こんにちは、テクノポートの永井です。
製品開発をするための「市場調査段階でのマーケティング会議」に技術者が参加することはよくありますが、新規顧客を開拓していく「販売段階でのマーケティング会議」に技術者が参加するケースは少ないと思います。しかし、販売段階でのマーケティング会議において、製品の受託加工や共同開発のようなターゲットが他社の技術者となる場合、自社の技術者がマーケティングに参加することで大きな効果を得ることができます。
今回は、自社の技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加するメリットについて紹介します。
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この記事の目次
技術者がマーケティングに消極的な理由
「技術を売るのであれば、技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加するのは当たり前だ」との考えもありますが、実情は技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加しているケースは少ないように思います。まずはその理由を技術者目線とマーケティング担当の目線で説明します。
技術者が販売段階でのマーケティング会議に消極的な理由
そもそも技術者の多くはマーケティングにあまり興味がありません。「我々の仕事は技術開発/製品開発で、仕事を取ってくるのは営業の仕事」という考えを持っている技術者も少なくないからです。
技術者に限ったことではありませんが、自分の仕事を限定し、それ以外は関わらない人も多くいます。そのため、販売段階でのマーケティング会議に参加してもらう場合はお願いベースではなく、仕事として依頼する必要があります。また、理系学部でマーケティングを積極的に教えている大学は少なく、あったとしても選択科目です。つまり、技術者はマーケティングの目的や方法など、マーケティングについての知識はあまりありません。さらに、お客様との窓口は営業が担当する事が多いため、技術者は必然的にターゲットとの接点が少なく、ターゲットが何を求めているのか深く把握できていません。
つまり、技術者が販売段階でのマーケティング会議に消極的な大きな理由は、
- 自分の仕事ではない
- 自分の得意分野ではない
と感じているからなのです。
そのため、技術者を販売段階でのマーケティング会議に参加させたい場合は
- 仕事としてマーケティングをさせる。
- マーケティングの基礎とメリットを理解してもらう。
が必要になります。
マーケティングを技術者に頼りたがらない理由
技術者が販売段階でのマーケティング会議に積極的に参加したがらないことの他にもう一つ、マーケティング担当が技術者を頼りたがらない風潮も少なからずあります。
技術情報を発信しようとした場合、技術者に意見を聞くことは大切です。ただ、技術者に説明を求めるとコア技術の説明はできるのですが、「その技術を使って何ができますか?」という質問には答えられない場合が多いです。そのため、「販売段階でのマーケティングに必要な技術情報」と「技術者から提供される技術情報」に差異が出てしまい、マーケティング担当者が技術者に相談しても意味がないと考えてしまいます。しかも、技術の事となると技術者が上から目線になるということもあります。マーケティング担当は技術を知らないから、教えてあげよう。」という考えの人とは、うまく意見交換ができないのは何となく想像がつくと思います。
また、技術情報の説明が専門的すぎる傾向もあります。普段から基礎知識を持った人と接している技術者は素人に説明する機会が少なく、マーケティング担当が説明に対して理解しきれないことも、技術者に相談したくない理由です。これらの問題は技術者を教育することで解決可能です。そのためには大きな改革が必要になりますが、技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加するメリットは大きいのでその理由について説明します。
技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加したほうが良い3つの理由
新規顧客のターゲットを技術者とした場合、「技術を知っている自社の技術者」と「お客様の気持ちを知っているマーケティング担当」が協力し合うことで、相乗効果が生まれます。今回はその中でも3つに絞って説明します。
技術者目線で技術情報を発信できる
技術者と意見交換する大きなメリットは「技術者目線の情報」を得られること「社内の技術情報」を把握できることです。技術者が知りたい情報は技術者が一番よく知っています。そのため、自社の技術を他社と差別化するためのポイントや見せ方など、技術者が知りたい情報については技術者に聞いたほうが的確です。
ただし、技術者の説明は細部にわたりがちで、そのまま資料を作成すると同業の技術者にしか伝わらない可能性があります。販売段階でのマーケティングの目的が「自社の技術を幅広い分野で使ってもらうこと」の場合は、マーケティング担当が技術を噛み砕いて、他業種の技術者にもわかるような資料を作る必要があります。
用途開発の提案力が広がる
用途開発は多くの技術系企業の課題です。用途開発は大雑把に言うと
- 自社の技術を知る
- 技術を活かせる製品を見つけること
が必要になります。詳しくはこちら:「自社の技術を使った用途開発の方法」
自社の技術情報は技術者が提供し、技術を活かせる製品の調査はマーケティング担当がすることで新しい用途開発の発想が出やすくなります。例として、表情の変わる富士山の様なグラスを開発した株式会社日翔工業を紹介します。
株式会社日翔工業は半導体やタッチパネルメーカー向けにスパッタリング加工技術を提供しているのですが、日常使う製品にこの技術を使いたいとずっと考えていました。そんなとき営業部長がお客様から一言がきかっかけで、スパッタリング加工でグラスにチタンをコーティングすることで「色の反射で表情が変わるグラス」の開発を始めることになりました。
このとき、指揮をとったのは営業部長です。営業部長は市場調査をし、この製品が世に出れば絶対に売れるという自信を持っていました。技術部は営業部長を信じて3年も間ずっと研究開発を続け、やっとの思いで製品を完成させました。いまではそのグラスは世界中の人々に使われています。
このようにマーケティング担当(ここでは営業部長)と技術部が力を合わせることで、新しい発想が生まれてきます。
顧客目線を持った技術者の育成ができる
最後に、技術者がマーケティングに参加することで、顧客目線を持った技術者を育成でき、将来的に企業の技術開発力が向上することについて紹介します。「技術 = 顧客価値・収益」です。どれだけ優れた技術を持っていたとしても、それを人々が求める製品に使用できなければ収益は上がりません。
製品開発の場合は常に技術的な課題が出てくるため、技術者はその課題だけに向き合いがちですが、実際は「顧客目線をもった技術開発」が必要になります。そのため、技術者を販売段階でのマーケティング会議に参加させることで、市場が何を求めているのかを考える機会を与えることができるようになります。
技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加することで、技術のみ固着した技術者でなく、顧客価値を考えられる技術者が増え、結果として技術開発の幅が広がり、企業として強くなるという流れができます。詳しくは谷地氏の「技術者のためのマーケティング」をご覧ください。
まとめ
技術者が販売段階でのマーケティング会議に参加することで、技術情報の発信力は格段に高まるだけではなく、企業として価値の高い技術開発ができるようになります。また、最近ではダイソンやパナソニックなどの家電製品、化粧品などでも化学式を使った具体的な根拠を説明したりするなど、BtoCの世界でも技術的な情報を掲載する広告も増えてきましたことから、技術者のマーケティングへの参加は今後も求められてくると思います。
実際に技術者に販売段階でのマーケティング会議に参加してもらうためには、数々のハードルがあると思いますが、是非挑戦してみてください。