取引実績は主に「ハイテク産業」が中心でした。したがって、ハイテク産業分野が発展途中のベトナムへの進出という決断は、そもそもの仮説が間違っていたということが進出してからわかりました。
ポイント
この失敗事例からわかることは、「経営者の判断で直感的に販路を決めてしまう」のはやめた方が良いということです。
参考動画
ベトナムの製造業についてはこちら
ベトナムの販売代理店開拓についてはこちら
失敗例3. ミャンマーに進出したC社
ミャンマーへ進出したC社は、ミャンマーの民主化による市場開放の流れと、これからの経済成長の可能性にかけ、ミャンマーへの進出を決断しました。
このような経済発展が著しい発展途上国は、大きなビジネスの話が舞い込む可能性もあります。一方で、大きな仕事のほとんどはインフラ整備をはじめとする建設関係の仕事、もしくは現地企業と外資系企業との合弁会社による工場建設がほとんどであるのが現実です。
したがって一中小企業であるC社は、規模が大きい現地のパートナー企業と仕事を始めようとしても、なかなか対等な関係を構築した上で仕事を進めるのが難しいという課題に直面しました。結果的にミャンマーへの進出は大きな成果を得られないまま撤退という決断を余儀なくされました。
ポイント
この事例からわかることは、大きなビジネスの話が舞い込む可能性が高い発展途上国だからという理由だけで海外進出を決めるのは、失敗に終わる可能性が高いということです。進出先の経済発展の度合いは、進出先候補として検討する上では有効な指標になりますが、最終的な判断材料としては弱いことがわかります。
ミャンマーの製造業についてはこちら
失敗例4. タイに進出したD社
2015年ごろにタイに進出したD社は、Made in Japanの高品質かつ機能的なデザインを売りにしたシステムキッチンの製造販売を行っている会社です。D社の製品の価格は国内の業界では平均程度であり、日本製の製品を日本から輸出するため現地では国内価格より2割増しの価格で販売を行っていました。すなわち現地の富裕層をターゲットにした輸出ビジネスを展開していました。
結論から言うと、この企業のビジネスはそれほど大きな成果を上げることができませんでした。大きな理由は、現地の所得分布は貧困層が圧倒的に多く、その次に富裕層には達しない中間層、最後に富裕層の順に少なくなっているからです。すなわちターゲットとする富裕層の数自体が少ないということを考慮できていませんでした。
加えて、D社が取り扱っていた製品は全て日本製であるため、現地の富裕層が好むヨーロッパ的なデザインのシステムキッチンのニーズを満たすのが難しかったことも失敗の要因に挙げられます。
ポイント
日本で通用したビジネスを海外へ持ち込んでそのまま通用する場合もありますが、そうでないケースもあるということです。すなわち事前調査をしっかりと行い、現地のターゲットと需要を明確に設定した上で進出の判断をすることが重要だと言えます。
タイの製造業についてはこちら
海外から撤退できた要因3選
次に海外からの撤退経験を有する日本企業が、撤退できた要因として挙げた3つの取り組みを紹介します。なおこれらのデータは、「中小企業による海外撤退の実態 −戦略的撤退と撤退経験の活用−」のデータを参考にしています。
それでは要因として挙げた企業の比率が高いものから順に紹介します。
①独資での進出(回答企業の比率:37.0%)
撤退できた要因として最も多く挙げられたのが、「独資での進出」です。一般に独資で法人を設立するメリットとして「製品や技術情報の流出リスクが少ない」ことや「経営の自由度が高い」ことが挙げられます。撤退の際にも、特に後者の「経営の自由度が高い」ことが有利に働くと言えます。(一方で、独資での法人設立のデメリットは、投資資金が高く、現地での販路開拓が難しいことが挙げられます。詳しくはこちらの記事をご覧してください)
一方で、合弁で法人を現地に設立する場合は、進出前の段階であらかじめ撤退の基準を明確に決めて、進出前にパートナー企業と合意形成をしておく必要があると言えます。
②撤退の決断の早さ(回答企業の比率:33.3%)
撤退できた要因として次に多かった回答項目が、「撤退の決断の早さ」です。こちらの行動は単に撤退を迫られた状況下での決断の早さだけではなく、進出時に撤退の条件を具体化しておくことが重要であると言えます。
撤退の条件の策定に加えて、以下のような事前準備も必要になると考えられます。
・税理士・会計士への相談
・パートナー企業との事前交渉
・現地従業員、現地日本人スタッフの処遇の決定
・撤退資金の調達
・現地政府、自治体との交渉
③現地パートナーの協力(回答企業の比率:30.9%)
「撤退の決断の早さ」の次に多くの回答を集めたのが、「現地パートナーの協力」です。現地パートナーとビジネス上で良好な関係を築くことは、現地で仕事の受発注を円滑に行うことに加え、撤退する上でも重要だと言えます。
現地パートナー企業との関係性の重要さを示すデータとして、2012年の中小基盤整備機構の調査を見てみると、「現地パートナー企業とのトラブル」を撤退理由として挙げた企業は全体の23.6%にのぼり、3番目に大きな理由として挙げられています。(1位は受注先、販売先の開拓・確保の困難性(27.6%)、2位は生産・品質管理の困難性(23.6%))
海外進出で失敗しないための戦略
最後に、海外進出の撤退の要因を考慮した上で、中小製造業が海外進出で失敗しないための戦略をご紹介します。今回は、弊社が主に海外進出をサポートしている「中小製造業の海外進出」に焦点を絞って戦略を説明します。
中小製造業全体の海外進出戦略
まず製造業の業種に関わらず、全体として共通の戦略を説明します。
国内の戦略を応用する
海外進出で失敗しない企業の特徴として、国内のニッチな分野で戦略を立てて成功している企業は、海外でも成功しやすいということが言えます。なぜなら、国内でも海外でも利益を上げる構造の根幹となる考え方に大きな違いはないからです。
海外進出という言葉を聞くと、世界の競合と戦うために何か特別な戦略が必要ではないか、と考えられる方が多いと思います。しかし実際は、国内の市場で生き抜くために考え抜かれた戦略が海外の市場開拓においても通じることが多いと感じます。加えてほとんどの中小製造業の場合、市場開拓にかけられる予算を考慮すると、世界的なシェアを取りに行くことは難しいため、国内で強みが活きるマーケットをそのまま海外に拡張する形が最も安全な方法であると言えます。
また、進出する上での最低条件として、質の高い製品・サービスが提供できることに加えて、独資での進出が望ましいと言えます。(理由は海外から撤退できた要因の①独資での進出を参照してください)
メーカーの海外進出戦略
次に中小製造業の中でも、メーカーの海外進出戦略を説明します。
現地語でWebサイト構築する
中小完成品メーカーが海外で自社製品を販売する場合、海外の「販売代理店」を通して自社製品を販売する方法が一般的です。
しかし、大企業に比べ、中小企業が優秀な販売店を捕まえることは難しい現実があります。理由として、優秀な販売代理店は有名企業がコンタクトをとっている可能性が高く、代理店側も売上が見込める製品、すなわち大企業の有名な製品を販売したい傾向があることが挙げられます。
この問題を解決する一つの方法として、中小完成品メーカーは、外国語(少なくとも英語と現地語)で自社製品について理解してもらえるサイトを構築することをおすすめします。外国語のWebサイトは、見込み顧客への自社および自社製品の紹介の役割もありますが、自社の製品を売ってくれる販売店の獲得を狙う意味もあります。
加えて、外国語Webサイトから候補となる販売代理店が見つかると、展示会に参加する必要性も抑えられるという副次的なメリットもあります。
営業活動に積極的に関わる
2つ目の戦略は、メーカー自身が現地での顧客開拓、クロージングに積極的に関わることです。先ほども説明したように、優秀な販売代理店は大手企業、有名企業に持っていかれてしまうおそれがあります。したがって、販売代理店に現地での顧客の発掘からクロージングまで全て任せてしまうと、成果に結びつかないケースが多いです。
したがって、現地での新規顧客開拓で失敗しないためには、少なくとも販売店が独り立ちするまでは、中小企業自らが営業活動に積極的に関わる必要があると言えます。また現地の販売代理店は、製品のメンテナンスや現地の顧客対応、現金やり取りが必要な場合に使われることが多いため、そもそも営業活動に十分な時間を確保できないケースも考えられます。
加工業の海外進出戦略
最後に加工屋の海外進出戦略を説明します。
現地の異業種と積極的に関わりを持つ
日本の加工屋が海外進出する際の主な理由の一つとして、「現地の日本企業向けの部品供給」が挙げられます。この目的での海外進出自体は問題ありませんが、現地の日本企業からの仕事が減ったときのためにリスクを分散させる仕組みを作っておくことはとても重要です。(中小企業が海外進出に失敗する3つの理由で説明したように「現地市場での売上の減少」が中小企業全体で最も大きな原因となっています)
このリスク分散の方法として、現地の異業種の企業を含めたさまざまな業界と繋がりを築いておくことが挙げられます。具体的な手法には、海外の現地企業から見つけてもらえるようなサイトを作ることが考えられます。こうすることで、現地の日本企業からもらえる仕事が減ったときに、困らなくなる仕組みを作ることができます。
したがって、加工業が海外に拠点を作る場合、現地の日本企業からの仕事を受けつつ、現地の企業からも仕事を受注できるようなマーケティング活動を同時並行で行う方法が安全であると言えます。
まとめ
本記事では、以下の内容を解説しました。
- 中小企業が海外進出する割合:年々増加傾向
- 海外進出に失敗する3つの理由:①現地での売上の減少、②輸出の低迷、③コストの増加
- 海外から撤退することができた要因3選:①独資での進出、②撤退の決断の早さ、③現地パートナー企業との協力
- 海外進出で失敗しないための戦略:中小製造業全体(国内の戦略を応用)、メーカー(現地語Webサイトの構築、営業活動への参加)、加工業(異業種との関わりを持つ)
海外進出を成功につなげるために、本記事の内容が少しでも役に立てば幸いです。
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