テクノポートの渡部です。中小の製造業の事業形態として「下請けからの脱却」ということが騒がれ始めてかなりの年月が経ちますが、今までのやり方で進めていても進展は少ないと感じている経営者も少なくないと思います。また、現状の人材難ではうまくやらないと人材も採れなくなってきています。これからの時代で生き残っていくために、製造業のビジネスモデルについて、成功事例を交えながら考えてみたいと思います。
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この記事の目次
成功しているビジネスモデル8選
ビジネスモデルを分析する際には、フレームワークを活用すると取り組みが可視化できるため、ここではアンゾフの成長マトリクスで新市場・既存市場・新技術・既存技術の4象限に分けて解説します。
既存技術(製品)×既存市場
1:差別化集中:自社の技術と向き合い、既存市場を拡大させる
自社の強みやコア技術を活用して、既存の市場を拡大したり、新たなニッチな市場を開拓したりするビジネスモデルは、最もスタンダードかもしれません。これには、自社の技術を何か発展させるという考えではなくて、その技術の根本の部分を見つめ直し、どのように市場に周知させるかについての戦略が必要です。
ビジネスモデル成功事例:井山工作所有限会社
井山工作所有限会社は静岡県で複雑形状の鋳物加工をしている会社です。機械加工の中でも「複雑形状の鋳物」、しかも素材も主に「FC系」と絞ってWebマーケティングをすることで、既存市場での売り上げを拡大させています。
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既存技術(製品)×新市場
2:異業種をターゲットに設定し、顧客を増やす
ビジネスモデルの改革として、新しい市場や顧客層に製品やサービスを提供する方法です。新たな市場への展開には、自社の技術、製品やサービスを適応させる必要があります。これには、新しいターゲットに対して市場調査や競合分析などのマーケティング戦略の立案が不可欠となります。
ビジネスモデル成功事例:株式会社富士産業
株式会社富士産業は、自社の主業務である鋼材販売のPRも残しつつ、新たに事業展開していた製作金物をWebサイト上では全面的にPRしました。狙っていた設計事務所やデザイン会社などから引き合いを獲得しており、製作金物の事業部がうまくいくことで主業務である材料販売の事業の売上も伸ばしています。
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3:海外展開しグローバル企業を目指す
海外に進出することで、新たな市場や顧客へのアクセスが可能になり、ビジネスが拡大するビジネスモデルです。海外市場にビジネスのチャンスを広げる場合、異なる文化やニーズを持つ消費者からフィードバックを得ることができ、それにより製品やサービスを改善するチャンスにもなることがあります。ただし、海外進出にはつきものである言語や文化、法制度の違いなどの困難を乗り越えるためには、十分な準備とリソースが必要です。
ビジネスモデル成功事例:株式会社メルテック
株式会社メルテックは、エッチングと呼ばれる薄板の微細加工技術を保有する会社です。海外顧客をターゲットとしたWebマーケティングを行い、毎月コンスタントな問い合わせを呼び込む中で、海外顧客を獲得しています。「自社の提供価値は何なのか」、「必要とするユーザーはどこにいるのか」、「どのような課題を抱えているとが問い合わせにつながるのか」など試行錯誤しながら、成功の道筋を立てていきました。
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新技術(製品)×既存市場
4:自社の持つ課題を解決する製品やサービスを規格化・製品化する
自社の所属する製造業という業界の中で困りごとを見つけ、それを製品・サービス化することで新しいビジネスモデルを作る取り組みです。その困りごとを抱えるユーザーが自分であるならば、ユーザーのニーズを深く理解することができます。また、一般市場と比べ市場が狭く、競合が少ないことからも比較的に成功確率が高いモデルといえます。
ビジネスモデル成功事例:旭鉄工株式会社
デジタル化は現代のビジネスモデルに不可欠な要素であり、製造業でも例外ではありません。デジタル化を推進するDXの動きは以前からありましたが、コロナ禍以降その動きはさらに加速しています。デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化したり、顧客体験を向上したり、新しいビジネスモデルを生み出す一つのきっかけになります。旭鉄工株式会社はIoTを積極的に活用することで生産性を大幅に改善し、労務費を年間4億円節減することに成功しました。そのノウハウをそのまま詰め込んだシステムをパッケージ化し、200社以上の会社に導入されています。
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5:他社と協業することで事業の幅を広げる
1社だけで今後のビジネスモデルを構築することが難しい場合、他の企業や組織との連携を深めることで、新たな市場へのアクセスや共同開発、コスト削減などを模索するビジネスモデルを目指すこともあります。近年ではSNS等の発達により、他社とつながりやすくなっており、自社だけではできないことも、他社と協業することで新たな事業を生み出せるようになってきています。
ビジネスモデル成功事例:京都試作ネット
京都試作ネットは2001年の設立された、合計で30社以上からなる「試作に特化したソリューション提供サービス」を専門とするサイトです。「試作に特化したソリューション提供サービス」を専門として、クライアントからの課題解決に取り組んでおり、今では「ものづくり」だけでなく、その先の活動に向けていろいろと事業展開をしています。
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6:M&Aによる事業拡大と事業譲渡
M&A(合併・買収)は、企業が新しい市場に参入したり、新たな技術や資源を獲得したり、競争力を強化したりできるビジネスモデルです。これにより、ものづくりの枠にとらわれず、新しいビジネス領域へ進出できます。しかし、M&Aは大きな投資を伴うため、適切な計画と実施が必要です。また、逆に後継者問題で悩んでいる場合は、M&Aを受けて事業そのものを譲渡し、自社技術を後世に残していくという方法もあります。
ビジネスモデル成功事例:株式会社セイワホールディングス
株式会社セイワホールディングスは、事業承継を通じて後継者不足の課題を解決し、製造業のネットワークを作ることで、顧客に対しての幅広い提案と新しい価値提供に挑戦しています。すでにグループ会社に10社あり、世界で一番働きやすい町工場ネットワークの形成を目指しています。
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新技術(製品)×新市場
7:異業種とのコラボレーションで新たな事業をスタートさせる
京都試作ネットのように製造業との協業ではなく、異業種と組むことによって、共同で新しい製品やサービスを開発するアプローチもあります。たとえば、製造業がIT企業と協力することで、スマートファクトリーやIoT(モノのインターネット)を活用した製品開発などが可能になります。異業種とのパートナーシップは、既存の事業領域を超えて新たな市場を開拓するのに有用な手段であり、新たなビジネスモデルが生まれるきっかけにもなります。
ビジネスモデル成功事例:株式会社中村製作所
株式会社中村製作所は、リーマンショックで売り上げが大幅に落ちてしまう中、自動車メーカーや大学、飲食業など多様な業界・業種が集う展示会に出展しました。そこからつながった外部のプロダクトデザイナーと手を組むことで、新たなブランドを生み出し、今では自社ブランドとしてさまざまな自社製品を生み出しています。
8:自社製品の開発でメーカーへの道を開拓する
企業が自社の製品を開発し、メーカーとしての第一歩を踏み出すことも、新たなビジネスモデルの一つです。製品開発には市場調査、製品設計、製造、マーケティングなどの各ステップを計画的に進める必要があります。
ビジネスモデル成功事例:株式会社日翔工業
株式会社日翔工業は、自社のスパッタリング技術を応用し、チタンをナノ単位でコーティングすることによって唯一無二の光沢を放つグラスを制作しています。クラウドファンディングを何度も成功させ、さまざまなメディアにも取り上げられています。
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成功事例を鵜呑みにしてはいけない
選択バイアスの問題
メディアなどに取り上げられるのは、ビジネスモデル的に話題性やインパクトのある取り組みがほとんどです。中には、事業内容を丸ごと転換さえた加工業の事例などもあります。しかし、派手なビジネスモデルの転換にはそれ相応のリスクがつきものです。本当に着目すべきは、地味で着実な取り組みで売上を伸ばしている企業だと思いますが、そのような企業はメディアに取り上げづらいことを理解し、派手な取り組みばかりに心を奪われないようにしましょう。
確率論的な視点
成功事例というものは結果の話です。成功しているから事例になるので、失敗したら成功事例にはならず埋もれていきます。つまり、成功しているのはいくつもの企業が取り組んだ中の1事例で、何十社、何百社の失敗が埋もれている可能性があります。成功している1社だけを見るのは非常に危険です。同様の取り組みでうまくいっていない会社も調べる必要があります。取り組んでいる会社の数や、成功と失敗の分かれ目が何かを見極めることが重要です。
何をもって成功ととらえるかは当事者次第
もう一つ新たな事業やビジネスモデルに取り組む際に重要なことがあります。それは成功の定義や、目的です。例えば、一般消費者向けに仮にアウトドアキャンプ製品開発を行うとした際に、その製品がたくさん売れて1事業として成立し、会社のひとつの柱になることが、理想的なゴール(目的)だと思います。ただ、それを目的として、仮に年間5,000万を売上目標に設定すると、実際にうまくいっている会社はほんの一握りとなるでしょう。ただ、その取り組みの意図や目的を細かに設定することで、より現実的な取り組みとすることができます。
例としては下記のような目的や意図があります。
社内教育・活性化
社内でのコミュニケーションを活性化させたい。アイディア発想や製品開発のノウハウを獲得したい。マーケティングや流通の流れを知りたい。
新たな顧客獲得
自社製品を作る技術をPRすることで、関連した製品のOEMやオーダーメイドでの問い合わせを呼び込みたい。
背景にある目的や意図を明確化させ、ハードルの低い途中ゴールをいくつか設定することで、モチベーションを継続させ、新しいビジネスモデルを継続させることが可能になります。
おすすめの取り組み順序
自社の持っている経営資源を生かし、新たなモデルを作ることがリスクの少ない取り組みといえます。その場合のおすすめ検討順序は以下の通りです。
- 既存市場×既存技術
既存の領域で顧客獲得数増加・顧客単価アップの方法を検討 - 新規市場×既存技術
既存技術を活かし新市場開拓ができないかを検討
既存技術を活かす形のため、低コスト低リスクでの売上向上が見込める - 既存市場×新規技術
既存市場に対し提供できる新たな価値がないかを検討
(新技術や新製品開発にはコストと労力がかかるため、パートナー開拓も含めた検討が必要) - 新規市場×新規技術
一般消費者向けの製品開発など
魅力がある取り組みだが、リスクも高いため、それを理解の上で検討
まとめ
いかがだったしょうか。将来のためにビジネスモデルを確立させると一口に言っても、そのモデルは無数にあります。今回紹介した成功しているビジネスモデルはあくまでも一例ですが、自社の今後のビジネスモデルの参考になるものがあれば幸いです。
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