こんにちは、テクノポートの永井です。今回は技術者をマーケティングチームに参加させるメリットを紹介します。
マーケティングは、営業の仕事の一部というイメージを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。顧客に最も近いという意味では営業がマーケティングを担当するのは正しいのですが、顧客の理解度という点では、一概に正しいとは言えません。特に、自社の技術をマーケティングで広めていく「技術者マーケティング」においては、技術者をマーケティングチームに入れたほうが成果はでやすくなります。
今回は技術者をマーケティングチームに入れたほうがいい理由について、事例とともに紹介します。
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この記事の目次
マーケティングにはターゲットの気持ちを理解することが求められる
マーケティングの基本はターゲットの気持ちを知ることです。
BtoBの場合、ターゲットは欲しいモノではなく、必要なモノを購入する傾向にあります。技術者もほとんど同じです。ただし、技術者の場合はモノではなく、技術を求めていることが多い傾向にあります。
そのため、マーケティングを成功させるためには、ターゲットが何を求めているかを理解し、それに合わせた情報を発信しなければなりません。技術者をターゲットとする場合、技術者の気持ちを理解しなければならないのですが、技術者という特殊な職種について理解することはそう簡単ではありません。
相手の気持ちを理解する最も簡単な方法は相手に聞くことです。もちろん、ターゲットに直接聞けるわけではありませんので、ターゲットと立場が近い社内の技術者の力を借りることでこの問題は解決します。言い換えれば、技術者の気持ちを最も理解しているのは技術者なので、技術者をマーケティングチームに入れたほうが良いコンテンツが作れそうということになります。
技術を伝えるためには技術的な情報が必要
技術者は課題を解決できる技術を求めていますが、どの技術を使えばいいのか決められないケースもよくあります。
課題を解決できる技術が一種類ということは稀で、ほとんどの場合複数存在します。例えば、摩擦係数を低くしたい場合は、メッキや窒化、材料の変更、研摩などさまざまな手法が考えられます。その中から自社に最適な技術を選定し、さらに複数の企業の中から1社を選ばなければなりません。
技術を使ってもらう側は、多くの競合の中から選んでもらうために、自社の技術の伝え方を工夫しなければなりません。
工夫といっても、ただ単に自社の技術的説明だけに力を入れればいいわけではありません。技術を使う側は新しい技術を導入することに積極的な反面、警戒している部分も多くあります。例えば、下記のようなことです。
- その技術を使って本当に課題が解決できるのか?
- その技術を使って新たな課題がでてこないか?
そのため、技術を伝える際には下記のような相手を納得させる情報も伝えなければなりません。
- この技術を使って課題が解決できる説得力のあるデータ
- この技術をどのレベルで制御できているのかというデータ
このような技術的に深い情報は営業では把握しきれません。社内の技術者に協力してもらう必要があります。
技術者をマーケティングチームに入れる具体的なメリット
技術者をマーケティングチームに入れると、これまで抽象的にしか説明してなかった技術情報に対して技術的根拠が追加されます。そうすることで、自社の技術への理解度が高まり、より具体的な話をしてみたいと思ってもらえるでしょう。
このように技術者がマーケティングに携わることで「自社の技術の表現方法」が変わり、問い合わせの増加につながります。
NISSHA株式会社の事例(できる理由のイメージを伝える)
NISSHA株式会社は産業資材・ディバイス・メディカルテクノロジーの3事業を行っている企業で、さまざまな技術を持っています。今回は、曲げられるタッチパネルの技術の伝え方を紹介します。
NISSHA株式会社の技術を使うと左上の画像のよう曲げられるディスプレイを持ったスマートフォンを製造できます。ここでのポイントは、曲げられる理由をきちんと説明していることです。従来のタッチセンサーが左、新技術が右の画像になります。新技術ではディスプレイの表面が針状の粒子でできているため、曲げてもディスプレイが折れることはありません。このイラストを見た技術者は下記のような疑問を持つかもしれません。
- どれくらいまで曲げられるのか?
- 耐久性は?
- 曲げたときに針は出てこないのか?
その疑問を解決するためには、直接連絡するしかなく、興味ある技術者からの問い合わせが増えると想定できます。
例えば、この絵がなければ競合他社と技術的な区別ができないため、技術者の好奇心をくすぐることはできなかったでしょう。数値は一切入っていませんが、イラストだけで技術のコアを伝えている良い例になります。
株式会社関プレスの事例(新技術の伝え方)
次に株式会社関プレスの事例です。株式会社関プレスは下の画像のような割裂(わりさき)という技術を開発しました。割裂は読んで字の如く、素材を割りながら裂くことによって、複雑な形状を作る工法です。
この技術を見た技術者は「本当にこの技術は使えるのか?」という疑問が浮かぶはずです。他にも、下記のような疑問を持つかもしれません。
- 裂いたところのから割れが進行するのではないか?
- 強度的に大丈夫か?
株式会社関プレスは、この疑問に対して先手を打っていることにポイントがあります。裂いた点の拡大画像を掲載し、割裂が使えるかどうの判断を技術者に託しています。実際画像を見るときれいなRになっており、裂が進行することはなさそうです。また、集中応力などの懸念もありますが、この画像である程度解消されます。
割裂終了部の画像は技術者が想定してる問題を解決するためのものですが、株式会社 関プレスはそれだけではありませんでした。下の画像のような「硬度変化」のデータも同時に掲載しています。塑性変形で割っているため、硬度が変化することはよく検討すれば想像できますが、パッと見で想定できる技術者は少ないと思います。
このように想定していかなった問題を提示してもらえると「この技術について深く知っている」という印象を与えられます。技術を使う側として、相手が技術に対してどれだけ知識があるかが気になりますが、このようなデータがあれば、安心して依頼できます。さらに、株式会社 関プレスは応用例も掲載。初めの画像のような板を裂いているものだけでは、どういったところに使えるかの想像範囲が狭まってしまいます。
下の画像のように別の使い方を提案してもらうことで、想像の幅が広がり「だったらあれもできるかな?」とさまざまアイデアが出てくるでしょう。株式会社 関プレスが実践した下記のような流れで、新技術を説明しするとターゲットに伝わりやすいかもしれません。
- できること
- 懸念点を解決するデータの提示
- 想定外が難しい現象の提示
- 使い方の応用
昭和電器株式会社の事例
最後に昭和電器株式会社の事例です。昭和電器株式会社は射出成形技術を使って、金属材料から樹脂材料に変更する提案をしています。金属から樹脂に変更するときには強度や劣化などが初めに思い浮かびますが、技術的に難し点は、パーティング段差とバリを0.02以下にすることだそうです。
通常は成形後にバリを除去する工程があるのですが、昭和電器株式会社は後処理なしでパーティング段差とバリを0.02以下にすることが可能です。それを文字だけではなく、右下の画像のようにデータを出すことで表現しているのがポイントです。
材料を金属から樹脂に変更する最大のメリットは、コストを安くすることです。樹脂に変えたことで、後工程が発生するとコスト削減の意味がありません。そのため、技術者は加工工程をできるだけ少なくする技術を探しています。
昭和電器株式会社は技術者の意図を読みとった上で、測定結果を出しています。簡単な方法で大きな効果を得られるいいコンテンツの事例と言えるでしょう。
技術者にも苦手なところはある
これまで技術者をマーケティングチームに入れる大切さを紹介してきました。技術者には積極的にコンテツづくりに参加してもらいたいのですが、技術者に偏りすぎてもいけません。技術者は技術情報を伝えることは得意ですが、それ以外は苦手なこともあります。例えば、説明が論文口調で読みづらかったり、説明が詳細になりすぎて全体感が読めないようなものになるケースです。
そのため、技術者から得られる技術情報を噛み砕いて、伝え方を編集する作業は必要です。それを担えるのが営業になるため、良質なコンテンツを作るためには営業と技術者との連携が大切です。
まとめ
技術者をマーケティングチームに入れることで、技術コンテンツのレベルは格段にあがります。ぜひ技術者にもマーケティングに参加してもらってください。ただ、最後にお伝えしたように、技術者にも苦手な分野はあります。そのため、ミクロ(技術)とマクロ(営業)のバランスが大切です。
弊社はWebマーケティングと技術ライティング事業を行っています。Webマーケティングではターゲット選定から戦略立てなどのマクロな部分を。技術ライティングでは技術者からいただく情報をベースにコンテツの作成といったミクロな部分をサポートしています。
技術の広め方にお困りでしたら、ぜひテクノポートにご相談ください。他にも、技術をマーケティングするための手法をまとめていますので、こちらもご参照ください。