テクノポートの大城です。本記事では海外進出の戦略について、一例としてメーカーの各部署の役割を基に解説します。部署の区分けがない企業においても、海外進出でやるべきことについてわかりやすく解説した内容となっていますので、本記事が参考になりましたら幸いです。
本記事の想定読者:
・中小企業の経営者
・大企業の海外戦略実行担当者または推進リーダー
この記事の目次
海外進出の戦略と実施する部署を紹介
海外進出の戦略を考える上で、以下の2点が重要になります。
・海外進出で検討することをあらかじめ把握しておくこと
・リスクを洗い出し、課題をつぶしこんでおくこと
海外進出で検討することは多岐に渡るため、なかなか個人だけで進められるものではありません。特に企業の規模が大きくなる場合はチームを形成し、各部署の役割に応じて分担して進めるのが一般的な進め方となります。
以下の表は海外進出のために実施する項目と実施する部署の一例を記載したものです。現地に工場を設立し現地で部品を調達して製造販売を行うBtoB製造業を想定しています。
市場調査
海外進出の可否を決めるためには、進出を考えている国の市場を調査することが必須となります。インターネットや調査会社、インタビューなどを活用し、主に以下の情報を把握します。
- 市場規模
- 競合企業の進出状況、シェア、サプライチェーン、販売価格
- 市場ニーズ
- 進出を狙う国の法規制
主な実施部署
- 企画部
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
事業計画書作成
海外進出へのGo判断を明確にするために、事業計画書を作成します。事業計画書は社内の意思決定だけではなく、資金調達するための金融機関や投資家、株主に対しても事業の実現性の確度を宣言するための重要な資料になります。
事業計画書は、以下の内容を記載します。
- 事業の背景と目的:背景と目的の明確化
- 進出先市場の分析:PEST分析、競合分析、顧客分析
- 事業概要:進出方法(現地法人設立、合弁会社設立、代理店契約、輸出など)
- 戦略と計画:市場参入戦略、差別化ポイント、販売計画、プロモーション戦略、物流とサプライチェーン
- 財務計画:初期投資計画、収益計画、コスト構造、損益分岐点の分析
- リスクと対策:事業リスクと対策、法規制への対応
- スケジュール:進出までのマイルストーン
- 組織体制:運営メンバー、現地採用計画、支援体制
- 成功指標(KPI):短期目標、長期目標の設定
主な実施部署
- 企画部:取り纏めは企画部が行い、必要な情報提供は各部署に依頼
資金確保
海外進出において、まずどの程度資金が必要かを見積もる必要があります。事業を立ち上げる前と立ち上げた後でどの程度コストが発生するか把握するため、各部署に見積を依頼しましょう。自己資金で賄えない場合は、以下の方法で資金を調達します。
- 銀行融資
- 政府支援制度
- 現地パートナーとの提携
- 外部投資の誘致
- クラウドファンディング
- 社債発行
- 進出先国の金融機関からの調達
- 国際金融機関の利用
主な実施部署
- 経理部
現地販売店や代理店との契約
現地で販売店または代理店から製品を販売する場合は、販売店または代理店と契約する必要があります。候補となる企業が見つからない場合は、インターネットや日本貿易振興企業(JETRO)、調査会社を利用して、ターゲットとしている業界に精通し、コミュニケーションが円滑に進められ、販売実績のある販売店または代理店を探しましょう。
主な実施部署
- 企画部
現地法人設立
現地で販売店や代理店を介さずに、現地法人を設立して製品を販売するケースもあります。この場合は現地法人設立の手続きをする必要があります。手続きの方法は国によって違うため、進出国の手続き方法を確認した上、手続きを進めます。
現地法人設立の手順は、下記から調べることができます。
- 進出先国の政府機関のウェブサイト
- 現地の商工会議所
- 日本貿易振興機構(JETRO)
- 現地の法律・会計事務所
- 現地の日本人向けビジネス支援サービス
- 現地の日本大使館・領事館
- オンライン情報プラットフォーム
- 業界ネットワークや先行企業
主な実施部署
- 企画部
工場設置場所・レイアウト決定
取引先への輸送距離やサプライヤーからの調達性、政府の企業誘致などを考慮して工場を設定する場所を決めます。工場を設置する場所が決定した後は、生産する機種や台数に応じた設備の選定や工場内の生産レイアウトを検討します。
工場の設置は平地から建設する場合と、既存工場をレンタルする方法があり、資金やリスクに応じてどの方法にするかを検討します。スモールスタートで進める場合は既存工場のレンタルが考えられますが、その場合、限られたスペースにどのようにレイアウトするかが課題となります。
主な実施部署
- 製造部・品質保証部
現地採用
日本人だけで現地法人を運営するのは難しいため、従業員を現地で積極的に採用し、教育する必要があります。管理職も現地の人を採用することで、現地企業内の信頼も厚くなります。ただし、すべて現地の人が運営するのではなく、日本から管理ができるように、数名は駐在員として日本から派遣するのが一般的です。
現地の方を教育するために、日本でのマニュアルや作業標準を充実化し、なるべく俗人化をなくしておく必要があります。
主な実施部署
- 人事部
販売台数決定
市場調査による競合他社の販売実績や潜在需要を把握し、進出国の予測される成長率(CAGR)に自社の供給能力、損益分岐点を超える販売台数を踏まえて目標となる販売台数を決定します。
主な実施部署
- 営業部
販売価格決定
市場調査により競合他社の価格を把握した上で、市場要求価格を把握します。
代理店または販売店のマージンや原価から、販売価格を市場要求価格に合わせたときに粗利が成立するかどうかを事業計画の時点で判断します。もしくは最初は自社の粗利が目標に到達しない見込みであっても、キャッシュフロー上問題がない範囲内で、現地調達の推進による原価低減や市場の経済成長率から、長期的な視点で粗利(収益)が目標値に達成するシナリオを立てます。
主な実施部署
- 営業部
製品仕様決定
海外で生産する製品仕様は、まず日本で販売している機種に対してどのように変更が必要かという視点で検討が始まります。変更するコストを気にしてなるべく変更規模を減らしたいと思いますが、現地で売れる製品に仕上げるために、現地の顧客ニーズに沿った設計変更を積極的に行うとよいでしょう。
以上を意識しながら、既存製品の設計変更を行うときは、以下4つの観点で行います。変更内容が明確になったあとは設計変更に伴う信頼性への影響確認を製品開発で実施していきます。
- 競合他社に対していかに差別化できているか
- 現地のニーズに沿っているか
- 現地の規格を遵守しているか
- 利益が確保できる原価設定になっているか
特に、現地の規格については、欧州であればCE、アメリカではUL、中国ではGB規格など、各地域の規格に沿った設計変更が発生することを想定しておきます。
主な実施部署
- 設計部
サプライヤー決定
海外進出でコスト低減を図るためには、現地での部品調達比率をいかに上げることができるかがポイントとなります。市場調査の結果から競合他社が調達しているサプライヤーや、他に見込みのありそうなサプライヤーを調査し、RFQ(見積依頼書)を提出します。提示する情報として目標販売台数から短期的、長期的な発注ロットを決めておきます。
現地調達の候補となる部品は、設計部と調整して決めます。部品によっては評価が必要となり採用までの期間が長くなるものもあるため、どの部品をどのタイミング(量産開始時、または量産開始後○○年後)で採用するかを決めていきます。
選定するサプライヤーはQCDを考慮しつつ、以下の観点で決めていきます。
- 競合が採用している企業も候補にする(ある程度の信頼性を確保していると考える)
- リスク回避のため、最終的に2社購買にする
- カスタマイズの対応がしやすいサプライヤーを選定する。
早期立ち上げを優先する場合は、最初はほとんどの部品を日本から輸出し、現地で組み立てをしながら徐々に現地調達化を進め、製造コストを段階的に抑えていく戦略を取ることもあります。
主な実施部署
- 調達部
製品開発・評価
候補となるサプライヤーから部品を購入し、試作機を組み立てて評価(試験)をします。試験結果が不合格となった場合はサプライヤーや自社の設計にフィードバックし、改善案の立案、再設計、再評価のPDCAを回し、量産までに課題をつぶしこみます。
試験は、なるべく現地の生産ライン、現地の人材を活用した量産に近い形で評価したほうが予期せぬ課題のつぶしこみができますが、現地で十分な評価体制を整うまで時間がかかる場合は、日本に海外仕様の製品を輸送して、日本で試験を行う場合もあります。
主な実施部署
- 設計部、品質保証部
製造認可取得
進出先によっては、現地で指定された合格証を貼らないと製品の販売ができない場合があります。例えば中国では、「中華人民共和国製品品質法」に従い、製品または包装内に品質検査に合格したことを示す合格ラベルを添付する必要があります。製造認可取得は現地の認証代行会社やコンサルタントを利用するとスムーズに進みます。
主な実施部署
- 設計部または品質保証部
アフターサービスの方法決定
製品を納めた後に定期的に部品を交換する場合や清掃などのメンテナンスが必要な場合、現地で対応するのか、生産工場に部品または製品を送ってメンテナンスするのかを決める必要があります。日本では現地対応ができていても、海外では対応できる作業者のスキルが不足していたり、現地で作業するための設備が確保できなかったりすることがあります。そのときは生産工場に送付してリビルトを行うなどの手段を取ります。
また、定期的に交換する部品を現地で調達するのか、日本から送付するのかを決める必要があります。日本から送付する場合は、輸送費が部品費にカウントされ、競合他社にコスト面で不利になる可能性があります。
主な実施部署
- サービス部門
プロモーション
海外進出に向けたプロモーションは、進出先市場の特性や顧客層に応じた戦略的な方法を採用することが重要です。代表的なプロモーション手法としては、SEO、リスティング広告、SNS広告などのWebマーケティングの他に、現地での展示会の出展や、現地メディアを活用する手段もあります。
主な実施部署
- 営業、マーケティング部門
海外向けWebマーケティングの詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
各部署の役割
このように、さまざまな部署が同時並行して海外進出の準備を進めるため、海外進出のプロジェクトを円滑に進めるためには、海外での立ち上げ時期や海外進出の目標の認識が各部署間で一致している必要があります。また、社内で各部署の進行を取りまとめる部署も必要です。取りまとめは企画部が行うか、別部署の方をPMOとしてアサインします。PMOは定期的にミーティングを開催して海外進出の準備がどの程度進んでいるかチェックを行います。
海外進出の可否を決めるチェックリスト
海外進出におけるリスクを洗い出し、課題をつぶしこむために、以下のようなチェックリストに沿って検討を進めると良いでしょう。
1. 市場環境の評価
- 市場規模: 進出先の市場規模は十分に大きいか?
- 成長可能性: 現地市場が拡大しているか、または将来性があるか?
- 競合状況: 主な競合企業は誰か?競争は激しいか?
- ターゲット顧客: 自社製品やサービスに適した顧客層が存在するか?
- 消費者の嗜好: 現地の消費者ニーズや文化的特性に適応できるか?
2. 製品・サービスの適合性
- 現地需要との一致: 製品やサービスが現地市場のニーズを満たしているか?
- ローカライズの必要性: 言語や文化、規制に合わせた製品のカスタマイズが可能か?
- 競争優位性: 現地市場で差別化できるポイントがあるか?
3. コストと収益性の検討
- 初期投資: 設立費用、設備投資、認可取得費用は適切な範囲か?
- 運営コスト: 現地の人件費、物流コスト、税金を含む総コストは妥当か?
- 収益予測: 進出後に収益を確保できる具体的な計画があるか?
- 為替リスク: 通貨の変動リスクが収益に与える影響を考慮しているか?
4. 法規制とビジネス環境
- 進出規制: 外資企業に対する規制や参入障壁があるか?
- 税制優遇措置: 現地政府からのインセンティブや優遇制度が利用できるか?
- 法務リスク: 知的財産権の保護や契約の法的拘束力が十分か?
- 環境規制: 環境基準や製造認可への対応が可能か?
5. 現地での運営体制
- パートナーシップ: 現地で信頼できるパートナーや代理店が見つかるか?
- 人材確保: 必要なスキルを持つ現地スタッフを確保できるか?
- 物流体制: 原材料や製品を効率的に運ぶ物流ネットワークが構築可能か?
- ITとインフラ: 必要な通信や電力インフラが整っているか?
6. リスクマネジメント
- 政治リスク: 現地の政治的安定性は十分か?
- 経済リスク: インフレや為替変動などのリスクに対応できるか?
- 災害リスク: 天災や地理的リスクへの対策を講じられるか?
- 法的リスク: 現地の労働法や契約法に違反しない体制を整えられるか?
7. ブランドとマーケティング
- ブランド認知度: 自社ブランドが現地市場で認知される可能性があるか?
- マーケティング戦略: 現地特有の販売チャネルや広告手法に対応できるか?
- 競争ポジション: 現地市場でのブランド価値を向上させる施策があるか?
8. 実行可能性
- スケジュール: 進出の計画に無理がないスケジュールが設定されているか?
- リソース配分: 本社と現地のリソースが適切に配分されているか?
- 現地法人設立: 必要な手続きや許認可がスムーズに進められるか?
9. 関係者の理解と協力
- 社内合意: 経営陣や主要部門が進出に合意しているか?
- 現地コミュニティとの関係: 地元企業や住民と良好な関係を築けるか?
- 外部専門家の活用: 現地の法律や税務に詳しい専門家を活用しているか?
10. 成功の評価基準
- KPIの設定: 売上、利益率、シェアなど、進出成功の明確な基準を設定しているか?
- 継続的な改善: 進出後の運営体制や戦略を柔軟に見直せる仕組みがあるか?
このチェックリストを活用することで、海外進出のリスクを最小限に抑え、成功の可能性を高めることができます。進出可否を判断する際には、専門家や現地情報の活用も重要です。
まとめ
海外進出を検討するにあたって実施しなければいけないことと部署の分担例、海外進出を決めるチェックリストについて紹介しました。本記事が海外進出を後押しとなるような情報になりましたら幸いです。
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