製造業のデジタルマーケティング戦略 / 施策 / 事例を専門家が解説

【執筆者紹介】徳山 正康
この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
精密板金企業が「Webでの引き合い」を売上につなげることができた、たった一つの理由(ビジネス+IT)
製造業のSEO対策を基礎から解説、「加工事例」が超重要なワケとは(ビジネス+IT)
製造業の「技術マーケティング」戦略、事例で読み解く自社技術の可能性を広げる方法(ビジネス+IT)
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製造業では新規顧客との接点を持つことが難しいため、デジタルマーケティングは有効な新規顧客獲得手段です。それに加え、技術や製品の新たな用途の発見や、専門領域内でのブランディング確立など、多様な効果が期待できます。

しかし、デジタルマーケティングのノウハウはBtoC向けの情報が多く、製造業に特化した情報が不足しているため、誤った施策に走る危険もあります。成功のためには、自社の課題や目的に合った施策の選定と、専門的な知識の習得が不可欠です。

本記事では、こうした課題に対応するために、製造業者がデジタルマーケティングを進める際の基本的な考え方や具体的な戦略・施策・事例を紹介しています。導入初期の企業や成果に悩む企業にとって、有益な内容となっています。

デジタルマーケティング戦略を策定するための3つの事前準備

戦略を策定するための事前準備として、ターゲット顧客の解像度を高め、どのような戦略を選定すべきかを考えるために「購買フローマップ」を作ることをおすすめします。ここでは、購買フローマップ作成の進め方について解説します。

事前準備1 ターゲット顧客の分析

購買フローマップを作成するための最初の一歩は「ターゲット顧客の分析」です。ターゲット顧客は、抽象的すぎると解像度が高まらず、具体的な施策の立案に至らないことがありますので、必ずマーケティング対象とする技術や製品ごとに設定してください。同じ技術や製品でも、使用される業界やニーズが大きく異なる場合は、顧客属性ごとにターゲット設定するようにしてください。

購買フローマップを作成する際に、ターゲット顧客がどのような検索キーワードを使って情報収集を行うか、といった問いに答えられないといけないため、属性情報だけでなく情報探索時における課題やニーズもまとめておきましょう。ターゲット顧客が情報探索時に使用する検索キーワードは、求める機能や用途、解決したい課題など、さまざまな視点が検索キーワードに盛り込まれます。そのため、ターゲット顧客を設定する際に解像度をどれだけ上げられるかが重要となります。

ターゲット顧客の情報のまとめ例

事前準備2 購買フローマップを作成する

購買フローマップは、顧客が情報収集から購買に至るまでの行動や関心を段階的に可視化するツールです。製造業のマーケティング活動において最も重要な「購買タイミングを掴む」ためには必要不可欠なツールとなります。

BtoB製造業では商材が高額かつ導入リスクが高いため、購買検討が長期化しやすく、計画的かつ慎重な意思決定が行われるのが特徴です。そのため、BtoCのような衝動買いはほぼ発生しません。この特性を踏まえると、顧客の購買プロセスを正確に把握し、最適なタイミングでアプローチすることがマーケティング成功の鍵となります。

購買フローマップの作成方法については以下をご覧ください。

購買フローマップのまとめ例

購買段階ごとのユーザーの関心ごとや使用する検索キーワードをまとめることで、以下のようなことが可能になります。

  • 集客したい購買段階のユーザーを狙い撃ちできる
  • ユーザーの購買段階に応じた適切なSEO対策ができる
  • ユーザーが持っている関心ごとに合わせたコンテンツ制作(ホワイトペーパー、ウェビナーなど)ができる

事前準備3 現状と理想とのギャップを確認する

購買フローマップが完成したら、まずは現在実施している施策を各段階に当てはめ、理想的な状態とのギャップを明確にします。多くの製造業では、部分的で場当たり的なデジタルマーケティング施策に留まっており、全体像を把握できていないケースが少なくありません。

そのため、現状で獲得できているユーザー層や、抜け落ちている施策を可視化したうえで、戦略を再構築することが重要です。こうしたプロセスを経ることで、より効率的かつ効果的にデジタルマーケティングを推進することが可能になります。

現状と理想のギャップをまとめた例(青枠が現状を表し、赤枠が抜け落ちている施策を表しています)

 

デジタルマーケティング戦略と施策を3つのフェーズで解説

事前準備が整ったところで、次に具体的なデジタルマーケティングの進め方をご紹介します。デジタルマーケティング戦略は、購買フローマップのどの段階にいるユーザーをターゲットとするかによって大きく異なり、それに応じて実施すべき施策も変わります。特に、費用対効果が高く、短期的な成果が見込める戦略から優先的に取り組むことが効果的です。

ここでは、マーケティング活動を3つのフェーズに分けて施策を展開していく方法をご紹介します。

第1フェーズ:商談化直結ユーザーを集中的に獲得する

第1フェーズでは、購買フローの後半に位置する「本格的な製品・技術の選定段階」に入ったユーザーの獲得に注力します。
この段階のユーザーは購買意欲が高く、商談化の可能性も高いため、費用対効果の最も高い戦略といえます。また、リード獲得後のナーチャリング(育成)も不要なケースが多く、短期的に成果を上げやすいのが特長です。

ユーザー集客施策

購買フロー後半にいるユーザーが検索するキーワードを中心にSEO対策を実施し、加えてリスティング広告を集中的に投下します。購買意欲の高い層に効率よくアプローチすることが目的です。

リード獲得施策

具体的な製品情報を求めるユーザーに対し、製品カタログ、料金表、データシートなどのダウンロード資料を用意し、リードの獲得につなげます。

メリット

  • 短期間で成果を出しやすい
  • 集客施策のみでも一定の効果が見込める

デメリット

  • 対象となるユーザー数(母数)が限られるため、リード数には上限がある

第2フェーズ:課題解決のための情報収集段階ユーザーの獲得

第2フェーズでは、購買フローの中盤にあたる「課題解決のための情報収集段階」のユーザーへとターゲットを広げます。この層のユーザーは、すぐに商談化する可能性は低いものの、まだ競合他社と接点を持っていないケースが多いため、早期に関係性を築ければ優位に立つことができます。

また、この段階のユーザーは解決策を模索している段階にあるため、新製品や認知度の低い技術の認知拡大に効果的です。加えて、技術の新たな用途を見出す「用途開発」のきっかけにもつながりやすいという利点もあります。

ユーザー集客施策

第1フェーズの施策に加えて、購買フロー中盤のユーザーが使用する検索キーワードに対するSEO対策・リスティング広告を行ったり、ディスプレイ広告やSNS広告などを使い、幅広い接触の創出を図ります。

リード獲得施策

ホワイトペーパーなど、情報収集中のユーザーが関心を持つ資料をダウンロードコンテンツとして提供します。

商談化施策(インサイドセールス)

メルマガ配信で情報接触の機会を増やし、定期的にウェビナーを開催することで、商談化の機会を創出します。また、MA(マーケティングオートメーション)を活用し、HOTリードに対してメールや電話でアプローチします。

メリット

  • 情報収集中のユーザーと早期に接点を持つことで、競合他社より先行した関係構築が可能
  • 新製品・技術の認知拡大や用途開発にもつながる

デメリット

  • インサイドセールスを組み合わせないと、リードの質が低く、商談化に結びつかない可能性が高い

第3フェーズ:日常の情報収集段階ユーザーへのブランディング活動

第3フェーズでは、購買フローの序盤にあたる「日常的な情報収集段階」のユーザーへとターゲットをさらに広げ、認知の拡大を図る戦略です。

このフェーズは、第1・第2フェーズがある程度実行できていることが前提となります。そのうえで、潜在顧客の獲得や、技術・製品のブランディングを目的として実施します。目的は、ユーザーが課題を抱えたときに「第一想起される存在」となることです。さまざまなメディアをつうじた情報発信により、ユーザーが情報と接触する機会を増やし、信頼や認知を蓄積していきます。

ユーザー集客施策

第1・第2フェーズの施策に加え、第3フェーズでは主に「認知の拡大」を目的とした取り組みを行います。ユーザー集客においては、購買フロー前半のユーザーが使用する検索キーワードに対するSEO対策を行うほか、SNSアカウントの継続的な運用、YouTube動画の配信、さらにはプレスリリースの発信など、幅広い情報発信を通じて潜在層への接触機会を増やします。

リード獲得施策

ホワイトペーパーや調査レポートなど、情報収集段階のユーザーの興味を引くダウンロード資料を設置し、加えて業界関連のカンファレンスなどのイベントを開催することで、より直接的な接点を創出します。

商談化施策(インサイドセールス)

メルマガ配信やウェビナー開催を通じて継続的な関係性を築きつつ、マーケティングオートメーション(MA)を活用して、ユーザーが課題を認識し情報収集を開始したタイミングで、メールや電話による的確なアプローチを行うことが重要です。

メリット

  • 顧客に課題が生じた際、解決手段として第一に想起される可能性が高まる
  • 長期的なブランド構築や潜在顧客層の育成に効果的

デメリット

  • ターゲットとなるのは基本的に潜在ニーズ層であり、すぐに商談化につながるケースは少ない
  • 成果が出るまでに時間を要するため、中長期的な視点で取り組む必要がある

デジタルマーケティングの戦略事例5選

ここでは弊社顧客のデジタルマーケティングの戦略事例をご紹介します。

効率的な新規顧客獲得活動を実現

スペックジャパン出典:スペック・ジャパン

デジタルマーケティング戦略

  • マグネットポンプの中でも自社の得意領域に絞った相性の良い見込顧客を開拓する
  • 製品の購買基準が定まっていない、購買フローの早い段階に位置する見込顧客を獲得することで、競合他社との相見積もりを避ける
  • 市場における認知度向上

施策の内容

  • 「マグネットポンプ」といったビッグキーワードではなく、「水封式真空ポンプ」など自社が得意とする領域の製品名キーワードを中心にSEO対策を実施
  • 購買フローにおける「技術課題を解決するための情報種集を行っている段階」の見込顧客からの流入が増えるよう、FAQコンテンツを活用したSEO対策を実施
  • 幅広い視点からWebコンテンツを制作することで、多くの見込顧客にWebサイトへ足を運んでもらい、市場における認知度を向上させた

成果

自社と相性の良く、質の高い見込顧客の獲得に成功。「このような用途で使いたいのだけど、それに適した製品ありますか?」「このような仕様・条件に適した製品ありますか?」といった、購買基準が明確になっていない段階の見込顧客からの問い合わせを獲得することで、営業による受注率が向上しました。

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技術の新たな用途開発につなげる

NISSHA出典:NISSHA株式会社

デジタルマーケティング戦略

  • 自動車業界向けに開発された摩擦・せん断力センサーを、他の有望な分野へ用途展開させる
  • 新規見込顧客の獲得だけではなく、該当技術の新たな用途候補のアイディア収集を目指す

施策の内容

  • Webコンテンツを多角的な視点から制作するために、MFTフレームワークで技術を棚卸しを実施
  • 技術紹介を行うためのオウンドメディアを構築
  • 多方面の技術者へ技術を知ってもらうために、SEOを目的としたWebコンテンツの制作やWeb広告を実施
  • アクセスデータと問い合わせ内容を分析し、用途仮説の立案・検証を繰り返す

成果

用途開発を目的としたデジタルマーケティングにより、自動車業界以外の有望な用途としてロボット業界を見出し、当業界向けの技術開発を本格展開するに至りました。

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保有リード最大化のためのコンテンツマーケティング

荒川技研出典:荒川技研株式会社

デジタルマーケティング戦略

  • ニッチな材料名を中心にキーワード対策することで、競合他社との競争を避けながらリードを効率的に獲得する
  • KPIをリード獲得数に設定し、まずは保有リードをできる限り増やす
  • 保有したリードをメールマガジンなどで育成し案件化していく、Webに掲載するコンテンツをメールマガジンに二次利用することでコストを抑える

施策の内容

  • 小ロット・試作をメインとするユーザーにターゲットを絞り、どのようなタイミングやキーワードで検索をするのかを購買フローマップにまとめる
  • 難加工となる樹脂材質などを中心にSEO対策を実施することで、効率的に新規サプライヤーを探す発注企業を開拓
  • 加工に詳しくない人にも興味を持ってもらえるように、並行してコンテンツマーケティングおよびメールマガジンにて樹脂加工初心者に対して有益な情報提供を行う

成果

問い合わせは毎日のように来る状態。リードの獲得が急増しただけでなく、アクリル可視化などの狙った得意領域での顧客獲得にも成功しました。受注率は決して高くありませんが、一度商談した見込顧客は価格感なども伝わっているため、メールマガジンなどをきっかけに再商談となった際の受注が効率的に行えています。

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製品ごとの購買フローマップを作成し施策を実施

出典:株式会社山善

デジタルマーケティング戦略

  • リード数よりも商談化率や受注率を重視する戦略を策定
  • ウェビナーやメルマガ施策を行っていたが、商談化率が悪かったため購買フロー後半のユーザーへターゲットを転換
  • 取扱製品が多くあったため、優先順位をつけて製品ごとに購買フローマップを作成

施策の内容

  • 製品紹介ページ(LP)では、購買フロー後半のユーザーが使いそうな製品名キーワードを中心にSEO対策を実施
  • 製品LPの集客を補足する形で購買フロー中盤のユーザーを狙った技術コラムにてSEO対策を実施
  • 問い合わせ率向上のために製品ごとにダウンロード資料を作成

成果

250件をKPIに設定していた年間250件のリード獲得目標を年度内に達成できる見込みとなりました。また、SEO施策により獲得できる案件の商談化率および受注確率が高く、最終的な目標である年間新規獲得売上である5億円に関しても達成の見込みが出てきています。

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海外顧客獲得のためのデジタルマーケティング

出典:株式会社メルテック

デジタルマーケティング戦略

  • 国内マーケティングでは「エッチング加工」全般をPRしていたが、海外マーケティングでは製品としての優位性が担保できそうな「エンコーダ用スケール」にターゲットを限定
  • 海外マーケティングはテスト段階であったため、まずはどの地域にニーズがあるのかを調査する目的もあり
  • 全世界向けに情報発信するため、国内で使用していた国別ドメインではなく、トップレベルドメインである「.com」を活用することで全世界のユーザーへリーチ

施策の内容

  • トップレベルドメインを使った英語サイトへ全面的にリニューアル
  • 海外で製品がどのような英語名で呼ばれているのかの調査、製品に関する情報の加筆・修正、翻訳の修正、海外の競合調査、潜在顧客の需要調査などをきめ細やかに実施
  • 認知度の向上を目的とした「リスティング広告の運用」と継続的に案件を獲得するための「SEO対策」を集客施策として採用

成果

リニューアル前はほとんどお問い合わせがない状況でしたが、リニューアル後はさまざまな国の企業から問い合わせをコンスタントに獲得できるようになりました。海外の顧客からの需要を調査するという目的も、ヨーロッパ(フランス、イギリス)、アメリカ、カナダの企業からの問い合わせが来ているため、ある程度達成ができたと考えています。

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製造業のデジタルマーケティング支援ならテクノポートへ

テクノポートは、BtoB製造業を専門としたデジタルマーケティングの支援を行っています。1,200社を超えるクライアントへの支援実績と経験を活かし、貴社のマーケティング活動をさらに前進させることをお約束します。

  • デジタルマーケティングを始めたいけれど、どこから手をつければよいかわからない
  • いろいろと施策を講じているがなかなか成果に結びつかない
  • 一通りの成果は出せているが、さらに成果を伸ばしたい

とお悩みの方は、お気軽にコンタクトフォームよりご相談ください。

この記事の執筆者
徳山 正康
テクノポート株式会社 代表取締役

製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手がけるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から東証プライム市場に上場しているメーカーまで、累計1,000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。

グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家

【寄稿実績】
間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(MONOist)
精密板金企業が「Webでの引き合い」を売上につなげることができた、たった一つの理由(ビジネス+IT)
製造業のSEO対策を基礎から解説、「加工事例」が超重要なワケとは(ビジネス+IT)
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