テクノポートの廣常です。WebサイトにおけるTOPページ=企業を印象付ける上で重要なページではありますが、中でも金属加工や樹脂成形などといった受託加工業の方の場合、「どのような訴求をすれば良いか」と悩むことはないでしょうか?よく弊社にも「(尖った技術ではなく)汎用的な加工技術なため、訴求方法がわからない」「PRできるような自社製品も無い」などとご相談をいただくことがあります。
一方で、広く仕事を取るために「なんでも加工できます」といった訴求をしてしまうと、強みがぼやけてしまい逆に問い合わせ獲得を逃してしまうことも考えられるため、ある程度絞り込んだ強みの訴求は不可欠です。当記事ではこうした受託加工業の方向けに、TOPページで打ち出すべき「訴求軸」の事例と、自社の軸の決め方をお伝えします。
この記事の目次
想定される訴求軸
まずはどんな訴求軸が想定されるかをイメージいただくために、いくつか事例を紹介します。
1. 加工技術
例)株式会社北進

引用元:株式会社北進Webサイト
保有している技術を全面に打ち出していく方法です。北進様のWebサイトTOPページでは、メッキ前の不動態化処理や、溶接痕を取り除く工程である「酸洗い」技術をメインに紹介する構成としています。同じ技術を持っている企業が少なくニッチであったり、特殊な技術を持たれている場合におすすめです。まさにその加工法を探しているユーザーにとって刺さりやすくなります。
2. 加工部品
例)株式会社協友製作所

引用元:株式会社協友製作所Webサイト
自社の技術を活用して最終的にどんな部品を作っているのかをメインに伝える方法です。協友製作所樣のWebサイトTOPページでは、「バッキングプレート」や「コールドプレート」など自社の中でも特徴的な加工品を冒頭で紹介し、その後に保有技術として摩擦攪拌接合技術(FSW)や溶接技術を伝えています。実績の多いもの、あるいは今後引き合い獲得を狙っていきたい加工品がある場合はこのように前に出して訴求し、その後に加工力の裏付けとして保有技術、生産体制を伝えていく流れが効果的です。
3. 対応材質
例)昭和電器株式会社

引用元:昭和電器株式会社Webサイト
特定の材質に絞った訴求をする方法です。昭和電器樣のWebサイトのTOPページでは、エンジニアリングプラスチックの中でも成形難易度が非常に高い「PPS樹脂の成形」にターゲットを絞った内容となっています。他社が嫌がる材質や特殊なノウハウが必要な材質は強力な差別化となるため、このように材質を絞った訴求も一つの手立てとなります。
4. サイズ
例)新硬クローム工業株式会社

保有設備の対応サイズ、あるいは加工できる部品のサイズを主に示す方法です。新硬クローム工業樣のWebサイトTOPページでは、「国内最大級の大型めっき槽を保有」と冒頭に打ち出し、中型〜大型のめっきが強みだということが訴求されています。小物〜大物まで広く対応される企業様の場合、「あらゆるサイズに対応」と幅広さをアピールしていくのも良いですが、その中でも「得意サイズ」としてなるべく絞った見せ方にしていく方が近いサイズでの問い合わせ獲得につながりやすくなります。
5. 品質・精度
例)株式会社サンコー技研

引用元:株式会社サンコー技研Webサイト
品質や精度の良さを全面に出していく方法です。サンコー技研様のWebサイトTOPページでは、「ロボットによる超微細位置決め ±1μm精度」として精度の高さを訴求しています。半導体や光学機器、医療など特に品質や精度が求められる業界をターゲットにする場合に有効です。訴求だけではなく、実際の加工事例や、高品質・高精度を支える設備や品質管理体制についても併せて掲載することによってより説得力のあるTOPページに作り上げることが可能となります。
6. 業界
例)ピーエヌ機電

引用元:株式会社ピーエヌ機電Webサイト
特定の業界に特化していることを示す方法です。ピーエヌ機電樣のWebサイトTOPページでは、JIS Q 9100を保有し「航空機産業の一翼を担うものづくり」として業界を絞った訴求内容になっています。業界を絞った訴求にすることで、その業界特有の商習慣や法規制への理解がある安心感を与えることが可能です。保有資格やその業界に合わせた取り組みについても忘れずに掲載をしておきましょう。
7. 対応スピード
例)有限会社ユニバーサル

引用元:有限会社ユニバーサルWebサイト
問い合わせ受領後の見積もり回答や、納期などの対応スピードの速さを伝える方法です。ユニバーサル様のWebサイトTOPページでは「小ロット試作加工 平均納期7日間」と具体的な日付感とともに、スピーディーな対応力を示しています。開発リードタイムを短縮したい設計開発者や、急ぎで調達したい購買担当者に刺さりやすい内容です。
8. コスト
例)株式会社マルイチマシン

引用元:株式会社マルイチマシンWebサイト
※弊社お客様ではございません
低コストを打ち出していく方法です。マルイチマシン様のWebサイトTOPページでは、「一番いいものを一番安く」といった訴求に加え、実際の費用感がイメージできるよう部品写真と概算費が具体的に掲載されています。コストは加工先を選定する上で重要な要素の一つであるため、問い合わせをせずとも大まかな費用感が分かるような内容にしておくと、ユーザーにとって大きな安心材料となります。
【3STEP】自社の訴求軸の決め方
事例を見た上で、自社の訴求軸をどのような内容にすべきか、3つのステップで考えていきます。
1. 自社のできることを整理
いきなり自社の強みから考えるのではなく、まず自社の技術やリソースの整理を行います。整理する際に弊社では「MFTフレームワーク」を活用しています。
※“MFT”は、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの登録商標です。

多くの企業様が「T(技術)」を主軸として考えがちですが、それだけでは顧客に価値が伝わりにくい場合があります。自社の保有技術や設備が、「どんな価値を提供できるのか」「どこで活用できるのか」というところまで言語化をしてみると、よりわかりやすく自社の特徴を表すことができます。
2. 顧客評価や業界実績を洗い出し
自社が「売りたい強み」と、顧客が「感じている強み」は往々にして異なることがあります。このズレを修正するために、過去の受注実績や顧客の声を分析してみましょう。自社への発注の決め手となった要素や、その後リピートして依頼をしてもらえている背景などを聞いてみると、自社で想定していなかった強みがでてくるかもしれません。
顧客へのヒアリング内容例
- 発注の決め手:自社に加工依頼をしてくれた理由、他社と比較した際に感じた特長
- リピート理由:なぜ長年取引してくれているのか?(技術力以外に、「検査データが完璧だから」「梱包が丁寧で傷がないから」といった周辺要素が理由の場合もあります)
- QCD関連の印象:品質やコスト、納期に関する印象はどうか
- 対応力:図面で不具合があった場合などの提案力や、担当者の対応、スピードはどうか
- 今後の要望:今後自社へ依頼したい加工品や、要望がないか
「1. 自社のできることを整理」で整理した内容と、これら顧客の評価を掛け合わせることで、事実ベースの強みを再定義していきます。
3. 一点突破 or 掛け合わせで訴求
整理した強みをもとに、最終的なキャッチコピーやデザインの方向性を決定します。
一点突破型の訴求
他社と比べて圧倒的に優位な技術を有していたり、業界シェアNo.1を占めているなど、明らかな強みがある場合はその一点を全面に打ち出したTOP構成が効果的です。その強さを支える技術力や生産体制、事例と併せてストレートに表現することで、競合他社に流させずに問い合わせ獲得を狙いにいきます。
ただし、こうした一点突破型の場合は問い合わせ獲得につながりやすい反面、逆にその内容に近い案件しか相談が来ないという状況に陥ることもあるため、打ち出していく方向性に対して市場規模が十分にありそうかどうかは事前の検討が必要です。
掛け合わせ型の訴求
一つ一つの強みを組み合わせることで独自性を出す手法です。 多くの中小製造業にとってはこちらの方が現実的かつ有効な戦略となります。整理した強みの中で代表的なものを2〜3つピックアップし、掛け合わせることで自社ならではの強みを出していきます。
【技術 × 業界】: 「旋盤加工」×「航空宇宙」= 航空機部品専門の旋盤加工
【材質 × サイズ】: 「インコネル」×「長尺」= 難削材の長尺シャフト加工
【スピード × 精度】: 「短納期」×「高精度」= 納期に間に合わせつつ高精度加工を実現する特急対応
強みの考え方については以下記事もございますので、ぜひご参照ください。
重要なのは「絞る勇気」
あれもこれもと要素を詰め込むと、掛け合わせではなく単なる羅列になってしまい、せっかくの訴求力が分散してしまいます。 「当社は〇〇業界の、〇〇にお困りの方に、〇〇の加工を手掛ける会社です」とTOPページの早い段階で明示し、ターゲット顧客がその内容を見た瞬間に「ここであればXX部品の依頼ができる」と思えるまで軸を絞り込むことが成功の鍵です。
